2026年10月に開幕するミュージカル『ミス・サイゴン』で、トリプルキャストとしてキム役を務める屋比久知奈さん・清水美依紗さん・ルミーナさん。屋比久さんは2022年に引き続き、清水さん・ルミーナさんは初出演となります。戦争の渦中で愛し、傷つき、生き抜くキムの人間くささ。大ナンバー「命をあげよう」への覚悟や、いまこの時代に作品を届ける意義についてお話しいただきました。
正しさだけではない、キムという女性の魅力

−オーディションで出演が決定し、製作発表を4月末に終えた、今の心境をお聞かせください。
屋比久「去年2人と『レ・ミゼラブル』でご一緒していた時に“あと1年あるね”と話していたのが、あっという間に製作発表を終えて、いよいよ始まるんだなと緊張とワクワクが混ざり合っています」
清水「製作発表で久しぶりにキャストの皆さんと会えて嬉しかったのですが、すごく緊張しました。製作発表はいつまでも慣れないですね。でも3人で歌える機会は1回しかないので嬉しかったです」
ルミーナ「出演できて光栄な限りです。ここでも成長した姿を見せられたらと思います」
−ルミーナさんは2023年に韓国で『レ・ミゼラブル』エポニーヌ役でデビューされ、2024-2025年日本公演でもエポニーヌ役を務め、大きな話題を呼びました。反響をどのように受け止めていらっしゃいますか。
ルミーナ「自分でもいまだに不思議です。『レ・ミゼラブル』に韓国で出演して、日本でも出演して、今度は『ミス・サイゴン』でキムを演じるなんて…自分でもまだ実感が湧いていないくらい。毎日、感謝でいっぱいです」
−キムを演じるにあたり、大切にしようと思われていることはありますか。
屋比久「個人的にキムは共感ができる役です。初めて観た時も、初めて演じさせていただいた時も、キムの気持ちの流れが苦労なく理解できた役でした。なので今回も自分の感覚を信じて生きていきたいと思います。
『ミス・サイゴン』は作品自体が戦争というとても重い、正しくないものをテーマにしているからこそ、その状況下で生きていかざるを得ない人々も全てが正しい瞬間ばかりではありません。もちろん自分自身は正しい、最善の生き方だと信じているけれど、強い部分ばかりではない。そういう人間くささが描かれているのが本作の魅力だと思いますし、キムも完璧な女性ではないところが魅力だと思うので、そこを大事にしていきたいです」
清水「それぞれのキャラクターが持つ人間くささや弱さに、力強いメロディーが重なり合った瞬間、『ミス・サイゴン』という世界が生まれているなと感じます。『ミス・サイゴン』の名曲の数々をこれから自分が歌うことになるんだと思うと、今でもまだ夢のようです。
キムは、作品の中で最初はピュアな少女として恋をし、子どもを産み、色々な選択を重ねながら変化をしていきます。実際に舞台上でキムとして生き、その変化を体感してみて初めて見えてくるものもあると思うので、そこをとても楽しみにしています」
ルミーナ「今回の演出がどうなるかはまだ分からないですけれど、キムという女性はきっとすごく愛を受けて育った子なのではないかなと思います。愛情を知っているからこそ、人を愛することができるし、そこが魅力的です。この環境下で、1人で生き抜いてきたこと、そして何かを守り抜くということ、彼女の芯にある強さを大事に演じたいです」
大ナンバー「命をあげよう」に向き合う想い

−キム役は本作の、そしてミュージカル史において大ナンバーである楽曲「命をあげよう」があります。本楽曲をどのように乗り越えていこうと思われていますか。
屋比久「とにかく必死に、一生懸命歌うのみですね。何度歌っても慣れないですし、常に緊張するし、不安だし、歌いこなせる日は来ないんじゃないかと思うような楽曲です。特に本番中は頭で考えて歌えるようなタイミングではないので、だからこそ練習ではとにかく音を当てる練習をするんですけれども、気持ちが入るとそれどころではなくなってしまう。そこは前回の稽古でも結構苦労しました。気持ちを入れて歌が崩れるのは悔しいし、そこのバランスも含めて必死に歌うしかないと思います。
でも私は美依紗とルミーナの「命をあげよう」を聞くのが楽しみです。まだソロでフルで歌っているのを聴いたことがないので、そこが個人的な楽しみですね。それを聴いて私も刺激を受けることがたくさんあると思います」
清水「本当に難しい楽曲です。私は最初英語でこの楽曲を歌っていたので、日本語には日本語ならではの美しさがあるのですが、情報量が少なくなる分、感情と歌をしっかり重ねるのが難しい楽曲だと感じました。オーディション期間は何回も練習をするのでメロディーが身体に染み込んでいくのですが、それでも気持ちが昂ると、うまく音程をのせられないことがあって、改めてこの楽曲のハードルの高さを感じました。でも、だからといって感情をセーブしすぎるのも違うと思っていて。この楽曲から滲み出る必死さこそが、キムの人間くささにつながると思うので、私自身も一生懸命に歌うしかないと思っています」
ルミーナ「お二人がお話しされた通りなんですけれども、1つの命を守るという強い思いがお客様に伝わるように歌えたら良いなと思います。音程や発声はすごく重要だし、お芝居の中でコントロールすることももちろん重要だと思うんですけれども、『ミス・サイゴン』の音楽自体がすでに完成されているものなので、この音楽を信じて、自分が伝えることを意識していけたらと思います」
キムの強さの根源とは?

