世田谷パブリックシアターで6月21日(水)に開幕する舞台『ある馬の物語』。1975年にロシアで初演されて以降、国際的にも評価の高い作品です。2020年に第1回の緊急事態宣言発令により中止となってしまった本作が、3年の時を経て、スタッフ・キャストが再結集し、上演を果たすことになりました。
音楽や身体表現を駆使し、トルストイの名作を現代に再構築
ロシアの文豪トルストイの名作『ホルストメール』を戯曲化し、1975年、本国ロシアで初演された『ある馬の物語』。1980年代以降、日本でも度々上演されてきた本作を、世田谷パブリックシアターの芸術監督で演出家の白井晃さんが現代的な視点から再構築して上演します。本作は2020年に上演予定でしたが、新型コロナウイルス拡大による緊急事態宣言が発令され、稽古開始前にやむなく公演中止となりました。この度、3年という歳月を経てようやく上演が叶いました。
演出を務めるのは、2022年4月から世田谷パブリックシアターの芸術監督を務めている演出家の白井晃さん。『偶然の音楽』、音楽劇『三文オペラ』、『ガラスの葉』、『マーキュリー・ファー Mercury Fur』、『レディエント・バーミン Radiant Vermin』、『住所まちがい』など、ストレートプレイから音楽劇、ミュージカル、オペラまで幅広いジャンルの舞台演出を手掛けています。
白井さんは上演について以下のようにコメントしています。
「人の生は、何をもって充足と言えるのでしょうか。物を所有することに、いか程の意味があるのか。
100年以上前のトルストイの問いかけが、重石のように私たちの背中にのしかかります。それでも人は、欲望から逃れられません。
50年前にロシアの劇団が、小説から立ち上げたこの世界的な演劇の名作を、新たな演出で果敢に再構築したいと思います。もし、今、トルストイがこの現代社会を見たらどんな思いを描くのか。そんな視点で作品創りに取り組みたいと思っています」
訳詞・音楽監督に『Oslo』『森 フォレ』『ザ・ドクター』の音楽で第29回読売演劇大賞優秀スタッフ賞を受賞、話題の舞台の音楽を多く手がけている国広和毅さん。
振付には、日本を代表するコンテンポラリーダンサーで、今年の日生劇場会館60周年ファミリーフェスティバル『せかいいちのねこ』では脚本・演出・振付を手がける山田うんさんという強力なスタッフを迎えます。
人間が馬を演じるという演劇ならではのおもしろさ、そして音楽と身体表現の要素をふんだんに取り入れた演出に注目です。
『ある馬の物語』は、愚かな人間と思考する聡明な馬とを対比させ、「生きることとは何か?」という普遍的なテーマを、叙情豊かに問いかける作品です。
ホルストメールは、天性の俊足を持つ駿馬。しかし、生まれつき人間が嫌う「まだら模様」だったため、価値のない馬として育てられました。ある日、厩舎に凛々しい公爵が現れ、一目でホルストメールの天性の素晴らしさを見抜き、安価な値段で買い取ります。
ホルストメールにとって、公爵との生活は唯一の輝かしく幸福な日々。公爵の気まぐれで、ホルストメールが競馬に出走することになったある日、競馬場で公爵の愛人・マチエは若く美しい将校と出会い姿を消してしまいます。すると、気が動転した公爵は、ホルストメールをそりに繋ぎ、激しく鞭を打ち、走らせて…。
キャストに成河・別所哲也・小西遼生・音月桂ら個性豊かな18名
まだら模様に生まれたばかりに不遇な運命をたどる馬・ホストメール役を演じるのは、国内外の著名演出家の作品に多数出演し、昨年第57回紀伊国屋演劇賞個人賞を受賞した成河さん。
近年の出演作品に、『建築家とアッシリア皇帝』、『COLOR』、木ノ下歌舞伎『桜姫東文章』、NHK 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』などがあります。
