10月25日(土)から天王洲 銀河劇場にて開幕したミュージカル『マリー・キュリー』。2023年に日本初演され、大きな反響を得た本作が新キャストを迎え、待望の再演の幕が上がります。初日公演を前に行われた囲み取材と公開ゲネプロの様子をお届けします。

“アンビシャスバージョン”と“不器用で誠実な愛バージョン”の2つを楽しんで

ミュージカル『マリー・キュリー』囲み取材には、本作に出演する昆夏美さん、星風まどかさん、松下優也さん、葛山信吾さん、鈴木瑛美子さん、石田ニコルさん、水田航生さん、雷太さんと演出の鈴木裕美さんが登壇しました。

昆夏美さんはマリー役について「最初は科学に対して、色々な障害を乗り越えていく強さを感じたんですけれど、稽古をやっていくうちに、マリーは1人では生きていけなかったんだなというのを凄く感じるようになりました。人に対する愛や、自分に対しての愛はあまりなかったかもしれないけれど、それでもラジウムをようやく見つけて自分の探究心が実った時の自分への愛、そしてもちろん科学に対する愛、この世の中を良くしたいという愛。“自分だけ”という人間ではないと感じたので、舞台上で皆さんと交流しながら物語を進めていけたら」と語ります。

また「マリーの時代のように“女性だから〜をしてはいけません”と言われるようなことは少なくなってきているかもしれないけれど、なくなったわけではないと思っています。マリーが大学に入って、周囲から女性が科学をしているなんてと言われ、勇気を持って立ち向かうシーンがあるのですが、稽古場で裕美さんが“このシーンのマリーは、客席にいるお客様が「これは私だ」と思うような真実性を持ってやらなければ”とおっしゃったのがとても響きました。自分はありがたいことにそういうことを感じる経験がなかったのですが、どこかの誰かが同じような経験をしているかもしれないと思いながら演じたい」と思いを語りました。

星風まどかさんは「(マリーは)初めは科学への愛や母国への愛が中心だったのが、色々な方に出会うことによって夫婦愛や友情といった原動力が増えていく感覚がありました。私自身もお芝居するにあたって相手の方とのキャッチボールに心躍りますし、それによって助けられる部分を毎回感じています。マリーが最後に浄化できるのは、周りの方々に助けられてもらった人生だったからで、私もそういう人生を送ってきているので、そういうことを大切に演じていきたい」と語りました。

またマリーの境遇について「当時の女性がどんな思いで日々を生きていたのかは本当に計り知れないんですけれども、マリーが障害にぶつかるたびに、自分ではありがたいことに感じてこなかった感情を、あらゆるところから引き出しを開けて演じられるように。色々な気持ちで観てくださっている方がいると思うので、そういう方に寄り添いながら、マリーとして生きられたら。女性が何かを成し遂げていらっしゃるニュースを見ると単純に嬉しくなる気持ちがあるので、そういう感情をエネルギーに変えて役としての肥やしにできたらと思いながらやっています」と思いを語りました。

「一つ前の作品でパワフルなドラァグクイーンの役をやらせてもらって、今回は物理学者の男性ということで間に合うのかなと思っていたのですが、演出の裕美さん、マリー役の昆さん、カンパニーの皆さんに導いてもらいながら、間に合いそうです!」とユーモラスに語った松下優也さん。ピエール役について「マリーの良き理解者であり、生涯に渡り寄り添いサポートする役柄で、そういう役どころはあまり多くはやってきていないので、個人的には挑戦になる役かなと思っています」と語りました。

Wキャストでピエール役を演じる葛山信吾さんは、「この作品に挑むこと自体が大きな挑戦ではありますが、30代半ばの方が多い中で50代1人入り込むのはどうなんだろうという不安が最初ありまして…(笑)。ただ思い返せば、30代半ばの時に初めて鈴木さんに『アンナ・カレーニナ』という作品でミュージカルに引き込んでいただきまして、今回は、今ミュージカル界で活躍していらっしゃる方々の中に入り、なんとか53歳頑張る!というのが挑戦でございます」とコメント。

鈴木瑛美子さんはアンヌとマリーの関係性について「昆ちゃんのマリーとは、自分を主張し合うことで分かり合えたり、信頼し合えたりする関係性かなと思っています。(松下さん演じるピエール含め)3人がそうかもしれないんですけれど。自分という人間がいてこそ、相手を受け入れ、愛し信じることができる。マリーは大切にしている科学というものがあって、アンヌにもやりたいことに対して突き進んでいく部分があるので、そこが共通点になっている」と語ります。

石田ニコルさんは「まどかちゃんのマリーの背中をグッと押していけるような存在にあれたら良いなと思うので、毎日まどかちゃんをずっと見つめています。今日はこんな感じでやるんだなとかいうことを見つけられるので、見つめ続けたい」とコメント。

水田航生さんはルーベンという役柄について、「史実上にはいない役なので、“ファクト×フィクション=ファクション・ミュージカル”のフィクションを担う出方をするのが面白い部分ですし、それをどうお客様が感じ取るかによって、作品の見え方がそれぞれ変わっていくのが見どころだと思います。思いの外踊っているので、ダンスシーンも見どころの1つ」と語ります。

落ち着いた佇まいにキャストから「支配人なの?!」とツッコミが飛んだ雷太さんは、「Wキャストということで自分も客観的に作品を見ることができたんですけれど、僕自身もすごく、皆様のパフォーマンスで心揺さぶられる瞬間がたくさんあって、楽曲もクリエイティブも演出も全てが素晴らしい作品に仕上がっていると思いますので、劇場にお越しいただく皆様に素敵な演劇体験をお届けできたら」と意気込みました。

