2023年6月11日(日)、ニューヨーク市マンハッタン区の北部・ワシントンハイツにある大劇場、ユナイテッド・パレスにて、第76回トニー賞の授賞式が行われました。日本では、WOWOWでの生放送・生配信(日本時間12日(月)の朝)が行われ、行方を見守った、という方もいらっしゃるかもしれません。世界中から観客が集まるブロードウェイ。そこで上演された作品やその関係者の功績を讃える祝宴の様子を振り返ってみましょう。

今年もアリアナ・デボーズが魅せた!

ホストには昨年のオープニングアクトで堂々のパフォーマンスで喝采を浴びたアリアナ・デボーズが登場。今年は異色のパフォーマンスでの幕開けとなりました。

冒頭の映像上で、楽屋にいるアリアナが授賞式進行の台本を開くと、どのページも全て白紙。呆れ顔を見せた後に、それならば、とダンサーたちを引き連れて、会場でのダンスパフォーマンスに移ります。

荘厳な内装のユナイテッド・パレスでトニー賞授賞式が行われるのは今回が初めて。その劇場を存分に活かし、ホワイエや客席など劇場全体をステージにして圧巻のオープニングアクトを披露。客席もスタンディングオベーションで讃え、会場の熱気が伝わりました。

例年、ブロードウェイのミュージカル作品へのオマージュをたっぷり詰め込んだオリジナルパフォーマンスで注目を集めるオープニングアクトですが、今年は音楽とダンスのみ。これは全米脚本家組合によるストライキを受けて、ショーを支える脚本家への敬意を表すための対応だそう。授賞式自体も台本なしで進行し、異例の回となりました。

それでも、ノンバーバルに仕上げられたオープニングアクトは今年も見応え抜群。先頭を切って踊るアリアナのセンスの良さが光りました。また、司会としても逆境を跳ねのけるような彼女のトークもチャーミングで、改めてアリアナ・デボーズという俳優の多彩な魅力の虜になってしまいます。

豪華ラインナップのパフォーマンスで多くの俳優にスポットライトを当てた

トニー賞授賞式はミュージカルパフォーマンスも見どころですが、通常、作品の一部を披露するのは作品賞とリバイバル作品賞にノミネートされた作品のみ。今年は以下の作品がノミネートされており、『ニューヨーク・ニューヨーク』、『パレード』などが作中のミュージカルナンバーを披露しました。

 <作品賞>
『&ジュリエット』
『キンバリー・アキンボ』
『ニューヨーク・ニューヨーク』
『シャックト』
『お熱いのがお好き』

<リバイバル作品賞>
『キャメロット』
『イントゥ・ザ・ウッズ』
『パレード』
『スウィーニー・トッド』

今年の授賞式では、これまでの慣習から一歩踏み出して、ノミネート作品以外のパフォーマンスも実施。歌手のニール・ダイアモンドの人生を彼の曲とともに描いた『ビューティフル・ノイズ』からは大ヒット曲「Sweet Caroline」が披露され、観客も合わさっての大合唱。そしてリア・ミシェルが出演して話題を呼んだ『ファニー・ガール』からは名曲「Don’t Rain on My Parade」が披露され、彼女の熱唱が会場に響きました。『ファニー・ガール』のパフォーマンスには名古屋出身の岩井麻純さん、ハワイ出身のキャンディス・ハタケヤマさんも出演!

写真:AP/アフロ

また、長年の功績を讃える功労賞が、作曲家のジョン・カンダー(『ニューヨーク・ニューヨーク』、『キャバレー』、『シカゴ』など)に授与されたことを記念して、アリアナ・デボーズとジュリアン・ハフが『シカゴ』から「Hot Honey Rag」を披露して祝福しました。

写真:AP/アフロ

劇場で多くの感動を生み出す演劇関係者が称えられる年に一度の祝宴。その舞台でスポットライトを浴びられる人が一握りであることも事実です。そんななかで、例年以上に多くの時間がパフォーマンスに割かれた今年。台本がなかったことが上手く作用したのでしょうか。舞台上で存在意義を示し、賞賛を浴びる。多くの俳優が輝く姿に、見応えを感じた授賞式パフォーマンスでした。

最優秀演劇作品賞に『レオポルトシュタット』
最優秀ミュージカル作品賞に『キンバリー・アキンボ』が輝いた。
俳優部門での受賞者スピーチも必見。

パフォーマンスで温まった会場で行われた各部門の受賞者発表にも、感動が詰まったシーンが生まれました。

注目の作品賞は、演劇部門では四世代にわたるユダヤ人一家の物語『レオポルトシュタット』が受賞。演劇演出賞、演劇助演男優賞、衣装デザイン賞と合わせて4部門に輝きました。

写真:AP/アフロ

ミュージカル部門では、急速に老化していく難病の女子高生を描いた『キンバリー・アキンボ』が最優秀ミュージカル作品賞、ミュージカル主演女優賞、ミュージカル助演女優賞など最多の5部門を受賞。今シーズンを代表する作品として歴史に名を刻みました。

