公開前から既に大きな話題を呼んでいる実写映画『リトル・マーメイド』。ディズニー創立100周年の今年、満を辞して実写化に踏み切った本作の魅力とは?6月9日(金)に公開となる実写映画『リトル・マーメイド』の鑑賞リポートをお届けします。
アニメーションの名シーンを最新映像技術で実写化
実写映画となると原作アニメーションとの相違点が着目されがちですが、本作を鑑賞後に再度アニメーションを見て驚いたのは、あらゆる名シーンが最新映像技術によって再現されているということ。「アンダー・ザ・シー」「パート・オブ・ユア・ワールド」などの名曲はもちろん、アリエルが宝物を隠している洞窟や海から見た花火など、アニメーションで印象的なシーンが美しく実写化されているのです。
時にアリエルの視点で、本当に海に潜り込んでいくような感覚を味わえる最新映像技術は圧巻。幼少期に憧れた世界そのものに入っていくような鑑賞体験は本作の大きな魅力です。この点において『リトル・マーメイド』は、IMAXなど映画館での映像体験が進化した今だからこそ、実写化する価値がある作品だったと言えます。
力強く、探究心に溢れた魅惑的なアリエル
そして実写『リトル・マーメイド』の成功の鍵を握った人物と言えるのが、アリエルを演じたハリー・ベイリーさんでしょう。彼女の魅力は、人魚のような人並外れた透明感ある歌声と、その瞳に宿る大きな意志。監督のロブ・マーシャルさんが「これは私のための役だと主張しているかのようにピッタリとハマった」と語ったように、アリエルの根底にある新しい世界への探究心と、それを自分自身で掴み取ろうとする強さが彼女自身から溢れ出ているように感じます。
それは単にアリエルに“現代の女性像”を追加したというだけでなく、ハリー・ベイリーさんがアリエルに強く共鳴した上で、彼女自信が持つ強さと信念を元に、アリエルを構築しているように思えます。アニメーションでは“美しい女性(人魚)”であり、“ハンサムなエリック”に惹かれるアリエルですが、本作ではより人間の世界への関心の強さ、人間になったことで初めて見る世界への高揚感が描かれています。
新曲「何もかも初めて」はそれを象徴する一曲。彼女が今までいた世界を捨て、危険をおかしてまで見てみたかった世界。そこにあったのは、新たな驚き、美しさ、楽しさ、そして不安や胸が締め付けられるような悲しみ。彼女の感情1つ1つを豊かに描いていく楽曲であり、その彼女の好奇心や純真さこそが、アリエルの“美しさ”なのだと分かります。
エリックの人物像が見える新曲「まだ見ぬ世界へ」
アニメーションと本作との大きな違いとして挙げられるのは、エリックの人物像について深く掘り下げているということ。エリックもアリエルと同様に、子供を思うが故に過保護になってしまう親に“理解してもらえていない”と感じ、新たな世界へ踏み出そうとし続けます。エリックが新たな世界を求めるのは単なる好奇心だけでなく、他国の貿易や文化を知ることで自分の国を進化させようとしているため。
ハンサムだから、美しいからと惹かれ合うのではなく、2人の抱える境遇や求めるものに共感し合うからこそ、アリエルとエリックは運命的に惹かれ合う。新曲「まだ見ぬ世界へ」と共に描かれるエリックの姿からは、時代を切り拓いていく革新的なリーダーとしての素質が見えます。
人魚と人間、誤解と分断の先にあるもの
本作では人魚と人間という、決して交わらないと思われた2つの世界が、アリエルとエリックにより力強く結びつき合う様子が描かれます。いわば分断的だった世界の中で、誤解や固定概念に捉われずに歩み寄った2人なのです。2人が手を取り合ったその先に待つ未来とは。今、2023年に公開されるからこそ、迎える結末は、涙なくしては見られません。これは決してファンタジーの世界のおとぎ話ではなく、今を生きる私たちの物語なのです。
実写映画『リトル・マーメイド』は6月9日(金)から全国の映画館にて公開。上映時間等の詳細は各映画館のHPにてご確認ください。
アリエルがエリックと共に探検する人間の世界は、とてもエキゾチックで魅力的。思わず心躍ってしまうシーンでした。またアリエルの姉妹を7つの海の七姉妹にしたことで、納得性のあるグローバル感を演出していたのも印象的。ミランダ節炸裂の新曲「スカットル・スクープ!!」は、作品のユーモアさとスカットルのキャラクター性を存分に引き出しています。