日本でも大きな人気を誇るブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』。2022年版では新ローラ・城田優さんを迎え、台詞のアップデートも図られました。華やかな楽曲と共に、“ありのままの他者を受け入れる”大切さを教えてくれる、本作の観劇リポートをお届けします。(2022年10月・東急シアターオーブ)※ネタバレを含みます
新日本語訳で新たに加わった、“本当の自分を探し求める”人物
ミュージカル『キンキーブーツ』ファンなら誰もが知る台詞、「Ladies, Gentleman, and those who have yet to make up their minds」(レディース、ジェントルマン、そしてまだどちらか決めかねているあなた)。LGBTQへの理解が世界的に進んだ今、ニューヨーク・オフブロードウェイでは脚本家のハーヴェイ・ファイアスタインさんが台詞を修正。「男性」「女性」という枠組みに捉われないジェンダーアイデンティティを指す「They/Them」が追加されました。
ただ日本では「They/Them」に対応できる言葉がまだなく、日本版プロダクション用に新たに台詞が書き換えられることに。そして本公演で生まれた台詞が、「Ladies, Gentleman, They, Them, そして本当の自分を探し求めているあなた(and the seeker of your inner truth)」です。
この台詞を実際に公演で聞いてみると、多様な性を包括するだけでなく、1人重要な人物が追加されたように感じました。それは、本作の主人公であるチャーリー・プライス。彼は自分のやりたいことが見つからないまま、フィアンセのニコラに翻弄されたり、父親の死によって潰れる寸前の靴工場を継ぐ羽目になったりします。
ドラァグクイーン・ローラとの出会いで“キンキーブーツ”を作るやりがいを見つけた後も、ミラノの見本市に出すことで頭がいっぱいになり、靴工場の従業員や大切なパートナー・ローラを傷つけてしまうことに。まさに、“本当の自分を探し求めている”姿です。
ローラとチャーリー、一見正反対に見える2人が自分の“本当にやりたいこと”や“ありのままの他者を受け入れる”ことに向き合う。そんな本作の魅力が、台詞のアップデートによって更に強調されたように感じました。
美しく華やかに!ローラとエンジェルスと一緒に心躍るひとときを
『キンキーブーツ』の見どころと言えば、やっぱりローラとエンジェルスが魅せる華やかなステージ!ローラ登場の「LAND OF LOLA〜ローラの世界〜」では、“待ってました”とばかりに会場中が大拍手で盛り上がります。城田優さん演じるローラは、美しく長い脚と、逞しい体つきが魅惑的。身長190cmの城田さんがピンヒールを履くと圧倒的な存在感があり、異彩な華やかさを放ちます。
ローラとエンジェルスのパフォーマンスが始まると、キラキラと輝くステージに一気に心が躍り出し、自然と笑顔が溢れます。最後の「Raise You Up/Just Be」は観客皆が一緒に踊り出さんばかりの盛り上がり。ここまで観客と共に日本でも“踊れるミュージカル”は、『マンマ・ミーア!』『ロッキー・ホラー・ショー』と『キンキーブーツ』くらいではないでしょうか。
クセつよキャラクターの中で、“平凡”の象徴となるチャーリー
ローラやエンジェルスはもちろん、ソニンさん演じる靴工場の従業員・ローレンや勝矢さん演じるドンなど、『キンキーブーツ』はクセの強いキャラクターばかり。その中でチャーリーはいわゆる夢も目標もなく生きる“平凡”な存在の象徴ですが、小池徹平さんのチャーリーは少しクセあり。世界観との親和や英語詞との兼ね合いもあり実は一番難しいキャラクターなのかもしれません。筆者としては、もっと現実世界に近い、自然なチャーリーだと更に親近感を持てるキャラクターになるのかなと感じました。
ありのままの自分を愛する。その素晴らしさを教えてくれる『キンキーブーツ』が日本で今後も上演され続けてくれることを願っています。ミュージカル『キンキーブーツ』は11月3日まで東急シアターオーブにて上演、その後大阪公演が予定されています。チケットの詳細は公式HPをご確認ください。
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