2021年のコロナ禍で、さまざまな制約がある中、演出家・劇作家のタニノクロウさんが横浜で生活する人々にインタビューをした経験をもとに立ち上がった舞台『虹む街』。2023年に上演する『虹む街の果て』は、『虹む街』のリクリエーション版です。

タニノクロウ×パーカッショニスト渡辺庸介。寡黙劇をリクリエーションし音の溢れる世界を創る『虹む街の果て』

KAAT神奈川芸術劇場は、2021年度から長塚圭史芸術監督のもと、劇場の存在を、街の方々に知ってもらうことを目標に、シーズン制を導入しています。4月から8月までをプレシーズンとして、より“ひらかれた”劇場となるべく、劇場1階のアトリウムを使った作品の上演や展示、キッズ・プログラムの上演などを行い、舞台に触れることの少ない方々にも観劇体験を提供することを目的としたプログラムを上演しています。

2023年度のプレシーズンは、数々の受賞歴を持つ演劇界の鬼才タニノクロウさんが作・演出を務める、『虹む街の果て』で開幕します。

庭劇団ペニノの主宰で、劇作家・演出家のタニノクロウさん。
2000年に庭劇団ペニノを旗揚げ。以降全作品の脚本・演出を手掛けており、ヨーロッパを中心に、国内外の主要な演劇祭に多数招聘されています。2016年『地獄谷温泉 無明ノ宿』にて第60回岸田國士戯曲賞、第71回文化庁芸術祭優秀賞を受賞しました。

2021年初演『虹む街』より 撮影:田中亜紀

『虹む街の果て』は、2021年6月に上演した『虹む街』のリクリエーションです。『虹む街』は、横浜の野毛をモデルにした飲食店街の一角が舞台。街の住人を演じたのは、実力派俳優たちと神奈川県民を中心とした多様な国籍の方々でした。

当初は神奈川県民を対象としたオーディションを予定していましたが、新型コロナウイルス感染症感染拡大のため断念せざるを得ない状況に。そこで、タニノさんは、オンラインで、飲食店経営者・お寺の住職・葬儀屋・教職者といった方々の話を聞いたり、横浜の飲食店街に足を運んだりと、コロナ禍で出来る範囲で人々の暮らしを感じ取り、生まれた作品です。

コロナ禍という状況を逆手にとり、ほとんど台詞を発しない寡黙劇に仕立て、街で繰り広げられるさまざまな人生や思いが交錯する多国籍な街の風景を伝える作品が誕生しました。

今回は、初演の寡黙劇とは対照的に、音や音楽で溢れる世界を創造します。

出演者には、打楽器からボイスパーカッションまで駆使し、土着的な民族音楽から歌モノポップスまでジャンルに縛られない演奏で活動しているパーカッショニストの渡辺庸介さん。三谷幸喜さんをはじめとする有名監督の映画作品やMVなどに出演し、タニノクロウさん主宰の庭劇団ペニノの『タニノとドワーフ達によるカントールに捧げるオマージュ』に出演している赤星満さん。

そして、初演に出演したシニア劇団劇団員や中華街の飲食店オーナーといった神奈川県民の方々を中心に、新たに選出された神奈川県民の参加者の方々が出演します。

2021年初演『虹む街』より 撮影:田中亜紀


タニノさんは、以下のようにコメントしています。
「前回から10年、20年、100年と時間が経ったら街にどんな風景や時間が流れているのかを想像して作り直します。コインランドリーや、スナック、パブ、飯屋、タバコ屋などの100年後、それらの果て、生活の果て、人間の果てを描き、破壊的なリメイクを目論んでいます。
今回も神奈川県民を中心とした方々と作品を作りたいと思っています。前回は、様々な国の方たちが参加してくださり、日本じゃないような賑やかな稽古場でした。また同じように楽しく一緒に創作して、なんだかよくわからない場所に辿り着けたら最高にいいなと思ってます」

実際の舞台セットを使った稽古場に潜入できるイベントを開催!

2021年初演『虹む街』より 撮影:田中亜紀

この街の中に様々な人が出入りした形跡を残したい、というタニノさんの想いから、今回は稽古場を公開するイベントを開催!2021年には、稽古場の窓から中の様子を覗ける「稽古場見学」でしたが、今回は、稽古場の中に入って、本番で実際に使用する舞台セットを間近で見ることが出来ます。

また、街が果てていく経過を稽古場見学の参加者の方々と一緒に作っていく無料イベントの開催も決定しました。
初演の『虹む街』の10年、20年、100年…後の世界が描かれる『虹む街の果て』。月日の流れの中には無数の人の痕跡があるはずということで、その跡を残すために、初演で使われた舞台セットの壁に直接ペイントができる一般参加型のイベントです。

 作・演出のタニノクロウさんも一緒にペインティングに参加する時もあるかもしれないというこのイベント。 この貴重な機会に、ぜひKAATに立ち寄ってみてはいかがでしょうか?

「街の舞台セットを作る!ペインティング参加イベント」は、 4/12(水)、 4/13(木)、4/14(金)11:00~15:00 と、4/15(土)、4/16(日)19:00~21:00 にKAAT神奈川芸術劇場<中スタジオ>にて開催です。
イベントは無料で、事前予約不要です。(3階中スタジオ入り口から自由に参加可能)

 画材一式は劇場に用意してあるとのこと。ペイントに参加する際は、汚れても良い靴・服装での参加がおすすめです。自分がペイントしたセットが舞台に使われるなんて、滅多にない機会ですね!

また、2023年度から一部公演でトライアル導入していた「神奈川県民割引」が本公演から正式にスタートします!KAAT神奈川芸術劇場の全ての主催公演で一般料金の約1割引で、チケットを購入することが可能です。

ほかにも、高校生以下1,000円の高校生以下割引や、24歳以下の方を対象にしたU24チケットなど、神奈川県民以外の方がお得に公演を観ることができる割引サービスも。割引サービスは、全て前売のみ、枚数限定での用意となっているので、割引を利用してチケットを購入する際は、お早めにお買い求めください。(※県民割は住所確認、その他の割引サービスは、身分証の確認があります。)

舞台『虹む街の果て』は、5月13日(土)~5月21日(日)に、KAAT神奈川芸術劇場<中スタジオ>にて上演です。ペインティング参加イベントの日程など詳細は公演HPからご確認ください。

ミワ

作品の内容についても、稽古場公開やチケットの販売形態についてもさまざまな試みがなされている公演。このような試みを通して、多くの人々が、演劇や劇場空間そのものに触れる機会が増えると嬉しく思います。