来年5月、劇団四季が最新オリジナルミュージカル『ゴースト&レディ』を上演すると発表されました。この作品は、『ノートルダムの鐘』で知られるスコット・シュワルツさんが演出を手がけるなど、豪華制作陣に期待が高まっています。またクリミア戦争を舞台とし、あのナイチンゲールが主人公となる物語についても紹介したいと思います。

演出は『ノートルダムの鐘』で知られるスコット・シュワルツ

劇団四季のオリジナル作品といえば、1964年初演のファミリーミュージカル『はだかの王様』を筆頭に、『ユタと不思議な仲間たち』(1977)や『夢から醒めた夢』(1987)といった傑作揃い。近年でも『ロボット・イン・ザ・ガーデン』(2020)や『バケモノの子』(2022)など、およそ年に1本のペースで新作を発表し、観客の心を掴んでいます。

そんな劇団四季が2024年に上演することになったのが、この『ゴースト&レディ』。まず注目すべきは、演出をスコット・シュワルツさんが手掛けるということです。彼は、2014年・2015年に米国で上演された『ノートルダムの鐘』を手掛けたことでよく知られています。ブロードウェイではジョン・ケアードさんと共同で演出した『ジェーン・エア』、オフ・ブロードウェイやウェストエンドでも多くの作品を担当し、数々の賞を受賞しています。『ノートルダムの鐘』は劇団四季でも、2016年の初演以来熱い支持が寄せられる人気作品となっています。

各分野の第一線で活躍する豪華クリエイターたち

演出の他にも、豪華クリエイターが集います。脚本・歌詞に高橋知伽江さん、作曲・編曲に富貴晴美さん、音楽監督に鎭守めぐみさん、振付にチェイス・ブロックさん、イリュージョンにクリス・フィッシャーさん、装置デザインに松井るみさん、衣裳デザインにレッラ・ディアッツさん、擬闘に栗原直樹さん、映像に松澤延拓さんを迎えます。

ここに、劇団内の才ある制作陣も加わり、創作が目下進められているようです。

クリミア戦争を背景とする、人間とゴーストのファンタジックなラブストーリー

原作は、藤田和日郎さんの中編コミックス『黒博物館 ゴーストアンドレディ』。“クリミアの天使”として有名なフローレンス・ナイチンゲールの生涯を、史実を交えながら大胆な解釈で描いたものとなっています。

物語は19世紀。ロンドンのドルーリー・レーン王立劇場に居る有名なシアター・ゴースト、グレイのもとに一人の女性が現れ「私を殺してほしい」と懇願します。フローレンス・ナイチンゲール(フロー)という名の彼女は、看護の道を使命と信じるも周囲の反対によってそれを全うできず、生きる意味を見失っていました。最初は拒んだグレイですが、「フローが絶望の底に落ちた時に取り殺す」ことを条件に願いを聞き入れます。

行動を共にするようになった二人は、クリミア戦争での傷病兵を収容するスクタリ陸軍野戦病院へ赴きます。グレイとの契約で死を覚悟し、自らの理想に向かって強く突き進み始めるフロー。彼女の絶望を期待するはずのグレイも次第にフローの手助けをするようになり、いつしか二人は不思議な絆で結ばれていくのです。

その大いなる活躍から、「クリミアの天使」として知られるようになっていたフロー。しかし彼女によって自らの地位が脅かされた軍医長官ジョン・ホールは、彼女の活躍をよく思っていませんでした。フローを亡き者にしようと謀ったホールは、とある人物に命令を下し…。

偉人としてではない、等身大のナイチンゲール

物語の主人公フローは、歴史的偉人として名をはせるフローレンス・ナイチンゲールがモデルとなっています。

上流階級に生まれ華やかな生活を送っていた彼女は、慈善活動を通して貧しい人々を目の当たりにし、看護の道を志すようになります。当時の社会において、看護は身分の低い女性たちの仕事であったため、家族から激しく反対されました。

しかし30歳を過ぎても夢を捨てきれなかった彼女は、トレーニングを経て、ロンドンの療養所にて看護監督に就任。その後旧友からの依頼で赴いたクリミアでは、兵士たちの看病だけでなく、看護の場における衛生環境の改善や、協力体制づくりに力を注ぎました。この活躍により彼女は英雄と称され、看護の歴史においても重大な役割を果たしました。

この作品から伝わるのは、ナイチンゲールの偉大さではなく、むしろ私たちと同じように様々な経験を通して成長していく、等身大の姿です。「女性は戦地で役に立たない」といった差別や偏見にも負けず、己の信じる道を貫くナイチンゲール。多様な価値観が認められるようになり、何を信じるべきかを却って見失いかねない現代に生きる私たちに、明日を生きる力を与えてくれるのではないでしょうか。

人生に生きる意味を見出し、全力で生き抜く。

この作品には、「生きる意味を見出す」「その人生を全力で生き抜く」といったメッセージが込められています。これらは劇団四季の基本理念である「人生の感動」「生きる喜び」に重なり、上演することに大きな意義がもたらされるでしょう。

劇団四季による期待の新作ミュージカル『ゴースト&レディ』は、JR東日本四季劇場[秋]にて2024年5月開幕予定です。公式HPはこちら

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このニュースを知ったときにまず関心を引いたのは、スコット・シュワルツ氏の演出ということです。『ノートルダムの鐘』では、あっと驚く大胆な手法だけど、キャラクターの心の機微まで取りこぼすことなく丁寧に鮮明に描き出される、センセーショナルな演出が印象的でした。今回はどのような演出をつけるのかが楽しみですね。また主人公のモデルも、誰もが知るあのナイチンゲール。一人の人間として苦悩し強く生きるありのままの姿を、ぜひ劇場で確かめたいと思います。