−壮絶な環境の中でも、自らの意思を貫くキムの強さの根源はどこにあると思われますか。
屋比久「日々やっていく中で、その日強くいられる理由というのが変わっていくところもあると思うのですが、私はキムというのはとてもピュアな人間だなと思います。ああいった環境にいながらもピュアでいられるというのが強いと思います。色々なことを知らないが故のピュアさもあるし、知ってからもピュアでいられる強さ。まっすぐさがあるからこそ脆さもあるかもしれないけれども、彼女のまっすぐさというのは、強くいられる理由の1つなのかなと感じます」
清水「お稽古が始まったら、また印象が変わっていくかもしれませんが、今の私がキムに感じているのは、「自分を信じる力」が強い女性だということです。
繊細な部分ももちろんあると思いますが、強くあるべき時にはしっかり強くいられるし、壊れる時にはちゃんと壊れることができる。そんな人間くささや泥臭さが、彼女の“生きる強さ”につながっているように思います」
ルミーナ「すごく正直な子で、感情に素直で、色々な場面で正直に表現していく子だと思うんですけれども、その素直さは親や家族からもらったものなのかなと感じています。そしてそんな家族を目の前で失った中で、その状況から立ち上がってどうにか生きていかなくてはいけなかった。親から受けた愛、親を亡くしたこと、そして様々なことにぶつかり、救われた経験を通して強さが生まれていくのかなと感じています」

−この作品を通して、どのようなメッセージを届けたいと思われますか。
屋比久「日本では本当にありがたいことに平和に生きられて、当たり前の生活が当たり前にできています。そのことを忘れてしまいがちだけれど、戦争のニュースを見ると愕然としますよね。
俳優という仕事はすごく特殊だなと思いますが、キムという人間を舞台上で生きることができて、そしてそれを観ている方々もキムの人生を同時に体験できる。そこが、私が観劇を好きな理由でもあります。この作品では戦争という絶対にしてはいけないことが常に描かれ続ける作品だし、だからこそ目を背けたくなる瞬間もありますが、この時代、日本でこの作品を上演することに意味があると思います。何か行動してほしいというより、シンプルに戦争はいけないよね、平和が良いよねということが伝わってほしい。1人1人がそう思うことで、何かが変わるかもしれないという希望を私は持ち続けたいです。
そして同時にこの作品はミュージカルですから、音楽や芸術の素晴らしさを感じていただけたら良いなと思うし、それが戦争について伝える手助けにもなると思います。芸術の強さを信じて、頑張りたいと思います」
清水「今の世界情勢とも重なる作品だと思います。私たちが暮らしている日本はとても平和ですが、今 この瞬間も世界のどこかでは『ミス・サイゴン』の世界で描かれているような出来事が実際に起きていて、誰かが泣いて、苦しんでいる。
そう考えると、こうした現実を伝え続けていかなければいけないですし、決して忘れてはいけないと感じます。だからこそ、責任を持ってこの作品を届けていきたいと思っています」
ルミーナ「残念なことに『ミス・サイゴン』で描かれているベトナム戦争というのはそこまで昔のことではなく、映像も残っているくらい最近のこと。観る方によって様々な解釈があると思います。ミュージカルという1つの芸術を通して『ミス・サイゴン』の世界感を感じていただけると嬉しいです」
ミュージカル『ミス・サイゴン』は2026年10・11月に東京・東急シアターオーブにて上演。12月に大阪・梅田芸術劇場 メインホール、福岡・福岡市民ホール 大ホール、27年1月に静岡・アクトシティ浜松 大ホール、北海道・札幌文化芸術劇場 hitaruにて上演が行われます。公式HPはこちら

本番では観られない、3人の可愛らしい表情をお楽しみいただけたら幸いです!『レ・ミゼラブル』エポニーヌ役でもそれぞれの歌声で魅了した3人がキムに。新キャストが多い今回の『ミス・サイゴン』で、そして世界情勢が重なる2026年に、どのようなキム像を創り上げるのでしょうか。



















