3月22日のプレビュー公演より、この春注目のミュージカル『マチルダ』がいよいよ始まります。児童小説家ロアルド・ダールの傑作を、全ての子ども(とかつて子どもだったすべての大人たち)が楽しめるミュージカルにしたのは、英国が誇るロイヤル・シェイクスピア・カンパニー。英語表記の単語頭文字をとってRSCとも呼ばれるこの劇団は、シェイクスピアや同時代作家の作品から、言葉を越えて楽しめるミュージカルまで、優れた舞台を生み出しています。

シェイクスピアのふるさとで、シェイクスピア作品上演を続ける王立劇団

ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(以下、RSC)は1961年に設立された英国の王立劇団。現在、理事長を務めるのはチャールズ国王です。シェイクスピアの生まれ故郷であるストラット・フォード・アポン・エイヴォンを拠点に、英国が誇る演劇文化とシェイクスピアの果てしない魅力を発信しています。

ロイヤルの称号にふさわしい由緒ある劇団で、これまでに所属していた俳優たちの中には、『ロード・オブ・ザ・リング』のイアン・マッケラン、『恋に落ちたシェイクスピア』『007』のジュディ・デンチ、『ハムレット』『ベルファスト』のケネス・ブラナーなどがいます。

上演レパートリーは、主にシェイクスピア作品などのエリザベス朝演劇。一見すると、保守的なイメージを持たれる方も多いかもしれませんが、RSCの上演作品は演劇的な好奇心にあふれています。何度も上演されてきた戯曲を新しいアプローチで演出してみたり、古い上演方法で当時の芝居を追体験できるようにしてみたり。演劇の自由を感じる、上質な舞台を製作してきました。

現代劇の上演をすることもあり、最近では2022年秋にスタジオ・ジブリの名作『となりのトトロ』の舞台化を手掛け、ロンドンで話題を呼びました。(関連記事:『となりのトトロ』が舞台化!制作を手掛けるのはイギリスの名門ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー

ちいさな田舎町だったストラットフォード ・アポン・エイヴォンが「偉大な劇作家の聖地」へと生まれ変わったきっかけは、RSCの前身であるシェイクスピア記念劇場の設立だった、という由縁もあり、RSCとその劇場は、この町の賑わいの中心となっています。

ミュージカルの金字塔『レ・ミゼラブル』とRSCとの深いつながり

歴史ある英国演劇の権威と人材が集まるRSCですが、その貢献はシェイクスピア劇の上演だけにとどまりません。実は、日本でも大人気のミュージカル『レ・ミゼラブル』の製作に携わっていたことをご存知でしょうか。

もともと、この作品にはパリで上演された、フランス語の初演版がありました。そのドラマ性と美しい楽曲に魅せられたプロデューサーのキャメロン・マッキントッシュが、英語版の上演を試みた際に、最初に声をかけたのが、当時のRSCを代表する演出家トレバー・ナンだったのです。

RSCで数多くのシェイクスピア劇を演出し、芸術監督も務めていたトレバー・ナン。『レ・ミゼラブル』の英語版製作には、同じくRSCの演出家(当時)だったジョン・ケアードとの共同演出を要望し、RSCとの共同製作でプロジェクトを進めるよう提案しました。

商業演劇のプロデューサーと王立劇団が手を組んで生まれたロンドン版『レ・ミゼラブル』。その後の人気ぶりは言うまでもありません。当時としては革新的なプロジェクトでしたが、成功をおさめたことで、RSCが製作する舞台への信頼はさらに厚くなり、上演レパートリーの幅も広がりました。

ミュージカル『マチルダ』成功の影には、シェイクスピアの言葉の魔法が

まもなく日本初演を迎えるミュージカル『マチルダ』も、RSCの製作です。

頭が良くて、不思議な力が使えて、おかしな大人たちのイジワルにも負けない少女マチルダの物語は、RSCが着手する以前から、何度も舞台化の話を持ちかけられていました。

しかし、作品権を管理していたロアルド・ダールの家族は、どんな舞台化オファーも断り続けていたそう。映画とは違って、観客の目に映る景色を編集できない舞台では、作者が大切にしていたユーモラスな世界の実現が難しいと考えていたからです。

ところが2003年、彼らの方からRSCを指名して『マチルダ』のミュージカル製作プロジェクトがスタート。RSCだけが信頼された背景には、言葉の力で観客を想像の世界に羽ばたかせるシェイクスピアの存在がありました。

ロアルド・ダールが言葉で綴った『マチルダ』の世界観を舞台で表現できるのは、シェイクスピアの言葉遊びとそこから広がるイメージをさまざまな解釈で舞台にしてきたロイヤル・シェイクスピア・カンパニーしかいない。そう考えたロアルド・ダールの家族がRSCに製作を依頼したのだそうです。

7年の製作期間を経て、2010年にストラットフォード ・アポン・エイヴォンで初演を迎えた『マチルダ』。瞬く間にウェストエンド、ブロードウェイでも上演されるようになり、ヒットミュージカルの仲間入りを果たしました。

空想が大好きでちょっぴりイタズラ好きなかわいいマチルダと、ロアルド・ダールらしい突飛なキャラクターが活き活きと息づくミュージカル『マチルダ』の日本公演は2023年3月22日(水)よりプレビュー公演、3月25日より本公演が開幕。RSCが魅せるファンタジーな舞台をどうぞお楽しみに!(関連記事:ついに日本上陸!小野田龍之介×昆夏美が語るミュージカル『マチルダ』の魅力とは?大人が刺さるメッセージとは

チケットぴあ
Sasha

今回は、ミュージカル『マチルダ』を製作したRSCについてご紹介しました。ロンドンで『マチルダ』を観劇した際は、印象的な舞台セットとそこを動き回る小さなプロ俳優たちの表現が素晴らしくて…特に、2幕冒頭は筆者のお気に入り。あの世界観を日本で味わえることがとにかく嬉しいです。