チャールズ・チャップリンの晩年の名作をもとにした音楽劇『ライムライト』。石丸幹二さん、朝月希和さん、太田基裕さんらが、アカデミー作曲賞を受賞した名曲「テリーのテーマ」(“エターナリー”)にのせて、舞台人の儚い宿命と残酷なまでに美しい愛の物語を描きます。8月3日(土)の開幕を前に行われたゲネプロの様子をお届けします。

「希望はなくても、素晴らしい瞬間はたくさんある」

1914年、ロンドン。かつてミュージック・ホールで主演を務めていたトップ喜劇役者だったカルヴェロ(石丸幹二さん)は徐々に酒に溺れるようになり、今や落ちぶれた老芸人に。長らくステージに立てず、元舞台女優のオルソップ夫人(保坂知寿さん)が大家を務めるフラットで、酒浸りの日々を送っていました。

ある日カルヴェロは、同じフラットに住むバレリーナのテリー(朝月希和さん) がガス自殺を図ったところに遭遇し、彼女を助けます。テリーは、自分にバレエを習わせるために姉が街娼をしていたことにショックを受け、脚が動かなくなっていました。

なぜ死なせてくれなかったのだと悲観的なテリーに対して、カルヴェロは「苦しみがあるからこそ生きるべきだ」「希望はなくても、素晴らしい瞬間はたくさんある」「人生の全てのために戦え」と彼女に言葉を投げかけ続けます。

カルヴェロの生きることに対する信念と、喜劇役者としてのステージに対する熱い思いを聞くうちに、徐々に笑顔が戻っていくテリー。カルヴェロも自らを奮い立たせ、復帰のステージに向かいます。

カルヴェロの支えの甲斐もあり歩けるようになったテリーは、ついにエンパイア劇場のボダリング氏(植本純米さん)が演出する舞台に復帰。カルヴェロに結婚を申し込みますが、カルヴェロは老人の自分と結婚すべきではないと取り合いません。

そしてテリーは、かつてほのかに想いを寄せたピアニストのネヴィル(太田基裕さん)と再会します。テリーのカルヴェロに対する強い思いは変わりませんでしたが、若い2人の姿を見たカルヴェロはテリーの前から姿を消してしまい…。

石丸幹二さん演じるカルヴェロは栄光を失ってもチャーミングさを失わず、「生きること」への強い情熱が印象的。トップスターがその名誉を失い、老いに向き合うには相当な勇気が要るはずです。そこでお酒に逃げてしまう彼の弱さが人間らしさを感じさせつつ、テリーを包み込む大きな愛情と、命を削ってでも舞台に立とうとする舞台人としての姿勢に惹かれずにはいられません。また石丸さんの歌唱技術により綿密に積み上げられていくラストは、涙なくしては見られないでしょう。

朝月希和さん演じるテリーは、生きる希望をなくし、脚が動かない1幕の静かな少女の印象と、2幕で舞台に復帰し、バレリーナとして舞う華やかな姿を対照的に描きます。朝月さんの美しい高音が印象的な歌声は、テリーの繊細さと、カルヴェロを思い続ける強さの両方を感じさせてくれます。バレエシーンは圧巻の美しさと迫力です。

出演者はたった8人、時に様々な役どころを演じ、踊り、儚さがありながらも生きることへの喜びに溢れた本作の世界観を作り上げます。「テリーのテーマ」を中心に何度も同じメロディーが使用されながらも、シーンによって全く印象が変わっていく音楽も、『ライムライト』の大きな魅力の1つです。

開幕を前に石丸さんは下記のように意気込みコメントを寄せました。

「60代のチャップリンが演じた老芸人カルヴェロ。ちょび髭をつけず、山高帽もかぶらず、素顔のまま。
今、私の頭は彼の言葉であふれ、心は彼の精神に満たされています。
「ライムライトの魔力、その光の中にスターは誕生する。その光からスターは去って行く」。
このセリフに接するたび、瞳を射る強烈な光や、穏やかに包み込む光を感じ、時には熱く高らかに、時には深く染み入るように語っている自分に出会います。
皆さんには、どんな言葉が響くでしょう。劇場で感じてください」

撮影:山本春花

「自分自身と戦うのは苦しい。でも、幸せのために戦うのは美しい」。カルヴェロの美しい台詞の数々の中に、人生を支える言葉がきっと見つかることでしょう。音楽劇『ライムライト』は8月3日(土)から18日(日)までシアタークリエにて上演。公式HPはこちら

Yurika

石丸さんの琴線に触れる歌声を聴いているうちに、気づいたら涙が止まらなくなっていました。