俳優・小野田龍之介さんの連載企画「小野田龍之介と春夏秋冬さんぽ」。季節を感じる場所をお散歩しながら、ミュージカルのことはもちろん、小野田さんの近況やこれまでについて様々な視点で掘り下げていきます。今月のテーマは「明日を生きる力」。12月に上演が控えるミュージカル『レ・ミゼラブル』の稽古真っ只中、新たにジャベール役に挑む小野田さんに、本作との出会いや魅力についてたっぷりと伺いました。
緊張感のあった日本ハム最終戦セレモニーでの歌唱
−10月には『レ・ミゼラブル』の製作発表も行われましたが、いかがでしたか。
「現・帝国劇場では最後なんだねとみんなで言いながら製作発表に臨んだので、感慨深い気持ちでした。2021年の公演ではコロナ禍で製作発表が行われず、その前の2019年の公演の製作発表ではアンジョルラス役として歌唱したので、新しいアンジョルラス役の皆さんが歌う姿を見て凄く懐かしかったです。歳を重ねてバトンを引き継ぎ、大人な役になるというのは、長く続いている作品の魅力だなと感じました」
−製作発表時には、「ついアンジョルラスのパートを歌ってしまう」というお話もされていましたね。
「そうなんですよ。無意識に染み込んでいるみたいで、心も体もジャベールなのに、歌稽古ではアンジョルラスのパートを歌いそうになってしまって。スタッフの方が“アンジョルラスさん”と呼んだ時に振り返ってしまったこともありますし、製作発表のリハーサルでもアンジョルラスのパートでマイクの前に出てしまって、森公美子さんに大爆笑されました。1回の公演期間が長い作品ですし、染み付いていたんだなぁと実感しましたね」
−9月には北海道日本ハムファイターズの最終戦セレモニーでエスコンフィールドでの歌唱もありました。
「あれは緊張しましたね。音響の環境が劇場とは全く違うので、森公美子さんと一緒に音響さんと何度も調整させて頂いて、本番もどうなるか緊張がありました。でも満席でしたし、とても盛り上がって頂けて嬉しかったですね。僕のファンの方でもミュージカルファンであり日本ハムのファンという方がいたようで、僕がユニフォームを着て歌うのを喜んでくださったようなんです。本番の映像では新庄剛志監督と一緒に映し出されているのを見て、なかなかない体験で嬉しかったです」
−野球も観戦されたのでしょうか。
「観戦させて頂きました!エスコンフィールドに行けるのをとても楽しみにしていたのですが、テーマパークのように様々な施設があって、とっても満喫しました。僕は森公美子さんとジンギスカンを食べながら観戦しましたよ。飲食店もたくさんあるので、お酒やジュースを買い込んで、新千歳空港までのバス車内でカンパニーみんなと遠足みたいに楽しみました」
−最終戦という大事な局面で『レ・ミゼラブル』の「民衆の歌」が求められるというのは嬉しいですよね。
「凄く嬉しかったです。スポーツとの親和性も高い楽曲で、横浜F・マリノスの試合で選手やサポーターの皆さんが歌ってくださり、カンパニーも招かれたことがあるので、そういうのはもの凄く嬉しいです。ミュージカル俳優でも野球ファンの方って多いので、ミュージカルとスポーツって通ずるものがあるのかもしれないですね」
『レ・ミゼラブル』で初めて魔法にかかった時
−小野田さんの『レ・ミゼラブル』との最初の出会いはいつですか?
