2023年は、劇団四季創立から70年になる記念すべき年。そんな今年の12月に、劇団では約11年ぶりの上演となるストレートプレイ『ひばり』が幕を開けます。劇団が大切に守り継いできたこの名作について、紹介していきたいと思います。
劇団の主軸となった二人の劇作家
そもそもこの『ひばり』という作品は、なぜ劇団四季にとって大きな意味を持つのでしょうか。1953年、フランス文学科の大学生を中心とした10名によって立ち上げられた劇団四季は、二人のフランス劇作家ジャン・アヌイとジャン・ジロドゥの作品を上演することを目指したものでした。
この二人の作品に、自らの求める演劇の理想形を見出した劇団四季は、翌1954年1月にアヌイの『アルデール又は聖女』で旗揚げ。以来、創立5周年までは、ほとんどアヌイかジロドゥの作品だけを上演しています。今や、海外ミュージカル、ファミリーミュージカルやオリジナル作品まで繰り広げる劇団四季ですが、その主軸にはアヌイとジロドゥの演劇理念が通っているのです。
アヌイ戯曲の魅力
『ひばり』の原作者であるジャン・アヌイは、1910年にフランス・ボルドーにて生を受けました。少年時代は、母親が働いていたリゾート地のカジノで、喜歌劇に親しんでいたとされます。一家がパリに移住し、彼は広告会社に勤務したのち、やがて演劇界に足を踏み入れ、22歳で劇作家デビューを果たしました。
劇団四季では『ひばり』の他にも『アンチゴーヌ』『野生の女』といった数々の名作を上演していますが、彼が残したどの作品にも共通して言えるのは、純粋と純潔を求め、信念を全うする人物が描かれている点。
また、1956年演劇雑誌<四季>創刊号で、浅利慶太氏は次のように述べています。「アヌイの手法の特徴つまり、アヌイの詐術は、むしろ我々を取り巻く現実から、実相を消して仮想だけを残し、それによって行為と世界を描くという点にある。現実性を付与することにより肉感性を増すのではなく、現実性を取去り寓話的にすることで肉感性を増しているのである」と。登場するキャラクターの精神性、そして演劇技法の観点からも、アヌイ劇の魅力を存分に味わうことができると思います。
信念を貫き、勇気を持って立ち向かった一人の”少女”
『ひばり』は、英仏百年戦争で活躍したあのジャンヌ・ダルクの物語。アヌイの描くジャンヌは、聖女ではなくあくまで”少女”であるという点が特徴です。ここで、あらすじを紹介したいと思います。
舞台は15世紀初頭のフランス。英仏百年戦争で国土の大半をイギリスに奪われ、最後の砦であるオルレアンの土地にも危機が迫っていました。片田舎ドムレミーの村で羊の番をしていた少女ジャンヌは、そんなある日神のお告げを耳にします。「ジャンヌよ、フランス王を救いに行け。王国を取り戻せ」……13歳のその小さな肩にフランス王国の運命を背負うことになります。
強い信念を持ったジャンヌは、軍の隊長、そしてフランス王シャルル七世までをも魅了し、彼女の率いる軍隊はオルレアンの町を解放して連戦連勝。神の導きによってフランスの名誉を取り戻したことで賞賛を浴びるジャンヌですが、やがてイギリス軍の反撃を受けて捕らえられてしまうのでした。宗教裁判の法廷で彼女を待ち受けていたのは、人間の愛情を否定する大審問官や、現実への妥協を勧める司教らの尋問。一度は教会の裁きに屈したジャンヌは、死刑を免れる道を選ぶのですが――。
至高の傑作から見えてくる、歴史の深さ
アヌイ戯曲そのものの素晴らしさを享受できるのはもちろん、創立70年を迎えた今だからこそ原点に立ち返ることで、劇団四季の歴史の重さや深さを感じられるのではないでしょうか。
劇団四季『ひばり』は、自由劇場にて2023年12月24日(日)〜2024年1月20日(土)上演。尚、本公演のチケットは、四季の会会員先行予約の時点で完売しています。今後、劇団四季の「チケット出品サービス」により、予約済みのチケットが出品される場合がございます。詳しくは劇団四季オフィシャルウェブサイトをご覧ください。『ひばり』作品ページはこちら
劇団四季というと、ブロードウェイなど海外から輸入された大型ミュージカルを想像する方が多いのではないでしょうか。純粋な台詞劇を堪能できるのは非常に貴重な機会だと思います。観に行かれる方はぜひ、アヌイ劇の魅力、劇団四季の根底にある芝居理念、そして劇団が築き上げてきた歴史の重みを感じ取ってみてください。