『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『マリー・アントワネット』などに出演、日本のミュージカル界のトップを走り続ける女優・昆夏美さん。ご自身も大のミュージカルファンであり、夢を掴み続ける姿に魅了されるファンは多いのではないでしょうか。今回は昆夏美さんにミュージカルに魅了されたきっかけから、ミュージカル女優としてのこだわり、今後の展望までたっぷりと伺いました。(ミュージカル界の絶対的ヒロイン!昆夏美プロフィール徹底解説 編はこちら

ミュージカルと出会い、エポニーヌに出会う

−小さい頃から歌が好きで、児童劇団にも入っていた昆さん。学生の頃は月に何本もミュージカル作品を観ていたそうですが、特に好きだった作品はありますか?

「中学生の頃までは、劇団四季の『ウィキッド』『マンマ・ミーア!』『夢から醒めた夢』『アイーダ』などを何度も観に行っていましたね。高校生になってから、通っていた学校のボイストレーナーの先生が出演されていたのをきっかけに、青山劇場で上演されたミュージカル『ウーマン・イン・ホワイト』(2007年)を観に行きました。こんな風に歌えるようになりたいと思いましたし、その後、『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』などの作品も観るようになって、“こういう作品に自分も出たい”と思うようになりました」

−そして昆さんも2011年にミュージカル『ロミオ&ジュリエット』でデビュー、2013年には『レ・ミゼラブル』に出演されました。

「親が連れて行ってくれたミュージカル作品の中に『レ・ミゼラブル』があって、エポニーヌの「On My Own」に衝撃を受けたんです。この曲を歌うために『レ・ミゼラブル』に出たいという思いが強くなりました。お風呂場でシャワーヘッドをマイクに見立てて、“エポニーヌ役の昆夏美です”と自分で製作発表風に言ってみたり(笑)、「On My Own」を歌ったりしていたんです。だから2013年に本物の製作発表で“エポニーヌ役の昆夏美です”と言えた時は、夢が1つ叶ったと思いましたし、“強く願えば叶う”って本当にあるなと思った出来事でした」

−ジュリエット、エポニーヌ、キムといった誰もが知る大役を務めてきた昆さんですが、大役ゆえのプレッシャーを感じたことはありますか?

「もちろんあります。ジュリエットでデビューした時は、“下手って思われたらどうしよう”“何でこの人が選ばれたの?と思われたらどうしよう”とか、人にどう思われるかが気になっていました。だけど、色々なお仕事をさせて頂いて、経験を積むことによって、自分が作品の1つのパーツとして、作品を届けられるかな、届けるために自分が足りていないものは何だろう、それはどうして出来ないんだろう…と自分への意識に変わっていきました。人からどう思われるかどうかから、自分自身に対するプレッシャーに種類が変わってきたと思います。
もっと大きなことを言うと、生きていく上でも人の好みに合わせたり、嫌われないように色々なことを気にしていると変なことになっちゃうなと、この10年ほどやってきて気づけました。人間なので周りが全く気にならないわけではないけれど、今は自分軸で考えられていますね」

役として舞台に出るからこそ、役に合わせた“エネルギーの出し方”を

−『コインロッカー・ベイビーズ』のアネモネ(2016年)や『アダムス・ファミリー』のウェンズデー(2014,2017年)、『ロカビリー☆ジャック』のルーシー(2019年)などキャラの強い役を演じる昆さんも大好きなのですが、キャラクターの作り方で気をつけていることはありますか?

「“この人頑張ってんなー(笑)”と思われないことです。キャラクターによって作品で担うカラーや個性を見つけて、そこは立たせるのですが、全部を大袈裟にしない。1つの個性を見つけたら、あとは過剰にしないほうが見やすいと思うんです。凄く難しいなといつも感じますが、バランスは意識しています」

−エポニーヌ役ではエネルギーを放出させるような歌声が印象的だった昆さんが、『マリー・アントワネット』マルグリット役では強さの中に切なさを感じ、『マチルダ』のミス・ハニー役では神秘的な印象を抱きました。歌声の変化をご自身で感じられることはありますか?

「20代後半になってきた時に、若さでバーンと歌うだけではダメだなと思ったりとか、大声出して大きく動くからエネルギーが飛んでくるわけではないなと思ったりとか…役に合わせたエネルギーの出し方を、考えるようになってきていて。役として舞台に出ているので、“これが私の歌唱です!”と主張する歌い方にはなりたくないなと思っています。
例えば『マリー・アントワネット』のマルグリットと『マチルダ』のハニー先生では全然エネルギーの出し方が違う。その違いを考えられないといけないと思うし、ハニー先生の声の出し方をお稽古場の時から凄く模索していました。テクニカルな面でいうと自分の地声で出せる音域でも、地声で出してしまうとハニー先生の繊細さや奥行きが出なくて、“全然未来切り拓いていけるじゃん”と自分でしっくりこなかったり。ハニー先生は特にそういった微調整をしていたので、歌声が違うなと思ってくださったのは嬉しいです。普通は役作りで声の出し方を悩むなんてことはなく、役を作っていく上で自然と出来上がっていくものなんですけどね。いい勉強になりました」

−歌い方を変えるというのは簡単なことではないと思いますが、どのように調整されていらっしゃるのでしょうか?

