ミュージカルソングをBGMに、ミュージカル作品をイメージしたオリジナルカクテルを楽しむことができる「Musical Bar Matinee & Soiree(マチネ&ソワレ)」。日生劇場やシアタークリエからも近い銀座5丁目に2024年にオープンし、多くのミュージカルファンに愛されています。なぜ“日本唯一のミュージカルバー”を開いたのか?店主でバーテンダーの渡津悠介さんにお話を伺いました。

生のエネルギーに衝撃、心を捉えて離さなかったミュージカルをバーに

−バーテンダーである渡津さんがミュージカルに出会い、魅了されたきっかけは何でしたか?
「2012年に映画『マンマ・ミーア!』と『レ・ミゼラブル』を観てミュージカルに興味を持ちました。当時は滋賀県に住んでいて、映画が面白かったと話したら知り合いに中日劇場で上演のミュージカル『レ・ミゼラブル』(2013年)のチケットを頂いたんです。今まで自分が感じたことのない生のエネルギーに衝撃を受けました。ミュージカルが総合芸術であることにも惹かれましたね。翌年2014年に『レディ・ベス』初演を観に行って、どんどんミュージカルにハマっていきました」

−そこからミュージカルバーの構想を思いついたのはいつ頃でしょうか。
「元々バーテンダーとして働き始めた時に、“いつか自分の店を持つ”という目標を掲げていました。でも一時期バーテンダーの仕事から離れて修行をしようと考え、約3年間、東京で社会勉強をしていました。でもその間にも頭を離れなかったのが、バーのこととミュージカルのこと。やっぱり自分が好きなものなんだと実感しました。
その後、錦糸町のバーに勤めながら4〜5年構想を練って、2024年にオープンへと至りました。ミュージカルについて語り合える場所であることはもちろん、お酒や落ち着いた空間を楽しんでいただくオーセンティックバーであることがこだわりです。お酒が得意でない方には、ノンアルコールカクテルやコーヒー、ハーブティーをご用意しております」

−お店を始めるにあたり、不安はありませんでしたか。
「ありましたよ。本当に人が来るのかな?というのは不安でした。これまでに無いものを作るのでデータとして参考にできるものもないので0から作る不安もありましたが、自分のやりたい事、ワクワクすることでしたし、劇場には日々沢山の方が観劇に来られているのできっと大丈夫だろうと思いました」

−そこからどんどん常連客が増えていったのはなぜだと思われますか。
「やはりSNSの影響が大きかったです。お店のアカウントというより、お客様がInstagramやXで発信をしてくれて、そこから来てくださる方が増えていきました。ミュージカルバーというコンセプトがちゃんと軸としてあったので、ミュージカルファンの方々の間で口コミしてくださったのかなと思います」

−お店にはどんな方が訪れていますか?
「9割がミュージカルファンの方で、海外の方や、地方から観劇に訪れた際に立ち寄ってくださる方もいます。大劇場で上演されるミュージカルが好きな方もいれば、劇団四季のミュージカルが好きな方、海外カンパニーの来日公演が好きな方、宝塚が好きな方まで様々です。時には業界関係者や俳優の方もいらっしゃいますよ」

人気ミュージカル作品からインスピレーションを受けたカクテルを紹介

−今回は約50種類あるカクテルの中から、4種類のカクテル「Mary Poppins」「The Music of the Night〜オペラ座の怪人〜」「Mozart」「Hellfire〜地獄の炎〜」をご紹介いただきます。各カクテルのこだわりをお聞かせください。
「オリジナルカクテルは色味だけでなく、作品の物語性やキャラクターに合わせた材料選びと、味としてのバランスを鑑みて考案しています。そのため、当日リクエストにはお答えしていません。ぜひこだわり抜いたメニューからお選びいただければと思います」

「Mary Poppins」

「ミュージカル『メリー・ポピンズ』のポスターにある夜空をイメージして作りました。バンクス家が住むチェリー・ツリー・レーンや、名曲「チム・チム・チェリー」にリンクするよう、チェリーをグラスのデコレーションにも、カクテルの中にも入れています。また「お砂糖ひとさじ」も加えていますよ。メリー・ポピンズは不思議な存在なので、味もはっきりしたものではなく、アンニュイな味わいになるようこだわりました」

