身近にいるミュージカルファンに対して、「同じ作品をなぜ何度も観に行くの?」と疑問に思ったことがある方も多いのではないでしょうか?好きな作品の世界に浸りたい、推しの俳優さんの演技を堪能したい、といった理由もありますが、ミュージカル作品には“何度も観る”からこそ味わえる魅力もたくさんあります。“同じ作品”だけれど、何度もリピート観劇してしまう…のが日常茶飯事な編集長が、3つの理由をご紹介していきます。

①ミュージカル作品に隠された複数の伏線とメッセージ

近年ではドラマの伏線やモチーフを深く理解し考察するため、見逃し配信やVODで見返す…という方も増えていますよね。それと同様に、ミュージカル作品にも様々な伏線や時代背景の描写、モチーフ、メッセージ等が緻密に練り込まれています。

しかし、ミュージカル作品は生で進行していき、巻き戻しや停止は出来ません。さりげなく発した一言が後のストーリーに意味を与える重要なセリフだったり、登場人物の行く末を想像させる切ない伏線だったり。多数の登場人物たちの人生が複雑に絡み合う『レ・ミゼラブル』や『RENT(レント)』は、1回観ただけでは気付けないこともたくさんあります。

更に、ミュージカルはシーンに合わせたリプライズ(反復)やモチーフ使いなど“音楽の伏線”も。例えば『レ・ミゼラブル』であれば、価値観が変化していく場面や死に直面する際に、別々の人物が同じメロディを歌うことがあります。何度も作品を味わっていくことで、これらの音楽の伏線に気付けたり、音楽が与える意味合いについて改めて考えたりすることができます。

②キャストの組み合わせによって、作品の色が大きく変わる

Wキャストやトリプルキャストの多いミュージカル作品では、キャストの組み合わせによって同じ作品でも作品の色が大きく変わることがあります。大人気ミュージカル『ミス・サイゴン』2022年版のヒロイン・キム役は、高畑充希さん・昆夏美さん・屋比久友奈さんのトリプルキャスト。高畑さんの繊細な演技、昆さんの力強い歌声、屋比久さんの凜とした眼差し…と3人が演じるキムにはそれぞれ異なる魅力があります。

更に相手役・クリスもトリプルキャスト。同じセリフ・物語でもキャストの演技や歌声によって、“2人はここですれ違っているのかも”と感じたり、2人の恋模様が可愛らしく見えるが故に結末がより悲劇的に感じられたりします。クリス役を演じる小野田龍之介さんが「キムによって(自分の演技も)変わる」と語っているように、キャストの組み合わせによって生まれる化学反応があるのです。(小野田龍之介さんが『ミス・サイゴン』について語っている西川大貴さんとの対談動画はこちら

③自分の環境や年齢の変化に伴い、作品に対する解釈・視点が変わる

ミュージカルをリピート観劇してしまう3つ目の理由として、自分の変化による作品解釈・視点の変化が挙げられます。筆者が『レ・ミゼラブル』を初めて観た10代の頃、強く共感したのは名曲「On My Own」で知られるエポニーヌという少女。マリウスという青年に片想いをしながら、自分が感じている孤独や“幸せとは無縁の世界”を歌う歌詞は、強く胸に響きました。

20代になり社会人になってから観劇してみると、理想の世界を目指して革命を起こそうとする青年アンジョルラスの気高さと力強さに感銘を受けました。アンジョルラスが先導する「民衆の歌」に心が震え、涙が溢れ、『レ・ミゼラブル』の新たな魅力に気づくことになりました。

コロナ禍を経て、30代になってから観た『レ・ミゼラブル』で新たに共感したのは、今まで敵役にしか見えていなかった警官・ジャベール。警察の正義を信じ、厳格に生きてきたジャベールがロマンティックなメロディーで歌い上げる楽曲「Stars」では、真っ直ぐな人生への信念を感じさせられます。そんな彼が若者たちの死や宿敵ジャン・バルジャンの予想外の行動によって価値観が揺らいでいく姿は、コロナ禍で倫理観や価値観について改めて考えたからこそ、理解出来ることが多くありました。

同じ作品でも、自分の年齢や環境、経験によって味わい深さが増していくミュージカル『レ・ミゼラブル』。次の再演ではどのように感じるのか、何に気付けるのか、自分の人生にどう影響していくのか。まだ見ぬ発見がたくさん待っているリピート観劇は、これだからやめられないのです。

Yurika

海外作品では日本語訳とオリジナルの英語詞との比較によって気付けることもあり、ミュージカル作品の楽しみ方は無限大。一生楽しみ続けられるエンターテイメントではないでしょうか。