演劇業界は未知のウイルスとの相性が悪く、今もまだ世界各地で苦境に立たされています。ロンドンのウェストエンドでは依然として多くの劇場がその扉を閉ざしたまま。それでも、2021年5月に入って少しずつミュージカル公演が再開するなど、それぞれの劇場のペースで演劇の灯火が戻ってきています。

今回は劇場再開に向けて長い道のりを歩んできたウェストエンドで、多くのファンや劇場関係者を鼓舞した動画をご紹介します。

劇場は私たちの居るべき場所!

2020年11月1日に若手振付家・キャメロン・マクドナルドさんが自身のインスタグラムで発信したこちらの動画。映画『グレイテスト・ショーマン』の楽曲「フロム・ナウ・オン」に合わせ、ダンサー達が空っぽの劇場街を踊りながら駆け抜ける、パワフルで胸を打つ3分間の動画です。

ロンドンの主要な劇場を次々に映し、その玄関前でダンサー達が踊る姿は、劇場に入ることすらできない関係者のもどかしさを象徴しているかのよう。そして「And we will come back home」(私たちの居場所に戻ろう)と繰り返される歌詞に合わせて、力強く地面を蹴り上げる彼らの身体は曇天の屋外で輝きます。マスクで表情は見えませんが、空に向かって内なる叫び声を上げているようにも見えてきますね。

#SAVE THE ARTS(芸術を守ろう)というメッセージ

2020年夏にロックダウンが解除された後も、政府の許可が降りず、何度も公演再開を先延ばしにしてきたイギリスの舞台業界。上演芸術や個人事業主に対する政府の対応は鈍く、当事者にとって受け入れ難い時期が続きました。

そんな中、SNSで盛り上がりを見せたのが#savetheartsというハッシュタグ。苦境に立たされた芸術家や支援団体が発信したもので、イギリスの文化芸術に携わる多くの人が賛同し、コロナ禍における芸術産業への支援不足を訴えました。

この動画に登場するダンサー達が持っているサインボードにもそのメッセージが書かれていることが分かります。その中には「More than Bible(聖書よりも大切)」という言葉も。エンターテインメントは明日を生きる活力を与えてくれるもの。劇場はそこで働く人たちの職場であり、そこで心の栄養補給をする観客にとっても、なくてはならない場所であることを示す、印象的な言葉です。

Sasha

この動画が出された11月は、劇場再開がようやく実現へと動き出した頃。期待感を後押しするようなタイミングで発信されたそのメッセージは、ウェストエンドの再開宣言のように映りました。 12月初旬、いくつかの劇場が再開するも、変異型ウイルスの蔓延により、わずか10日で閉鎖へ。失望感が漂いましたが、それでも今、ウェストエンドは着実に再開への道を進んでいます。 「And we will come back home」というフレーズとダンサーが熱く踊る姿は、その願いを一層強める希望のひかりとして、これからも舞台を待ち望む人々の心を照らしてくれます。