20年に公演を予定していたものの、新型コロナウイルスの感染拡大で全公演が中止した『ミス・サイゴン』。7月29日、日本初演30周年として満を持してキャストが再集結!今回は作品をもっと深く知るために、『ミス・サイゴン』の舞台となったベトナム戦争についてご紹介します。

代理戦争の終わり サイゴン陥落

1975年4月30日、午前11時32分。「南ベトナム政府全面降伏を声明」というテロップが、日本のお茶の間に流れました。ベトナム戦争が終わりを告げた瞬間です。北ベトナム軍の戦車が南ベトナム軍のアメリカ大使館に突っ込み、北ベトナム軍の旗が立てられたそのとき、南ベトナムの首都サイゴンは陥落したのです。そしてこれは同時に、アメリカ軍が敗北した瞬間でもありました。

ベトナム戦争が今に至るまで語り継がれる最も大きな理由は、この戦争がただのベトナム国内の戦争だったからではなく、実のところソ連とアメリカの冷戦を背景にした代理戦争だったからです。アメリカを中心とする資本主義国家が支援する南ベトナム。ソ連を中心とする社会主義国家が支援する北ベトナム。戦う理由として大義を掲げた大国は、何を思っていたのでしょうか。

この戦争の犠牲者は誰か

『ミス・サイゴン』が直面するのは、アメリカ軍と南ベトナム市民の軋轢と、そして夢です。ベトナム人であるヒロインのキムを愛し、そしてサイゴン陥落でアメリカに帰らざるを得なくなってしまった米兵のクリス。きっとクリスが迎えに来てくれると信じるキムをよそに、別の女性と結婚してしまう彼は、代理戦争の経緯もあり、ただの身勝手な男と見られがちです。

しかし、本当に彼は身勝手なのでしょうか。長く辛いベトナム戦争は、前線で戦う兵士自身の心にも深い傷を残しています。帰国しても母国の反戦運動の影響で歓迎すらされない。現在も後遺症が残る人もいるといいます。そんな彼らも、戦争の犠牲者の一人であることに、間違いありません。

作品の時代背景、当時の人々を知ることで、さらに作品への理解を深め、多角的な視点で作品と向き合うことができます。戦争がもたらしたものは何か。今の時代にも共通するテーマを投げかけてくる作品です。『ミス・サイゴン』の作品についてはこちら

Asa

クリス役を務める小野田龍之介さんは「『今までクリスはひどい男だと思っていたけれど、この時代を生きた若者の選択として仕方なかった』と思ってもらえるような引っ掛かりの要素をもっと増やしたい」とコメントしています。ヒロインに感情移入するのみならず、背景を踏まえてそれぞれのキャラクターをよく見てみれば、そこには新しい解釈が見えてくるかもしれません。