5月5日(火祝)から彩の国さいたま芸術劇場 大ホールで上演される彩の国シェイクスピア・シリーズ 2nd Vol.3『リア王』。近年、日本でも数多く上演される名作悲劇のタイトルロールを吉田鋼太郎さんが務め、演出を長塚圭史さんが手がけます。開幕を前に公開ゲネプロが行われ、長塚さん、吉田さん、ゴネリル役・石原さとみさん、エドガー役・藤原竜也さんの初日開幕コメントが寄せられました。
大地の上に立つリアの姿を生々しく描く

シェイクスピア四大悲劇の1つである『リア王』は、1605〜1606年に初演されたと言われています。420年もの月日を経てもなお、私たちを魅了し続ける戯曲。今回演出を務めるのは、シェイクスピア作品に挑むのは2013年『マクベス』以来2度目となる長塚圭史さんです。
2013年に長塚さんが手がけた『マクベス』と言えば、タイトルロールを堤真一さんが務め、魔女を客席に紛れ込ませたり、バーナムの森を観客が緑のビニール傘を開くことで表現したりと、観客を舞台世界へ誘う演出が印象的でした。

今回の『リア王』では、ステージ上に相撲の土俵のような舞台が出現。荒野を彷徨うリアやエドガーを泥臭く、生々しく描きます。奥には椅子が並べられ、出番を待つ役者たちの姿が。役者と、作品世界と、観客席を一体化させる空間づくりに、虚実を混ざり合わせる長塚演出を感じます。

そして、吉田鋼太郎さん演じるリアはまさに狂気。印象的だったのは、娘たちに追い出される前の姿でした。3人の娘に自らを讃える言葉を求める時、明らかに「領土を与える」という権力を見せつける。末娘コーディリア(吉田美月喜さん)の言葉はそこまで冷たくもないのに、いきなり激昂する。権力を振り翳し、暴力的で、癇癪的で、誰も逆らえない。

『リア王』では長女ゴネリルと次女リーガンの仕打ちの酷さにフォーカスが行きがちですが、今回はリアの傍若無人さと、退位を表明しながらも王としての権力を手放せない姿が強く残り、ゴネリルとリーガンの父を疎ましく思う気持ちに共感ができたのです。それはゴネリルを演じる石原さとみさんの中に、卑しさより子としての親への呆れや、自分が国を率いていくという正義が宿っている故かもしれません。

リーガンを演じる松岡依都美さんには、次女としてゴネリルの姿を見てきた分、彼女より上手く立ち回ってやろうというあざとさも感じられます。

藤原竜也さん演じるエドガーは、冒頭でのあまりにも騙されやすそうなお人好しで快活な姿と、私生児エドマンド(矢崎 広さん)の策略により追放されたのちの姿とのギャップが印象的。

コーディリアを擁護したことでリアの怒りを買うケント伯(山内圭哉さん)にもリア同様に暴力的な一面が垣間見え、“賢明な忠臣”だけではない人物像が見えてきます。
『リア王』のキャラクターたちの多面性に触れた時、遥か昔の古典としてではなく、今もなお変わらない人間の生々しさが浮かび上がります。私たちはどんな暴力を受けても、その相手に手を差し伸べられるだろうか。血が繋がっているとさらにことはややこしいもの。家族間での痛ましい事件は後を絶たないのですから。

『リア王』にはそこに、老境というテーマも加わります。リアは果たして、どこまでが“本来のリア”だったのか。どこからが“老い”ゆえの言動だったのか。高齢化社会の今、避けられない議題の数々が、本作を通じて突きつけられています。
初日開幕コメント
演出 長塚圭史
これまでさほど馴染みのなかったシェイクスピア劇、セオリーがないものですから、急に語り出される独白に悩み、豊潤過ぎる台詞にいちいち引っ掛かるという有様でしたが、吉田鋼太郎さんのシェイクスピア愛と知識に導かれるように、みるみる『リア王』の魅力に惹き込まれていきました。血の宿命。老いを通して見つめる人間の業。スペクタクルというよりも濃密な会話劇なのです。言葉の嵐の中にどっぷりと飛び込んで頂ければ幸いです。
リア役 吉田鋼太郎
今回は、蜷川幸雄氏からシリーズを引き継いだ直後の『アテネのタイモン』以来、9年ぶりにタイトルロールを演じます。気合十分でございます。そのため今回演出は、私が敬愛して止まない長塚圭史氏にお願いしました。長塚氏とシェイクスピアの相性は抜群で、非常に面白い芝居に仕上がっていると思います。私もとても良いコンディションで初日を迎えることができそうです。
今までのシリーズとはまたテイストの異なる、素晴らしいリア王になっていると自負しております。劇場で何が起きているのか、ぜひ、目撃しにいらしてください。劇場でお待ちしています。
ゴネリル役 石原さとみ
ついに幕が上がります。長塚圭史さんと吉田鋼太郎さんの深い解釈とアプローチに、尊敬と大いなる信頼を寄せて挑む稽古は驚くほど楽しく、この素晴らしいカンパニーの一員になれたことに幸せを感じています。先日の衣裳付き通し稽古で見せた役者陣の本気には、この舞台の底なしの面白さに心が揺さぶられました。
演じるゴネリルは、思考の速さと強さ、愛に溺れ崩壊する脆さを併せ持つ女性。彼女の正義と貪欲さを掘り下げ、毎ステージで生まれる新たな発見と共に、この役を生き切ります。お楽しみください!
エドガー役 藤原竜也
演出の長塚圭史さんのもと、カンパニー一同真面目に真摯に向き合い、稽古をしてきました。長塚さんの演出は久々でしたが、温かく的確で僕自身においても、とても実りある時間だったと感じています。
吉田鋼太郎さんをはじめとした、手強い役者の皆さんとともに良い芝居をお見せできるよう頑張ってまいります。
彩の国シェイクスピア・シリーズ 2nd Vol.3『リア王』は2026年5月5日(火祝)から5月24日(日)まで彩の国さいたま芸術劇場 大ホールで上演。5月6月には宮城・愛知・大阪・福岡・岡山公演が行われます。公式HPはこちら
長塚さんの『マクベス』を観た当時、文学としてシェイクスピアに向き合っていた私は、舞台空間に立ち上がったシェイクスピア作品は何て自由で面白いんだ!と感激したのをよく覚えています。『リア王』ではいつもリアが単に哀れに見えていたのですが、今回は前半でゴネリルと同様にリアに嫌気がさしたからこそ、その後の悲劇により胸が締め付けられました。




