「初めて観劇したのはまだ小さい頃だったと思います。鹿賀丈史さんのジャン・バルジャンの印象がすごくあったので」
−幼少期に『レ・ミゼラブル』を観て、どんな印象を受けましたか。
「最初は“ずっと歌っているけれどいつ喋るんだろう”と思っていました(笑)。でも観ているうちに歌っているのに会話に聞こえて、自然に芝居を見入っている自分がいて、魔法にかかった感覚を今でも覚えています。観客として記憶に強く残っているのは、2006年に日生劇場で上演された『レ・ミゼラブル』ですね。日生劇場ってロンドンの劇場に似ているサイズ感だし、劇場のデザインと作品の世界観がとってもマッチしていて。凄く好きだったので、また日生劇場で上演されることがあったら良いなぁと思っています」
−観客として観ていた時、『レ・ミゼラブル』のどんなところに惹かれましたか。
「美しいメロディーと、同じメロディーが様々なところで使われることによって生まれるドラマに引き寄せられました。人への愛や生きる苦しみといった普遍的なテーマが描かれていて、様々な登場人物がいて、どの年代でも共感できる人物がいる。作品全体の社会的なメッセージを受け取る方もいると思います。そういった様々な要素を1つの作品で描くというのはなかなか出来ないものだと思うし、音楽の力強さが強い作品だなと感じました」
−アンジョルラスを演じたいと思うようになったのはいつ頃でしょうか。
「実は、観客として観ている期間が長かったので、自分が出たいと思ったのは子どもの頃だけだったんです。先輩方が演じるもの、というイメージが強くて。でもアンジョルラスやジャベールはかっこいいなと惹かれるものがあって、好きなキャラクターでした」
−アンジョルラス役として出演している時に印象に残っていることは何でしょうか。
「新演出版『レ・ミゼラブル』が2013年から始まったので、僕が観客として観ていたのはオリジナル演出版が多かったんです。でも新演出版で出演することになったので、変に役のイメージを追うことがなかったというのは良かったなと思いました。自分が観ていた印象が強く残っているとそれを追ってしまって、なかなかオリジナリティが出しにくかったかもしれないけれども、全然違う景色で役に挑むことが出来たので、色々と試しながら進められたのが良かったなと思っています」
『レ・ミゼラブル』は登場人物たちと共に変化し続ける作品
−今回、新たにジャベール役として稽古期間を過ごされていて、いかがですか。
「アンジョルラスとは正反対の景色なので、凄く面白いですね。役者として生き甲斐があります。ただ実はアンジョルラスとジャベールって性質が似ていて、2人とも崇高で芯がしっかりしている人物なんです。その中でアンジョルラスは若々しく光り輝いていて、ジャベールは自分が生きていた境遇へのコンプレックスや恨みが沸々とあるという違いはありますが、意志の強さを出そうとするとアンジョルラスの時と似てきてしまう感覚があって。もちろん芝居が全く違うので同じにはならないと思いますが、歌稽古の時は同じ声の持っていき方にならないようにしようと心がけていました」
−確かに強い信念を持つという点では共通していますね。小野田さんがジャベールに共感する部分はありますか。
「確固たる意志を持って突き進んでいく姿は生きる強さがあると思うし、自分の正義を貫く人なので、憎たらしさみたいなものは全く感じないんです。悲劇的な運命を辿ってはしまいますが、確固たる意志を常に持っているという点は憧れますし共感しますね」
−トリプルキャストの伊礼彼方さん、石井一彰さんとはお話しされていますか。
「大体はくだらない雑談で盛り上がっています、ジャベール役って暗くて辛いので(笑)。でもかずくん(石井一彰さん)とは同じジャベール新キャストなので、互いの芝居を見合って、“これは良かったね”“この歩き方はジャベールとは違うかもね”と話し合うことが多いです」
−お二人によって、また新たなジャベール像が見えそうですね。
「長くやっている作品はどうしてもそれぞれのお客様の中で“この役はこう”という人物像が出来上がってしまうと思うのですが、『レ・ミゼラブル』は世界中で上演される中で変化し続けている作品なんです。それは常に明日を探して生きていく登場人物たちととても似ていて、創作活動でも役に対するアプローチがどんどん変化しています。ジャベールでも今までとは歌のちょっとしたニュアンスの違いがあったり、年齢のことも意識しないように言われたりします。ですから、お客様にも新たな気持ちで作品を楽しんで頂けたら嬉しいです」
−改めて、『レ・ミゼラブル』はなぜこれほどまでに多くの人に愛されると思いますか。
「登場人物それぞれが、何かを求めて生きている物語で、人を愛する美しさや、明日への祈りを消化していく作品なので、それは老若男女、誰もが求めていることなのだと思います。明日はどうなるんだろうという思いを抱えながら、それでも生きていれば何か掴めることができるかもしれないと前に進んでいく。自分の運命に向かって立ち向かっていこうというメッセージを、美しい音楽と、作品を生きる僕たちを通して感じて頂けるんじゃないかと思います。現・帝国劇場では最後という思いもありますが、日本版の『レ・ミゼラブル』の新たな旅立ちとして、これからも皆さんに愛される作品であり続けられるよう、作品に込められたメッセージを大切に演じていきたいと思います」
ミュージカル『レ・ミゼラブル』は2024年12月16日(月)から12月19日(木)までプレビュー公演、12月20日(金)から2025年2月7日(金)まで 帝国劇場で上演。その後、大阪・福岡・長野・北海道・群馬と全国ツアー公演が6月まで行われます。公式HPはこちら
今回は製作発表前のお忙しい中、ジャベールを意識したクールな撮影をさせて頂きました。『レ・ミゼラブル』は本作の登場人物たちと共に、常に新しい明日を信じて変化し続けていく。観客も、新しい『レ・ミゼラブル』を受け取り、楽しんでいきたいですね。