成河さんは本作について「山田うんさんの振付で、フィジカル面においても創作性の高い馬を見つけていけるのではないかとワクワクしています。資本主義やその問題点、所有意識などを描き出す物語。難しく聞こえますが、白井さんはたくさんアイディアをお持ちなので、アクティブでダイナミックで、生きる喜びに満ち溢れる、テンポの良い現代的な作品に仕上がる予感がひしひしとしています。身構えず、華やかな音楽劇をお祭り感覚で楽しんでいただけたら」とコメントしました。
ホルストメールの中に潜む才能を見出す公爵役に別所哲也さん。
『チェーザレ 破壊の創造者』、『マイ・フェア・レディ』、『デスノート THE MUSICAL』、『南太平洋』、『コースト・オブ・ユートピア』、『ユーリンタウン』、『ナイン ザ・ミュージカル』、『ミス・サイゴン』、『レ・ミゼラブル』など様々な著名ミュージカル作品に出演。また、99年より、日本発の国際短編映画祭「ショートショートフィルムフェスティバル」を主宰し、文化庁長官表彰を受賞しています。
差別、愛憎、命の意味といった現代社会にも通じる様々な要素が描かれる本作。別所さんは「公爵という人物を通じて、この作品の背景である 19 世紀末の人々の生きざま、そしてそれが現代を生きる人々に重なっていくよう、お届けしたいと思っています」と語りました。公爵や、まだら模様の馬の前に立ちはだかる美と若さの象徴ともいえる男性(牡馬)役に小西遼生さん。
2005年の特撮テレビドラマ『牙狼〈GARO〉』シリーズで主人公・冴島鋼牙役を演じ好評を博しました。近年の主な出演作に、舞台『キングダム』、『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』『SLAPSTICKS』、ドラマ『ファーストペンギン』『家政夫のミタゾノ』『ドクターX』などがあります。CDのリリースや、ソロライブや無観客配信ライブの開催など、音楽活動も精力的に行っています。
小西さんは自身の演じる役について「僕が演じるのは美しい馬と、若き伯爵。ホルストメールの壁となる存在として、人間が根本的に持っている意識的、無意識的な欲望や本能を表現できたら」とコメント。
ファムファタールともいうべき女性(牝馬)役には音月桂さん。
2010年に宝塚歌劇団で雪組のトップスターに就任し、2012年まで、華やかな容姿と、歌、ダンス、芝居と3拍子揃った実力派トップスターとして活躍しました。現在は、様々なドラマ、映画、舞台などに出演中。近年の主な出演作品に『ナイツ・テイル―騎士物語―』、『フランケンシュタイン』、『レオポルトシュタット』などがあります。
音月さんは自身の役について「私は、牝馬と公爵の恋人マチエを演じます。ホルストメールの対象的な存在として美や若さなどを象徴する役どころ…私自身の引き出しを探りつつ、新たな発見もできたら」とコメントしています。
また、大森博史さん、小宮孝泰さん、春海四方さん、小柳友さんと個性あふれる魅力的な出演陣も物語を彩ります。
そして、浅川文也さん、吉﨑裕哉さん、山口将太朗さん、天野勝仁さん、須田拓未さん、穴田有里さん、山根海音さん、小林風花さん、永石千尋さん、熊澤沙穂さんら歌とダンスに秀でた10名が馬の群れをアグレッシブに表現します。
舞台『ある馬の物語』は、6月21日(水)〜7月9日(日)に世田谷パブリックシアターにて上演です。
終演後にアフタートークが開催される回も。
6月23日(金)18:30の回に、成河さん、別所さん、小西さん、音月さん、白井さん。
6月28日(水)14:00の回に、成河さん、別所さん、小西さん、音月さん、白井さん。
6月30日(金)14:00の回に、成河さん、ロシア文学者で世田谷文学館の館長を務める亀山郁夫さん、白井さん。
そして、7月5日 (水)18:30の回に、成河さん、訳詞・音楽監督を務める国広和毅さん、白井さんの登壇が予定されています。詳細は公式HPをご覧ください。
公開されているポスタービジュアルも印象的な本作。戯曲には“馬”を演じるにあたって、様々な制約が描かれているそう。その中で、いかに身体表現が使われるのか、山田うんさんの振り付けがとても楽しみです。