20世紀のアメリカ・ニューヨークで女性たちを虜にした2つの化粧品ブランドの創業者をテーマにしたブロードウェイ・ミュージカル『エリザベス・アーデンvs.ヘレナ・ルビンスタイン -WAR PAINT-』。明日海りおさん、戸田恵子さんを主演に迎え、5月7日から日生劇場にて開幕しました。初日開幕前に行われた取材会とゲネプロリポートをお届けします。
「世の中からシャープやフラットがなくなればいいのに」と願うほど難解な楽曲たち
取材会には明日海りおさんと戸田恵子さんが登場。ゲネプロ前の取材会ということで、明日海さんは「地に足がつかない感じでソワソワしています」、戸田さんも「心ここに在らずという感じで、頭の中を割って皆さんにお見せしたいくらい」と緊張の様子。というのも、本作は日本初演であるだけでなく、2人の歌も台詞も膨大な量があり、難解な楽曲が多数。戸田さんは「世の中からシャープやフラットがなくなればいいのに」と願うほどだったのだそうです。
取材会でも華やかな衣装で登場したお二人。作中でもたくさんの華やかな衣装が登場するそうで、カンパニーの中では衣装合わせの際に「こりゃ景気がいいな」と話題になったのだとか。明日海さんは「着ているだけで華やかな気持ち、贅沢な気分に浸れます」と衣装の魅力を語りました。
また本作は実在の化粧品ブランド、実在の創業者である女性2人がモデルということで、なんと戸田さんはご友人がヘレナ・ルビンスタインの美容部員だったため、若い頃に愛用していたブランドだったそう。「ブロードウェイ作品でもよく美の象徴として名前が挙がっているし、当時女性が創始者になって大富豪になるというのはとても強い女性だというイメージ」と印象を話しました。
初共演となるお二人。明日海さんは戸田さんの印象について、「テレビで見ていた印象よりも普段はおしとやかで静かな方。メールでは“何卒よろしくお願いします”と謙遜した言葉をくださいます。でも役に入るととどまることのないパワーを持っていらして、カンパニーを引っ張ってくださっています」と語ると、戸田さんは照れて顔を隠すお茶目な一幕も。
戸田さんは明日海さんの印象について、「明日海さんを始め、カンパニー皆さんが“ミュージカルプロ”。歌やダンスの飲み込みが早くて、明日海さんはさすが宝塚で数々のステージを踏んでこられた方だなと実感していました。いつも“私は何番に立てば良いでしょうか?”と教えてもらっています(笑)」と語り、次は明日海さんが顔を隠して照れ、リスペクトし合う関係性であることが伺えました。
本作の魅力について戸田さんは「2人のブランド創始者の成り上がっていく様ではなく、絶頂期から落ちていく様を描く珍しい作品。戦争や若い人たちの台頭などに巻き込まれながらも、最後まで美しさを感じる作品」だと語りました。
対照的で似た2人が切り拓いた未来
ファンデーションで毛穴を隠し、より美しくありたいと願う女性たち。チークの色が少し違ったかも…と不安に思う女心は、いつの時代も同じではないでしょうか。そんな女性たちの心掴んだ2つのブランドの創始者が、本作の主人公です。
エリザベス・アーデンはピンクの華やかで心躍るパッケージが人気を博しています。一方、ヘレナ・ルビンスタインはビジネスパートナーのハリーから“マスカラ界のキュリー夫人”と言われるほど、科学的に美を追求。成分にこだわったクリームで対抗していきます。
2人は性格もブランドコンセプトも正反対。対照的な存在を、ピンクとブルーの衣装や照明、ブランドロゴ、デスクのデザインまで、細部に渡って表現していきます。2人の対比と、のちに大衆的な商品を売り出すことで台頭する若い勢力との対比を、“階段”によって表現しているのもとても興味深く、本作における美術の役割の大きさを感じます。
正反対な2人ですが、2人の根底に共通してあるのは、移民であるというマイノリティ意識と、男性社会の中で女性として成功してやるという強い野心。本作の舞台である1930年代から90年もの月日が流れた今でさえ、女性の管理職比率が低いことが指摘されているのですから、当時ブランドの創業者として成功した2人には到底考えも及ばないほどの孤独と苦痛があったはずです。お金を“持っている”のではなく“自ら稼ぐ”女性は、どんなにお金持ちになっても貴族の仲間入りはさせてもらえません。
女性というビジネスにおいて不利な状況で自分の地位を守らなければならない、という思いが強くあった2人は、夫や自分の右腕である男性の待遇を上げることができず、結果的に大切なパートナーを失うことになります。どんなに家庭を犠牲にしても許される男性と、地位や名声、富を手にするためには多くを失わなければならない女性。この現状を変えるためには、2人と共に私たち自身が、“なぜ?”と声を上げ続けなければならないのでしょう。
こういった課題意識を与えられる一方で、互いを陥れるために裁判にまで発展したり、戦争に巻き込まれながらも新たな商品展開を行ったりとコミカルなほどに争いあう2人の生命力の強さはあっぱれ。決して手を取り合わず、永遠のライバルでありながら、根底では共感し合う2人の関係性は、女性ならではの絆の形なのかもしれません。
華やかで明日を力強く生きるエネルギーに溢れたミュージカル『エリザベス・アーデンvs.ヘレナ・ルビンスタイン -WAR PAINT-』は5月17日まで日生劇場にて上演中。ブロードウェイ版のクリエイティブ陣が来日するスペシャル・トークバックが開催される回もあります。また大阪・名古屋・京都公演も。スケジュールの詳細は公式HPをご確認ください。
ヘレナ・ルビンスタインは乾燥肌や脂性肌といった肌質によって化粧品を変えることを世界で初めて提唱、世界初のデパート販売を開始、世界初のウォータープルーフ マスカラを発表など、現代では当たり前となったコスメの常識を作った人。その成功の影にある孤独と力強さに勇気をもらえます。