「喉への当て方だったり、響きだったり…自分の感覚を信じて何度もトライしてみます。んー、感覚的なものだからうまく答えられずごめんなさい(笑)。あとは歌唱指導の方や演出家の方だったり、ハニー先生の場合はWキャストのゆうみ(咲妃みゆさん)に聞いたりして、信頼できる人に聞きながら調整していくことも大事だなと思っています」

−役によって調整していく力は、昆さんの凄さの秘訣の1つですね。

「20代の頃は『レ・ミゼラブル』や『ミス・サイゴン』など、作品や楽曲や役柄に説得力を持たせるには、自分の持っているエネルギーを全部出さないと届かない環境で育ってきました。でも役柄によっては自分の100%がtoo muchになることもあって、引くことも大事だなと。もちろん単純にエネルギーを減らすって意味じゃないですよ。そういう調整も、調味料を足し引きして料理を作っていくような感覚で楽しいですね。そこに楽しみを見出せるようになってきたのも、これまで様々な役の経験が財産になっているからこそかなと思います」

−山崎育三郎さん、海宝直人さん、小野田龍之介さんなど様々な俳優さんと“ベストコンビ”だと感じさせるハーモニーも印象的です。相手役の方とのハーモニーという点で、心がけていることはありますか?

「パワーのバランスですね。共演経験の多い方や気心知れている方だとバランスが阿吽の呼吸で取れるのですが、初めての方とデュエットする時は、ついていくのか、寄り添うのか、引っ張るのか、向き合ってぶつかり合うのか…そういうのを感じるセンサーがデュエットには大事かなと思っています。でも実際は余計なことは考えずに一緒に空気を作り、その世界を2人で楽しめてることばかりですけどね」

生の舞台は尊いものだと改めて感じられた

−コロナ禍で作品が中止になったり、体調を今まで以上に気遣ったり、マスクで息苦しい中での稽古が強いられたりと様々な変化があったかと思います。まだまだ終息したとは言えない状況ではありますが、2020年〜2022年を振り返ってみて、いかがでしたか?

「どんなに稽古をしても、どんなにこの作品は絶対にやりたいと思っても、無情にも唐突に止まってしまう切なさと、やるせなさと、どこにこの気持ちを持っていけば良いんだという気持ちはありました。その後、無観客で配信したり、声は出せない状態でお客様が劇場に入れるようになったり、少しずつ進んでいって。
ようやく笑い声や歓声を出せるようになった今、舞台はお客様のレスポンスがあって、一体感があって作品が完成するんだなという当たり前のことを、お客様も演者も感じたと思います。演劇、生の舞台は尊いものだと改めて感じられたのは良かったんじゃないかなと。悔しい思いもしたけれど、全部が“こういう時があったね。でもだから今があるね”と思える未来になったらいいなと思っています」

−『マチルダ』ではお客さんの歓声も多い作品でしたよね。

「舞台に立っていると、お客様が喜んでくれる空気って声に出していなくても何故か伝わってくるんですよ。会場今あったかいなとか、乗っているなとか。空気で伝わってくるんだけど、音で聞くと倍増して伝わってきます。演者も乗せていただけるというか、この作品が伝わっているんだなと思えるので、『マチルダ』は嬉しかったですね」

−今後挑戦してみたい作品や役柄があれば教えてください。

「私は今まで未来を自分で切り拓くタイプの強い女性の役が多かったので、『マチルダ』のハニー先生も意外だねと言われることが多かったんです。意外だなと思われるということは、少なからず私のイメージがあるんだなと。それはありがたいと感じつつも、その中だけにいたら成長しないなと思うから、「意外だな」をやっていきたいですね。
新しい扉を開いて、皆さんにも新しい自分を見ていただけたら、自分の幅も広がっていくはず。表現には垣根はないと思っているので、声の仕事や映像、ミュージカル、ストレートプレイなど、ジャンルを超えて挑戦していくことで、新しい表現を身につけていけることが願いです」

撮影:木南清香
スタイリスト:下平純子
ヘアメイク:大野真理江
衣装:Kinoshita  Pearl
ALESSANDRA  DONA
(すべてlizipress)

Yurika

2023年にはファン待望のファンクラブも開設!今後も歌声、表現力が進化していくのが楽しみです。