ラジウムを発見し女性初のノーベル賞を受賞した科学者、キュリー夫人。彼女を題材にしたミュージカル『マリー・キュリー』が、今月から天王洲銀河劇場にて上演されます。今回は主人公であるキュリー夫人と、本作の歴史を紐解いてみましょう。

女性初のノーベル物理学賞を受賞

ミュージカル『マリー・キュリー』の主人公となるマリー・キュリー。マリーは1867年、ポーランドのワルシャワに生まれ、科学者の父、女学校長だった母のもとで末娘として育ちました。彼女は幼い頃から聡明で、成績も優秀でしたが、当時は女性に進学の道が開かれていなかったため、住み込みで家庭教師をすることに。

1891年には、女性でも科学を学べる数少ない場所であった、パリのソルボンヌ大学への進学を果たします。経済的苦境に立たされながらも勉学に励む彼女は、すでに呼び声高かったフランス人科学者ピエール・キュリーと出会い、やがて結婚。マリーは夫と共に研究をつづけ、1903年に女性初のノーベル物理学賞、夫の死後である1911年にもノーベル化学賞を受賞しました。

このように、女性の科学者が珍しかった時代に、歴史的功績を残した偉大な人物であることがわかります。彼女の放射線に関する研究や、新しい元素ポロニウムとラジウムの発見は、現代のX線撮影など様々な分野で活用されています。しかし放射線物質の研究を長らく続けていたため、彼女自身の体調にも悪影響があり、66歳でこの世を去ることとなりました。

韓国ミュージカル『マリー・キュリー』の歴史

韓国で創作されたミュージカル『マリー・キュリー』は、2018年に初演を迎えました。脚本家チョン・セウンさんは、マリーがラジウムの副作用をどのように捉えていたかに関する資料がほとんど残っていないことに着目し、もしもマリーがラジウムガールズ(工場でラジウムを扱う作業に従事した結果、放射線中毒になった女性労働者の総称。1910〜1920年代に米国各地で発生した)に出会っていたら、という構想を思いついたそうです。国内で再演された際にも大幅なブラッシュアップを経た本作は、2021年には韓国ミュージカルアワードで大賞をはじめ5冠を達成しました。

愛希れいかと豪華俳優陣が「ファクション」に挑む

fact(歴史的事実)とfiction(虚構)が織りなす”faction”という形で描かれるミュージカル『マリー・キュリー』。事実と虚構が混じり合う。これによって、もしかしたらマリー・キュリーが辿っていたかもしれない、すなわち「ありえたかもしれない」人生を描き出します。

今回日本版の演出を担当するのは鈴木裕美さん。ストレートプレイから『サンセット大通り』といったミュージカルまで数々の大作を手がけ、3度にわたる読売演劇大賞優秀演出家賞、第33回菊田一夫演劇賞などに輝いています。繊細な情景を大胆かつ美しく描き出す彼女の演出と、韓国発の本作とで、いかなる化学反応が生まれるのかが注目です。

キャストも豪華俳優陣が揃っています。まず、タイトルロールを務める愛希れいかさん。宝塚歌劇団出身の彼女は、月組トップ娘役という大役を約6年半にわたって務めました。退団後も、『エリザベート』タイトルロールや『フラッシュダンス』アレックス役など、その確かな実力で引っ張りだこです。『マリー・キュリー』の日本初演となる今回、愛希さんが生きるマリーの姿を見るのが楽しみですね。

ピエール・キュリーを演じるのは、上山竜治さん。男性ユニットRUN&GUNを経て、宮本亜門さん演出の『イントゥ・ザ・ウッズ』ジャック役に抜擢されて以来、舞台を中心に大きく活躍しています。『レ・ミゼラブル』アンジョルラス役、『エリザベート』ルキーニ役を演じるなど、今やミュージカルに欠かせない存在となっている上山さん。夫としてマリーを支えるピエールを、どのように魅せてくれるのでしょうか。

アンヌ役は、清水くるみさん。2007年「アミューズ30周年全国オーディション」にて約6万5000人の中からグランプリを獲得して以来、ドラマや映画も含め活躍の場を広げています。舞台でも『ロミオとジュリエット』ジュリエット役、『ヘアスプレー』ペニー役などで華やかに彩った彼女。今回演じるアンヌは、架空の人物としてマリーに影響を与えていく役どころです。本作のカギとなる”虚構”の部分を大きく担うという意味でも、期待が高まります。

ルーベン役を演じるのは屋良朝幸さん。1995年にジャニーズ事務所に入所して以来、舞台を中心に活躍しています。また振付師としても、嵐の楽曲や関ジャニ∞のコンサート、『Endless Shock』などに携わり、着実に実績を積んできました。本作のルーベンは、マリーの研究に可能性を見出す投資家で、物語の中では異質な存在だそうです。「良いスパイスを与えられるよう」にと意気込んでいる屋良さんのルーベンは必見です。

「私が誰かではなく、私が何をしたかを見て下さい」

ミュージカル『マリー・キュリー』の公式YouTubeアカウントでは、公開稽古と取材の様子が掲載されています。韓国ミュージカルならではの素晴らしい楽曲に、身体表現を用いた躍動感あふれるシーン、そしてマリーの「私が誰かではなく、私が何をしたかを見て下さい」という台詞。公開されている数場面だけでも見応え、聴き応えがあり、ますますその全貌が気になるところです。

東京公演は、天王洲銀河劇場にて2023年3月13日(月)~26日(日)。大阪公演は、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて2023年4月20日(木)~23日(日)を予定しています。ファクション・ミュージカルで浮かび上がるもう一人のマリー・キュリーの姿を、是非劇場で確かめてみてはいかがでしょうか。チケット詳細は公式HPをご確認ください。

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史実がもとになっている作品は多いですが、脚本や演出という形ではなくはっきり”虚構”を交えたと銘打っているのは興味深いですし、新鮮な試みだなと思いました。また、韓国で『マリー・キュリー』を観たことがあるという方も、日本版との違いを感じながら楽しむことができるのではないでしょうか。