写真:AP/アフロ

特に今のブロードウェイを映し出したのは、ミュージカル部門の俳優賞レースです。最多12部門13ノミネートの行方が注目された『お熱いのがお好き』で主演男優賞にノミネートされたJ・ハリソン・ジーと、『シャックト』での伸びやかな歌声で助演男優賞にノミネートされたアレックス・ニューウェル。ふたりは、性自認を明言していないノンバイナリーを公言している俳優として、初めてのノミネート、受賞となりました。

手にしたトロフィーを観客に向け、「“見られてはいけない”と言われてきたみなさん、これはあなたたちへの贈り物です」と、勇気を与えたJ・ハリソン・ジーのスピーチ、アレックス・ニューウェルの「私は、ノンバイナリーの、太ったマサチューセッツ出身の人間としてここにいます。『無理だ』と思うみなさんに目を見て伝えたいと思います。」という万感の思いがこもったスピーチは授賞式のハイライトとなりました。

写真:AP/アフロ

授賞式後には、舞台裏の様子もSNSで次々に投稿され、「glee/グリー」で共演したリア・ミシェルとアレックス・ニューウェルの再会に、ファンからは喜びの声が上がりました。

<受賞結果一覧>
★演劇作品賞 『レオポルトシュタット』
★ミュージカル作品賞 『キンバリー・アキンボ』
★演劇リバイバル作品賞 『トップドッグ/アンダードッグ』
★ミュージカル・リバイバル作品賞 『パレード』

★演劇演出賞 パトリック・マーバー『レオポルトシュタット』
★ミュージカル演出賞 マイケル・アーデン『パレード』

★演劇主演男優賞 ショーン・ヘイズ 『グッドナイト、オスカー』
★演劇主演女優賞 ジョディ・カマー『プライマ・フェイシィ』
★演劇助演男優賞 ブランドン・ウラノヴィッツ『レオポルトシュタット』
★演劇助演女優賞 ミリアム・シルヴァーマン『ザ・サイン・イン・シドニー・ブルースティーンズ・ウィンドウ』

★ミュージカル主演男優賞 J・ハリソン・ジー『お熱いのがお好き』
★ミュージカル主演女優賞 ヴィクトリア・クラーク 『キンバリー・アキンボ』
★ミュージカル助演男優賞 アレックス・ニューウェル『シャックト』
★ミュージカル助演女優賞 ボニー・ミリガン『キンバリー・アキンボ』

★ミュージカル脚本賞 デヴィッド・リンゼイ=アベアー(『キンバリー・アキンボ』)
★ミュージカル装置デザイン賞 ベオウルフ・ボリット(『ニューヨーク・ニューヨーク』)
★演劇装置デザイン賞 ティム・ハトリー & アンジェイ・ゴールディング(『ライフ・オブ・パイ』)
★ミュージカル衣装デザイン賞 グレッグ・バーンズ(『お熱いのがお好き』)
★演劇衣装デザイン賞 ブリジット・ライフェンシュトゥール(『レオポルトシュタット』)
★ミュージカル照明デザイン賞 ナターシャ・カッツ(『スウィーニー・トッド』)
★演劇照明デザイン賞 ティム・ラトキン(『ライフ・オブ・パイ』)
★ミュージカル音響デザイン賞 ネヴィン・スタインバーグ(『スウィーニー・トッド』)
★演劇音響デザイン賞 キャロリン・ダウニング(『ライフ・オブ・パイ』)
★オリジナル楽曲賞 「キンバリー・アキンボ」(作曲:ジャニーン・テソリ 作詞:デヴィッド・リンゼイ=アベアー)
★振付賞 ケイシー・ニコロウ(『お熱いのがお好き』)
★オーケストラ編曲賞 チャーリー・ローゼン & ブライアン・カーター(『お熱いのがお好き』)

(事前発表受賞者)
★功労賞 ジュエル・グレイ/ジョン・カンダー
★地方劇場賞 パサディナ・プレイハウス
★イザベル・スティーヴンソン賞 ジェリー・ミッチェル
★名誉賞 リサ・ドーン・ケイヴ/ヴィクトリア・ベイリー/ロバート・フリード
★演劇教育活動賞 ジェイソン・ゼンバック・ヤング

パフォーマンスあり、感動ありの「第76回トニー賞授賞式」。WOWOWなら、2023年6月17日(土) 21:00より、字幕付き放送・配信で観ることができます。最速で楽しめるのは、WOWOWだけ。日本のスタジオで、リアルタイムで授賞式を見届けたナビゲーターの井上芳雄さん、宮澤エマさんと豪華ゲストのトークも一部含むそう。ご視聴は公式ホームページをご確認ください。

Sasha

今回の会場となった劇場は、『イン・ザ・ハイツ』の舞台となった街にあり、オープニングアクトでも、彷彿とさせるシーンがありました。客席には、カメラに笑顔を抜かれるリン=マニュエル・ミランダの姿も。生配信で観て、客席の様子も含めて、ブロードウェイの「前進」を感じました。