演出の鈴木裕美さんは「たい焼きで言えば尻尾の方まであんこがパンパンに入っています!」とキュートな表現で作品への自信をのぞかせます。「様々な種類の愛が描かれています。マリーの科学に対する愛、夫婦の愛、友人との愛。非常に強い情熱を持って進んでいく主人公がいるので、ミュージカルファンの方も、演劇ファンの方も、何かを愛する、それに突き進んでいくということに共感していただけるかなと思っています。また私の目から見ると2つのバージョンは相当違っていて、昆ちゃんたちは野心的でキラキラした愛、“アンビシャスバージョン”という感じ。個がぶつかり合う感じですね。一方、まどかちゃんたちはもう少し“不器用で誠実な愛バージョン”という感じ。調和であったり、お互いを思いやる気持ちというものがより濃い味になっていると思うので、ニュアンスは比較的違うと思います。2つのバージョンをご覧いただけると、1つの戯曲、1つの音楽でこんなにも違うように表現できるのか、優れた音楽や戯曲は面白いなと思っていただけるのでは」とアピールしました。

「私が誰かではなく、私が何をしたかを見てください」

ここからは、マリー・キュリー役:昆夏美さん、ピエール・キュリー役:松下優也さん、アンヌ役:鈴木瑛美子さん、ルーベン役:水田航生さんの公開ゲネプロの様子をお届けします。

19世紀末、パリのソルボンヌ大学に進学するため、列車に乗っていたマリーはアンヌという女性に出会います。科学者として新しい元素を見つけるという夢を、目を輝かせて語るマリー。アンヌもまた、祖国ポーランドを出て自分らしく働く夢を思い描いていました。

男性科学者しかいない時代に、偏見に立ち向かいながら、科学を追求し続けるマリー。同じ研究者であるピエールと出会い、共に新たな元素ラジウムを発見、ノーベル賞受賞という快挙を成し遂げます。

発光するラジウムを使用した様々な商品が販売され、がん治療の研究も進んでいく最中、研究を支援する男ルーベンが経営するラジウム工場では、徐々に体調を崩す工員が。そこではアンヌも働いており、アンヌは体調不良の原因に疑問を持ち始めます…。

女性初のノーベル賞受賞、さらに物理学賞と化学賞という2つの賞を受賞する功績を残したマリー。本作ではそういった輝かしい部分だけでなく、彼女が女性として、ポーランド人として、偏見と立ち向かい続け、危険性も持つラジウムと向き合う苦悩や科学者としての使命、後悔が描かれます。

マリーの科学に対する大きな愛と探究心、類稀なる才能があったことはもちろんですが、彼女と共に科学を探究し人生を支えたピエールや、アンヌのように工場で働く人々、そして科学研究を支援するルーベンのような存在が無くしては、彼女の功績は生まれなかったでしょう。“”歴史の偉人”も1人の人間であり、さまざまな人との出会いによって人生が紡がれていったのだと思うと、少し不器用さもあるマリーに親近感が湧いてきます。

昆夏美さんは、卓越した歌唱力はもちろんのこと、マリーの希望に満ちた若き姿から、苦悩や後悔を刻み込んだ晩年の姿まで圧巻の演技力で魅せていきます。突き抜ける歌声と力強い生き様が魅力的なのは言うまでもなく、マリーの“科学オタク”な一面をチャーミングに演じられるのも昆さんならでは。実はコメディエンヌとしての才能も持つ昆さんの魅力が遺憾なく発揮されています。

ピエールを演じる松下優也さんもマリーに共鳴するかのように“科学オタク”のチャーミングな姿を発揮。マリーとピエールの愛らしさを創り出しながらも、作品後半ではマリーへの愛情を膨らませていき、優しく大きく包み込む歌声で魅了します。常に凛としているマリーが、ピエールと一緒にいると子どものような純粋無垢な表情を見せるのも印象的です。

アンヌ役の鈴木瑛美子さんも力強い歌唱力を発揮し、マリーの隣でしっかりと立つ自律的な女性像が魅力的です。マリーを“ポーランド人の星”として慕いながらも、対等に向き合い続けるアンヌの存在は戦い続けるマリーにとって癒しになっていることでしょう。憂いを帯びたような歌声に、アンヌが様々な困難に悩みながらも立ち向かう人物像が感じられました。

そして水田航生さんはルーベンを不気味に、印象的に演じていきます。時にヒール役にも見えるキャラクターですが、科学者にとって研究資金をサポートする人物は切っても切り離せない関係性。ルーベンにとっても夢や正義があり、成し遂げたいものがあったはず。フィクションでありながら現実世界を映し出すような存在を絶妙なバランスで演じていきます。

マリーは「私が誰かではなく、私が何をしたかを見てください」と訴えます。この言葉を発するには、様々な障害を乗り越える勇気や強さだけでなく、自分が必ず結果を出すという覚悟と、周囲を圧倒させる実力がなければいけないはずです。彼女が弛まぬ努力と信念を持って歩んだ道の先に、私たちは今生きている。そう思うと、彼女の灯した希望の光が私たちを導いてくれるように感じます。

撮影:晴知花

ミュージカル『マリー・キュリー』は2025年10月25日(土)から11月9日(日)まで天王洲 銀河劇場、11月28日(金)から30日(日)まで梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて上演されます。公式HPはこちら

Yurika

2幕中盤からは涙が止まらず…。生きる強さをくれると共に、大きな愛で包んでくれる作品だと感じました。残念ながら女性が主人公の作品は少ないので、本作が長く愛され続けてほしいですし、本作の反響をきっかけに、また新たな女性の物語が生まれていくと良いなと思います。