イプセンの戯曲『ヘッダ・ガブラー』を下敷きに、現在の日本の芸能界で愛すること愛されることを求め、ありのままの自分自身でありたいともがく人々を描くPARCO PRODUCE 2026『ジン・ロック・ライム』。2026年3月に東京・PARCO劇場にて開幕し、広島・愛知・大阪・福岡でも上演されます。
イプセンの代表作に向けた現代的返歌
PARCO PRODUCE 2026『ジン・ロック・ライム』は、ノルウェーの劇作家であるイプセンの戯曲『ヘッダ・ガブラー』を下敷きにして生まれた舞台作品です。
近代演劇の父と称されるイプセンは19世紀の社会制度を鋭い視線で捉え、道徳観や常識を覆すような作品を生涯にわたって発表し続けました。彼の戯曲は「シェイクスピアに次いで上演回数が多い」ともいわれ、なかでも『人形の家』は不朽の名作として知られています。
そんなイプセンの代表作のひとつが、1890年に発表された『ヘッダ・ガブラー』です。高名な将軍の娘である主人公のヘッダは美しくも気位が高く、恵まれた環境に置かれながら常に現状への不満や焦燥感を抱えていました。そして、結婚により妻という封建的な社会規範に縛られる中で自己を貫こうとした結果、周囲を巻き込んで破滅の引き金をひいてしまいます。
ヘッダは自由奔放に生きた悪女なのか、はたまた自我に目覚めた革新的な女性だったのか。リアリズム演劇の傑作が投げかける「自分自身として生きる」というテーマに、現代のクリエイターと俳優たちが新たな視点から挑みます。
才気あふれるクリエイターが集結
『ジン・ロック・ライム』を現代的な会話劇として書き下ろすのは、劇団「範宙遊泳」を主宰する作家・演出家・俳優の山本卓卓(すぐる)さん。
幼い頃から映画や文学などの芸術に触れて育んできた素養をベースに、加速度的に変化していく現代社会の在り様を鮮やかに劇世界へと反映させる作風に定評があります。作・演出を務めた2021年の戯曲『バナナの花は食べられる』は第66回岸田國士戯曲賞に輝きました。近年はアジア諸国や北米にて公演、国際共同制作、戯曲提供などを行い、海外でも積極的に活動。さらに青少年や福祉施設向けのワークショップ事業を実施したり、オンラインを創作の場とする「むこう側の演劇」プロジェクトを始動したりと、演劇の可能性を追求しています。
実は、山本さんは以前も古典を自らの手で生まれ変わらせています。台本を手掛けたPARCO PRODUCE 2024『東京輪舞』では、オーストリアの作家シュニッツラーが1900年に発表した『輪舞』をもとに、現在の東京に生きる人々の多様でリアルな恋愛模様へと再構築しました。本作でも舞台を現代の芸能界に移し、愛を求め自分自身であろうともがく人間の姿を描き出します。
演出は、白井晃さん。ストレートプレイから音楽劇、ミュージカル、オペラまで幅広く手掛け、これまで読売演劇大賞優秀演出家賞や湯浅芳子賞の脚本部門など数々の演劇賞を受賞。2022年4月からは世田谷パブリックシアターの芸術監督に就任し、直近では2025年11月の主催公演『シッダールタ』の演出を担当したことが話題になりました。今回、自身のキャリア史上最年少の作家となる山本さんと初めてタッグを組み、登場人物と向き合いながら物語の世界観を立ち上げます。
そして音楽を担当するのが、サニーデイ・サービスのヴォーカリスト兼ギタリストである曽我部恵一さんです。音楽活動と並行してプロデュースや映画・CM音楽の製作、執筆などにも取り組み、2024年には山本さん率いる範宙遊泳に楽曲を提供。そうした縁もあり、本作では劇中歌をはじめ全ての楽曲を作曲します。
<あらすじ>
人気ロックミュージシャンのジンはライブで我を失い、そのことがネットをにぎわせている。
窓からライムの木が見える芸能事務所。事務所の社長はジンの妻でもあるショウコだ。
ショウコの母アキコが新人マネージャーのトゴシに付き添われて事務所にやってくる。午後、ジンの元恋人で、今や事務所を背負う存在になったエートがライター・コマによる独占インタビューを受けるという。ノンバイナリーのタレントとして人気を集めているホムラは最近エートと親しい様子だ。
ジンとショウコ、そしてエートを巡る過去と現在、世間からの眼差しと自身とのギャップ、自らの立場と将来への見通し。これらが絡み合い、事態は思いがけない方向に動いていく。
キャストは個性光る実力派揃い!

