演劇を上演するためには、多くの役職が存在しています。しかし、どんな仕事をしているのかが分からなかったり、そもそも役職が知られていないということも。そこで今回は、“これさえ読めば初心者でも公演がつくれる!”という全日本演出家協会が無料配布している演劇入門書「はじめての演劇」を参考にしながら、舞台制作、演出家、演出助手の仕事について紹介していきたいと思います。(舞台監督・床山編音響・照明編はこちら)

公演を成功へと導く陰の立役者【舞台制作】

団体や制作者によって仕事内容は様々な舞台制作の仕事。商業演劇における制作は、プロデューサーと呼ばれる場合も多く、公演を「売れる」方向へ導いていくのが役割です。

劇場や稽古場の手配、台本や音楽の制作スケジュール決め、公演の企画立案、企画に沿った各スタッフ・キャストのオファーやオーディションの手配をします。広報部や営業部などの他セクションとの確認をしながら、本番までの全体のスケジュールを管理します。舞台セットや衣装など、予算がオーバーしないように演出プランを確認し、打ち合わせすることが大切な仕事になっています。
また規模が大きくなると業務量も多くなるため、本番期間に現場スタッフとして「制作助手」というサポートする立場の役職が出来ることもあります。

小劇場で公演を打つときは、上記の仕事の他に、チラシやプログラムの手配、SNSやWEBの運営といった広報を担当したり、チケット・売上の管理。本番期間は、受付の準備、ケータリングの手配、お客様対応など。公演中に役者や舞台付きのスタッフが対応できないところを全て対応しています。

とても幅広い仕事を受け持ち、公演の成功を支えているのが舞台制作の仕事です。劇団の中に制作というポジションがあることもあれば、制作会社が公演を支えていたり、フリーで制作として活動している方にオファーをすることもあります。

作品の一番の理解者。カンパニーの指針となる【演出家】

演劇の戯曲は小説と違い、登場人物の心境や行動、着ている服などが詳細に描かれてはいません。
セリフと、「ト書き」と言われる場面の説明や人物の行動が簡潔に説明されたものから成り立ちます。
そのため、上演する人の想像力で、いかようにも解釈が広がります。シェイクスピア作品などの良い戯曲は、その解釈の幅が広いので、何百年経っても様々な解釈で演出・上演され続けているのです。

演出家の仕事は、オーケストラの指揮者のような役割。戯曲に書かれた世界を読み解き、作品の指針を決める、総合的な責任者です。蜷川幸雄さんや、宮本亜門さん、劇団四季の浅利慶太さんが広く知られているのではないでしょうか。

俳優・スタッフの各パートをまとめあげ、作品を完成させる仕事。オリジナルの脚本を使用する場合は、劇作家と打ち合わせを繰り返し、戯曲を完成させます。作品について深い理解が必要なため、演出家自ら脚本を手がけることも。日本では多くの演出家が脚本も手掛けており、野田秀樹さんや、ケラリーノ・サンドロヴィッチさん、三谷幸喜さん、宮藤官九郎さんらが有名です。

稽古ではミザンスと言われる舞台上での動きをつけたり、俳優への演技指導などを行います。同時進行で、美術や衣装・照明・音響などの各技術スタッフと綿密な打ち合わせをします。演出家と各セクションがイメージを擦り合わせ、舞台をつくりあげていきます。演出家1人1人の個性が舞台に現れるため、演出家の数だけ演出方法があるといえます。

稽古から本番までがスムーズに進行するようにサポートする【演出助手】

演出家をサポートする演出助手という役職。演出家になるために、まずは好きな演出家の方に演出助手としてついて勉強するということも多いようです。

演出助手の仕事は、稽古から本番まで、スムーズに進行するようにサポートすること。(現場によって仕事内容が異なるので、以下は一例となります)

稽古期間が始まる前に、本番までの稽古のスケジュール作成や、スタッフ間での打ち合わせの日程を決めます。そして、台本を貰ったらまず行うことが、香盤表という、舞台全体の流れが把握できる表の作成。
主に、俳優が舞台の上手・下手のどちらから登場・退場するか、使う小道具や着ている衣裳、舞台セットの転換、照明や音響の変化などを表にまとめています。また、それとは別に小道具リストや、使用する効果音・BGMをまとめた表、衣装リストなど様々な表を作成し、抜け漏れがないか確認しています。

筆者が作る香盤表
人によって香盤表の作り方も異なります。

そして稽古が始まると、演出家と俳優・各セクションのスタッフとの橋渡しのような役割を務めます。
演出家の指示や変更点を記録しておく、プロンプ(俳優がセリフが出てこない時に教える)を出す、効果音やBGMの音出し、代役もやることもあります。稽古動画を撮影し、アップロードすることも大切な仕事です。稽古の進行状況に応じて、本番に向けて、スタッフ間で綿密な打ち合わせも行います。

劇場に入ると、「場当たり」の進行をします。(舞台監督が行うことも)場当たりとは、劇場に入ってセットが組み上がると、劇場でしかできない照明や音響等のテクニカルな事項、衣装の早替え等を確認していくものです。
場当たりが終わると、「ゲネプロ」と呼ばれる「本番同様の最終通し稽古」を行い、無事に終わると、本番となります。

稽古から本番を想定して、スムーズに進められるようにサポートするのが演出助手の仕事です。

ミワ

専門職になればなるほど、“名前は聞いたことがあってもどんな仕事をしているのか、いまいちよく分からない”ということも多いのではないでしょうか? ここでご紹介しているのは一例ですが、少しでも舞台がどのような人たちに支えられて出来ているのか、興味を持っていただけたら幸いです!