「インド映画」「ボリウッド」と聞くと、大勢の人々が出てきて登場人物たちが歌い踊る喜劇…と想像される方もいるかもしれません。しかし、それはいまや昔の話。日本では2019年10月に公開されたインド映画『ガリーボーイ』は、実在するムンバイ出身のラッパーNaezyとDevineの半生を基に作られました。演出にラップ音楽が多用されており、通常のミュージカル映画とはまた違った魅力を発見することができます。今回は現在Amazonプライムでも観ることができる映画『ガリーボーイ』を紹介します。

実在するラッパーの半生を描いたラップ・ミュージカル映画

舞台はインド最大の都市、ムンバイ。青年ムラードは、アジア最大のスラムと言われるダラヴィ地区で生まれ育ち、翌年に卒業を控える大学生。彼の両親は貧しいながらも、ムラードをスラムから脱出させようと大学へ通わせていますが、当の本人は悪友たちや、医者を父に持つ彼女と遊ぶ毎日。人生を半ば諦めかけていたある日、大学でフリースタイルラップを披露していたMCシェールのパフォーマンスに衝撃を受け、ラップの虜になったムラードは、MC シェールや彼の仲間たちと交流を持つようになります。

MCシェールから歌詞の才能を指摘されたムラードは、インドの超格差社会の中で感じた想いを歌詞として書き止め、MCシェールらのサポートを受けて「ガリーボーイ」という名前で自身のパフォーマンスをYouTubeにアップ。すると、その動画が好評となり、ムラードはラッパーとして活動していくようになります。両親や仕事、彼女との恋など、迫りくる葛藤の中、世界的ラッパー・ナズのオープニングパフォーマンスをかけたフリースタイルラップの大会に参加することを決意します。

ラップで演出される、登場人物たちが生きる今

今回の物語の重要なキーとなる「ラップ」。インドでは映画音楽が主流で、ラップはアンダーグラウンドな文化でした。そのため『ガリーボーイ』の制作に際し、ラッパーの他、ヒューマンビートボックス、作詞家、音楽プロデューサーなど総勢54名もの新人アーティストが参加して、劇中に使用される音楽が作られました。参加したアーティストは活動を続け、インド国内で第二の波と言われるほどにヒップホップ音楽自体が人気になったといわれています。

インドのヒップホップに関して、『ガリーボーイ』の監督、ゾーヤー・アクタルさんは次のような特徴をあげています。「自分の人生に起きたことを正直に歌っている。つまり、彼ら以外の誰にもできないラップ、というのがユニークな点ですね」。(引用:スラム暮らしの青年がラップで下克上! 驚きの実話『ガリーボーイ』監督と脚本家が語る【前編】(2019))登場人物たちの内面や気持ちなどを言葉で訴えることによって、物語がより多角的にみえるラップ。ディズニープラスで配信中のミュージカル『ハミルトン』や、2022年2月に古川雄大さん主演で上演された舞台『シラノ・ド・ベルジュラック』などにも多用されており、新たな表現方法としてよりメジャーになっていくかもしれません。

おむ

インド版「8 Mile」とも評された今作。日本版の字幕の監修はいとうせいこうさんが務められており、ラップ部分も本来のニュアンスを感じながら楽しむことが出来ますので、「ミュージカル映画は苦手」という方でも楽しむことができるのではないでしょうか?