厳選の英国演劇を世界に発信する取り組み、ナショナル・シアター・ライブ(NTLive)。2023年上半期の公開ラインナップから、今後上映予定の注目作品をご紹介します!

名作が揃う!ナショナル・シアター・ライブ2023年上半期ラインナップ

英国ナショナルシアターが厳選した傑作を、世界40カ国以上の国と地域の観客に届けているナショナル・シアター・ライブ。舞台上の躍動感が伝わるこだわりのカメラワークで、本場の劇場の熱気が伝わる上質な舞台映像を日本の映画館で楽しむことができます。

すでに1月から上映が始まっているNTLiveの2023年公開ラインナップ。前シーズンにも上映され、オーストリア系ユダヤ人家族の50年間を描いた壮大な家族ドラマ『レオポルト・シュタッド』のアンコール上映(1月19日(木)上映終了)や、『ライラの冒険』三部作の12年前の物語で、本物の赤ちゃんが役者として出演したことでも話題になった『ブック・オブ・ダスト ~美しき野生~』(2月2日(木)上映終了)など、すでにNTLiveファンの観劇欲をくすぐる2作品が上映されました。

2月からは、2022年に英国で上演されたばかりの名作シリーズがはやくもNTLiveに登場。まずは2月10日(金)より上映されるアントン・チェーホフ作『かもめ』。大女優を目指す主人公ニーナ役を、チャーミングな笑顔が魅力のエミリア・クラークさんが演じています。

続いて、アーサー・ミラー作『るつぼ』は4月14日(金)より上映。作品発表当時のアメリカで旋風を巻き起こした「赤狩り」を思わせる、セーラムの魔女裁判を題材にした寓話を、ベネディクト・カンバーバッチさん主演『ハムレット』のリンゼイ・ターナーさんが演出しました。『ザ・クラウン』のエリン・ドハティさんと『イェルマ』のブレンダン・カウエルさんが主演を務めています。

6月23日(金)からはウィリアム・シェイクスピア作『オセロ』を上映。こちらは2023年1月までナショナル・シアターで上演されていた、最新作です。ミュージカル『ハミルトン』でローレンス・オリヴィエ賞主演男優賞を受賞したジャイルズ・テルラさんがオセロ役で出演。俳優・演出家として広く活躍するクリントン・ディアーさんが演出を担当し、主要な劇場では初となる、黒人による『オセロ』演出として注目を集めた作品が日本の映画館に登場です。

エミリア・クラーク主演『かもめ』 台詞が際立つ引き算の演出に注目!

2023年上半期の公開ラインナップから今注目したい作品は、2月に上映される『かもめ』です。チェーホフの名作として有名なこの名作。昨年9月までロンドンのハロルド・ピンター劇場で上演され、『ゲーム・オブ・スローンズ』のエミリア・クラークが主演を務めました。彼女のウェスト・エンド初登場、初主演としても注目された名作がNTLiveの上演ラインナップに加わります。

チェーホフの四大戯曲にも数えられる『かもめ』は、日本でも蒼井優さんや満島ひかりさんが女優を目指すニーナの役を演じた、ロシア演劇の名作です。その戯曲は少し技巧的。台詞のやりとりが、時折噛み合っていないように感じる読後感があり、役者の演技の塩梅で行間から読み取れるものが変わってくるような、ナイーブさがある作品だと筆者は感じています。

そんな名作の再演で演出を担当したのは、ジェイミー・ロイドさん。同じくNTLiveにラインナップされ、2020年のオリヴィエ賞最優秀再演賞に輝いた『シラノ・ド・ベルジュラック』でも見せた、現代的なアプローチで作品を色付けしました。

舞台上には3辺を囲むコルクボードと緑色のプラスチック製の椅子、そして俳優のみ。非常にシンプルな舞台美術です。俳優の衣装も現代風でどこか脱力感が漂っていて、等身大の観客と同じ世界線で展開する物語のようにも見えてきます。

NTLive2023 『かもめ』©️Marc Brenner

現地の劇評を読んでみると、こうした引き算の演出効果によって「最初の静かな言葉から最後の言葉まで釘付けにされた」と評価する声もありました。視覚的な華やかさが削ぎ落とされるぶん、吸引力を増した台詞や表情の機微に注目したい作品です。

名声を求める駆け出しの女優ニーナ役を今作ではエミリア・クラークさんが好演。作家志望の青年コンスタンチン役を​映画『Sissy』のダニエル・モンクさん、コンスタンチンの母で女優のアルカディーナ役は、『ゲーム・オブ・スローンズ』やNTLive『プレゼント・ラフター』のインディラ・ヴァルマさんが演じます。シンプルな舞台で魅せる、豪華な実力派俳優陣の力量の高さにも注目です。

NTLive『かもめ』は、2023年2月10日(金)から、TOHOシネマズ日本橋(東京)、TOHOシネマズららぽーと横浜(神奈川)、TOHOシネマズ赤池(名古屋)、大阪ステーションシティシネマ(大阪)、中洲大洋劇場(福岡)で、2月17日(金)からシネ・リーブル神戸(兵庫)、アップリンク京都(京都)で上演されます。上映時間は約2時間44分を予定しています。詳しくはこちらの公式ホームページをご覧ください。

Sasha

NTLiveの今後のラインナップはどれも日本初上映の作品ばかり。数ヶ月のタイムラグはあれど、英国の最新上演作をとびきりのカメラワークで楽しむことができますよ。 いずれも期間限定上映で、再上映の有無は未知数です…。気になる作品はぜひお見逃しのないように、チェックしてみてくださいね。