2020年に中止になってしまったミュージカル『ヘアスプレー』が9月17日に復活公演が開幕!今回は楽曲に込められているメッセージを読み解いていこうと思います。ミュージカル『ヘアスプレー』についてはこちらの記事をチェック!

明るく自分らしく生きる、トレイシーのパワー

ミュージカル『ヘアスプレー』は、1988年の映画『ヘアスプレー』をもとに、2002年にブロードウェイで開幕し、トニー賞12部門ノミネート8部門受賞した人気ミュージカルです。2007年にはこのミュージカルをベースに再び映画化され、世界中で大ヒット!ジョン・トラボルタが主人公の母親を演じたことや、ザック・エフロンの出演で話題になりました。

9月17日に開幕する初の日本版の上演は、主演・トレイシー役に渡辺直美さん、母親・エドナ役に山口祐一郎さんを迎えての上演で注目を集めています。

『ヘアスプレー』の舞台は1960年代のアメリカ。ボルティモア州に住むトレイシーは、ダンスが大好きでちょっぴりビッグサイズな女の子です。トレイシーは、大人気のテレビダンス番組「コーニー・コリンズ・ショー」のダンサーになることが夢!
ある日、トレイシーの元に番組で新メンバーを募集するニュースが飛び込んできます。オーディションを受けたいと両親に懇願するも、心配性な母のエドナは反対。トレイシーの良き理解者の父・ウィルバーの助けによって、トレイシーは、オーディション会場へと向かいます。しかし、太っているという理由で一方的にオーディションの受験を拒否されてしまうのでした…。

華やかでエンターテインメント感あふれる物語の中に、人種・体型・性別の差別問題も絡めながら、自分らしく前向きに生きる大切さを訴えます。

楽曲に込められたメッセージ

今回注目するのは、マーク・シェイマンとスコット・ウイットマンの名コンビによる楽曲。2人はブロードウェイ・ミュージカル『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』や、『チャーリーとチョコレート工場』、ドラマ『SMASH』などで作詞作曲を手掛けています。ミュージカル『ヘアスプレー』では、トニー賞とグラミー賞を受賞。ここでは劇中の曲がもたらすメッセージ性について考えていきたいと思います。

1曲目は、オーディションを受けにきたトレイシーに、「コーニーコリンズショー」のプロデューサー・ヴェルマが歌う「Miss Baltimore Crabs」という楽曲。この楽曲では、チャチャチャ、ルンバ、マンボ、ツイストという4つの曲調が使われています。4つとも、キューバ起源のラテン音楽。キューバはスペインの植民地となった際に、黒人奴隷が多く輸入されたという過去があるため、ラテン音楽が伝わったのだと考えられます。

そして、この曲を歌っているのは、人種差別を行っている張本人のヴェルマ。自身がミス・ボルチモアクラブに選ばれた時の栄光に縋り、歌っている曲は彼女が嫌っているアフリカ系文化がルーツの曲という、リズミカルな曲調とは裏腹に、なんとも皮肉な楽曲になっています。

「Miss Baltimore Crabs」は2:10〜

2曲目は、トレーシーやメイベルたちが、公民権運動のデモ行進をするときにメイベルが歌う「I Know Where I’ve Been」。
公民権運動は、アフリカ系アメリカ人により、1950年代から『ヘアスプレー』の舞台となっている1960年代に展開された、差別の撤廃と法の下の平等、そして市民としての自由と権利を求める運動です。
実は「I Know Where I’ve Been」の楽曲の制作段階で、関係者ほぼ全員から「説教くさくて作品と合わない。トレイシーはもっと目立つ曲を歌うべき」という反対意見が出たんだそう。

しかし、作曲のマーク・シャイマンは、「他の商業主義な作品のように、人権を語りながらアフリカ系アメリカ人の登場人物を脇に追いやるようなことはしたくなかった」と楽曲を残すことに。結果、観客に受け入れられ、「There’s a dream in the future. There’s a struggle that we have yet to win. これから来る日々に未来がある。まだ勝ち取っていかなければならない闘いがある」と歌う歌詞が心を揺さぶる楽曲となりました。

また、オープニングナンバーの「Good Morning Baltimore」。トレイシーが、自分の住むボルチモアの街と自分のことについて歌い上げる楽曲で、一気に観客を『ヘアスプレー』の世界へと引き込みます。

この曲は、人気YouTuberのkemioさんの動画のオープニング曲でもお馴染みの楽曲でもあります。kemioさんは、クィア・アイコン(※)としても注目されている存在。本作は、人種・体型・性別と様々な差別問題を扱っている作品のため、若者に人気のあるkemioさんが楽曲を使用していることをきっかけに、『ヘアスプレー』を知り、映画を楽しみながら問題意識を持つことができるのではないでしょうか。

※クィアは、もともと英語で性的マイノリティや、既存の性のカテゴリに当てはまらない人々の総称です。セクシュアル・アイデンティティ(性的アイデンティティ)とジェンダー・アイデンティティ(性自認)が、その人のいる時代や文化のなかでマイノリティとされるときに使われることが多い言葉となっています。

ハッピーな物語ですが、大切なメッセージが込められている本作。トレイシーが作中で実現したラストシーンのような世界を作っていきたいものです。

ミュージカル『ヘアスプレー』は、9月17日(土)〜10月2日(日)東京・Brilliaホールにて上演です。その後、全国ツアーが予定されています。公式HPはこちら

ミワ

2020年の公演が中止になり、待望の上演だったため、チケットがすぐ完売してしまった本作。映画やYouTubeにある「HAIRSPRAY Live!」の動画で予習して楽しみに開幕を待ちましょう!