主人公ジンを演じるのは、アイドルグループのHey! Say! JUMPのメンバーである髙木雄也さん。近年は2025年のミュージカル『アメリカン・サイコ』や2023年の舞台『星降る夜に出掛けよう』などに出演し、着実に俳優としての実績を積んでいます。
山本さん作の『東京輪舞』では1人8役を見事に演じ切りました。息苦しい世の中で、アーティストとして、夫として、一人の人間として苦悩するジンをどう演じるのか、とても気になります。劇中のライブシーンもお見逃しなく。
ジンの元恋人である人気アーティスト・エート役は、ミュージカルを中心に舞台や映像作品で活躍する黒羽麻璃央さん。2025年10月から2026年1月まで上演中のミュージカル『エリザベート』では、2022年版に引き続きルイジ・ルキーニ役を好演しています。ストレートプレイへの出演は久々とあって、楽しみな方も多いのではないでしょうか。
また、ジンの妻であり所属事務所の社長でもあるショウコ役に、蓮佛美沙子さん。主に映画やテレビドラマで活躍し、繊細な感情表現が高く評価されています。本作が現代劇としては5年ぶりの舞台となります。
さらに、事務所の若手タレントでノンバイナリーのホムラを演じるのは、注目の若手俳優である永田崇人さんです。2.5次元作品での躍動感ある演技で人気を集め、近年はストレートプレイや映像作品にも参加。2025年は舞台『W3 ワンダースリー』やリーディング音楽劇『ジャングル大帝 ルネ&ルッキオ編』に出演し、実力を示しています。
大手出版社のライター・コマ役で登場するのは、個性派俳優として確かな存在感を放つ駒木根隆介さん。大学在学中に俳優のキャリアをスタートして以来、舞台・映画・ドラマと幅広いジャンルで活動を続けています。
事務所の若手マネージャー・トゴシ役を務めるのは、数々の舞台や映像作品に出演する小日向星一さん。多彩な役柄を演じる表現力は確かなもので、とりわけ舞台では、本作を演出する白井晃さんをはじめ名だたる演出家の作品に登用されています。
そして、ショウコの母であり事務所の先代社長の妻でもあるアキコ役として、銀粉蝶さんが参加します。舞台にテレビドラマ、映画と出演作は多岐にわたり、2010年には舞台『かたりの椅子』『ガラスの葉』で第18回読売演劇大賞の優秀女優賞を受賞。第一線で活躍し続ける実力派が、舞台上の世界にリアリティを与えます。
PARCO PRODUCE 2026『ジン・ロック・ライム』は2026年3月10日(火)から31日(火)まで東京・PARCO劇場にて上演。その後は4月4日(土)・5日(日)に広島・JMSアステールプラザ 大ホール、4月11日(土)・12日(日)に愛知・東海市芸術劇場 大ホール、4月18日(土)・19日(日)に大阪・SkyシアターMBS、4月25日(土)・26日(日)に福岡・J:COM北九州芸術劇場 大ホールを巡演予定です。詳細は公式HPをご確認ください。
誰かに認められたい、愛し愛されたいという欲求は、イプセンの時代も今も変わらず私たち人間の根本にあるものなのでしょう。原作の設定を大胆に置き換えて解釈したストーリーに期待が高まります。


















