俳優・小野田龍之介さんの連載企画「小野田龍之介と春夏秋冬さんぽ」。季節を感じる場所をお散歩しながら、ミュージカルのことはもちろん、小野田さんの近況やこれまでについて様々な視点で掘り下げていきます。今月はミュージカル『ピーター・パン』に出演中の小野田さんに、1年目からの変化と、夏の思い出を伺いました。
子どもたちの声援が、物語を動かしている
−先月のインタビューでは、ミュージカル『ピーター・パン』開幕前のお気持ちをお伺いしていました。7月24日から開幕して、いかがですか。
「子どもたちのリアクションに、僕たちも楽しまされる作品だなと改めて感じました。演じている最中はフックになっているので声がはっきりと聞こえているわけではないのですが、俳優が気付かないうちに子どもたちの声援やリアクションが物語を動かしていることがあるんですよね。戦っているシーンとか。それは面白いですよね。東京公演は大きい子どもがフックを応援してくださって(笑)、それも嬉しかったですよ。『ピーター・パン』は夏の風物詩になっていますけれど、『ピーター・パン』の他にも、子どもと一緒に、おじいちゃんおばあちゃんも3世代4世代くらいに渡って楽しんでもらえるようなミュージカルが増えていったら良いですよね」
−今年はパイレーツシートもあって、フックを応援している人も多かったのではないでしょうか。昨年から2年連続の出演で気づいたことはありますか。
「昨年は猪突猛進にフックに挑んでいたんですけれど、今年は少し冷静な目線も持って、パイレーツのチームがロストボーイズとモリビトの3チームある中でどう差別化していくかを考えていると思います。演出家の長谷川寧さんからも今年は僕に関しては余白を与えてくださったので、アクションのシーンなど、色々と話し合いながら稽古が出来ました」
−取材時点では東京公演と、愛知公演(御園座)・広島公演(広島文化学園HBGホール)が終了しています。各地で反応の違いはありましたか?
「違いますね。愛知公演は劇場が御園座なので、大人のお客様が多い印象でした。だからこそ、パイレーツのシーンは大人にも笑ってもらえることが多いな、自分がやってきたことは間違っていなかったなと思えました。広島公演ではスペシャルカーテンコールで客席に降りた時に、フック船長の格好をしている子どもたちがたくさんいたんですよ。応援してくれていたんだなと分かるので、凄く嬉しかったですね」
−劇場によって音の鳴り方は違いますか?
「もちろん違います。御園座だったら色々なものの輪郭がはっきり分かりやすくなるのでいつもより丁寧にやりましょうとか、広島だったら大きい劇場でコンサート会場のように音が反響しやすいので、硬くしゃべりましょうとか、調整していました」
−ピーター・パン役の山﨑玲奈さんも2年連続の出演になりますが、昨年から印象の変化はありますか?
「調子乗りな、チャラいピーターに磨きがかかっていますね(笑)。彼女のピーターを見て、また新たなピーターが生まれるのかなと思うと楽しみですよ。彼女も唯月ふうかのピーターを観て憧れていたらしいですから。まだ高校生の相手にフックとしてムキになって芝居をするという機会もなかなかないので、役者としても不思議な経験が多い作品だなとも実感します」
−カンパニーとしての変化はありますか。
「今年からスウィングキャストが加わりました。長谷川寧さん演出版の『ピーター・パン』はパルクールを取り入れて、人間の身体を使って表現をするシーンが多いので、俳優の負担も大きいです。昨年はスウィングがいなくて僕自身もドキドキした部分があったので、今年は心強いです。実際に予期せぬポジションに入ってもらうこともあって、スウィングの力に助けられた東京公演でした。みんなには感謝しかないです。各地でももちろんスタンバイしていますし、スウィングでありながら少し出演しているシーンもあります。
あとスウィングやカバーキャストがいると、“あいつよりやれるのに”と思われないような芝居をしないと、と気が引き締まるんですよ。スウィングは何でも出来る、スキルの高い人たちでしか務まらないので、カンパニーにとって良い刺激にもなっていると思います。
作品によっては、カバー稽古やスウィング稽古というのがあって、カバーキャストやスウィングキャストだけで演じる稽古があります。それを僕たちも観られる時があるのですが、そうすると自分の役を客観的に見られるし、自分が気付かぬうちに流れていることや、垢がついていることに気付かされるんです。それでもう一度役を立ち返ることができるので、僕にとってカバーキャストやスウィングは良いバディという感じがします」
夏休みは週7日、ミュージカルのレッスンを受けていました
−小野田さんは子どもの頃、夏休みをどのように過ごしていましたか。
「僕は朝から晩まで、週に7日、ミュージカルのレッスンを受けていましたね」
−週に7日?!それは親御さんの方針ですか?
「いえ、自分の意思です。学校に行っている期間は、朝しかやっていない先生のレッスンを受けられないじゃないですか。だからそれを全部受けたかったんです。でも週に7日はさすがにキツくて稽古場で倒れちゃったので、途中から週5日に減らしました。それが夏休みの思い出ですね」
−さすがです…。本当に幼少期からミュージカルがお好きだったのですね。今年の夏は『ピーター・パン』でお忙しいとは思いますが、どのように過ごされていますか?
「この前大好きな江頭2:50さんの「エガフェス」があったので、『ピーター・パン』本番中で直接は行けなかったのですが、しっかり配信で観て推し活できました!あとは急に『ハリー・ポッター』シリーズの映画を見返したくなって、移動中とかに一気見していましたね。本当はプールに行ってお酒を飲んでのんびりしたかったけれど…今のところ出来ていないです」
−最近観たミュージカル作品で印象に残っているものはありますか?
「ミュージカル『この世界の片隅に』は全キャスト観て、良かったです。日本のオリジナル作品は制作期間が短くて限界を感じることがあるのですが、それを感じさせない作品だなと思いました。アンジェラ・アキさんが音楽を手がけるということで、最初は戦争中の物語にしてはポップなんじゃないかなと思っていたのですが、実際に聴いてみるとこういう音楽の方が現代のお客様に伝わりやすいのかなと思えて、色々と考えさせられました。Wキャストの役柄は俳優によってアプローチが全然違ったのも面白かったです」
−上半期はトニー賞やウエストエンドライブもありましたが、気になった海外作品はありましたか?
「トニー賞はやっぱり『アウトサイダー』ですかね。トライアウト公演から色々と改善してトニー賞受賞まで行ったと聞いたので、興味が湧きました。ウエストエンドライブは大好きでYouTubeでの配信は全て欠かさず観ていますし、現地に行ったこともあります。コロナ禍に復活した時は泣いてしまったくらい大好きなんです。今年印象に残ったのは、やっぱり『ハミルトン』かな。ずっとやっている作品ですが、お客さんも一緒に歌っていたし、凄く好きな作品ですね。あとは『ミセスダウト』。楽しい作品だし、僕も出演したいです」
−今年は『ピーター・パン』の大千穐楽である大阪公演が8日31日にあり、『ピーター・パン』一色の夏ですね。
「もしかしたら『ピーター・パン』に出演するのは最後かもしれないので、最後まで楽しんでフックを演じたいです。どの作品も毎回、これが最後かなと思いながら出演しているのですが、2年連続で出演できる作品というのはなかなかないので、最後までチームで楽しみながら頑張っていきたいと思います」
夏休みなのに、夏休みだから朝のレッスンが受けられる!と考えた小野田さん…そういったあくなき探究心と愛情から、今のご活躍が生まれているのだなと実感しました。