「The Music of the Night〜オペラ座の怪人〜」

「ミュージカル『オペラ座の怪人』で怪人ファントムがクリスティーヌをオペラ座の地下へ案内するシーンをイメージして作りました。「The Music of the Night」の冒頭に“連れてきた 甘美なる世界へ”という歌詞があり、甘く美しいカクテルであることを大切にしています。怪人のクリスティーヌを思い続ける強い愛はとても純粋だと感じているので、無味無臭のピュアなお酒だと言われるウォッカをベースに構成しました。
味のアクセントには、アブサンというお酒を使用しています。アブサンは『ムーラン・ルージュ』や『ウィキッド』にも登場し、芸術家たちに愛されてきたお酒です。ファントムも音楽家なので、アブサンを加え、甘く美しいながらもアクセントの効いたカクテルに仕上げました」

「Mozart」

「序盤の頃に作ったカクテルで、ジン・パッションフルーツ・ライム・ザクロを使用しています。味の中心となっているのはパッションフルーツで、パッションフルーツの“パッション”はイエス・キリストの受難を意味しています。ミュージカル『モーツァルト!』はモーツァルトの天才が故の苦悩を描いているので、パッションフルーツがぴったりなのではないかと考えました。
そしてモーツァルトが着ている金色の刺繍が入った赤いコートをイメージし、赤い色味のカクテルに金粉をかけています。華やかな見た目や果実のフルーティ感がありながらも、実際には“苦悩”を意味しているのも、作品と合っていると思います」

「Hellfire〜地獄の炎〜」

「ミュージカル『ノートルダムの鐘』をイメージしたカクテルです。神に仕える者でありながら、欲望に囚われた聖職者クロード・フロローの歌う「地獄の炎」はディズニー作品屈指のダークナンバーと言われています。重厚感を表現するため、3年以上の長期熟成したダークラムやカンパリ、ベネディクティンDOMを使用しています。
「地獄の炎」のコーラスにはラテン語の歌詞が使われているため、ラテン語由来のラムを選びました。長いダークラムは味がしっかりしていて、樽由来の重厚感もあり深みも感じられます。また、ベネディクティンは元々フランスの修道院で作られたお酒なので、作品の世界観に重なると思いました。そして本物の火を使った演出を取り入れています」

団体観劇会、カラオケバー開店。広がるミュージカルファンのサードプレイス

−最近はBar Matinee & Soireeの常連客と一緒に観劇する「団体観劇会」も実施されていますよね。
「2025年に『アラジン』、2026年4月に『メリー・ポピンズ』を観劇しました。『メリー・ポピンズ』の観劇会は80名以上の方に参加いただき、二次会にも多くの方に参加していただきました。予想以上の盛り上がりで、最高に楽しい幸せな1日でした。お店を始めたのも、僕の周りにミュージカルファンがあまりいなくて、僕と同じ熱量で喋れる人がいないという悩みから始まったんです。観劇会では実際に作品を一緒に観てから喋ることができるし、お客様同士の繋がりも生まれます。ミュージカルファンの輪が広がって面白いんじゃないかと思いました。今後も年に1回くらいのペースで、観劇会を実施していきたいと思っています。劇場を貸切にできちゃうくらい、大規模な観劇会を目指したいですね」

−さらに2026年8月には銀座6丁目で「Musical Karaoke Bar Matinee & Soiree 別館SCARET」をオープンされました。こちらはどんなお店ですか?
「ミュージカル好きがミュージカルソングを歌えるカラオケバーです。今までお客様とカラオケ会をする機会も多かったのですが、普段は歌えないマニアックなミュージカルソングで盛り上がって何時間も盛り上がれるんですよ。同じ人が多いんじゃないかな?と思いましたし、カラオケバーの運営経験があったので自分なら出来ると感じました。銀座に2店舗目を出してやっていけるだろうかという迷いもありましたが、何よりも自分がワクワクしたのでやることを選びました。今後はミュージカルに出演経験のある俳優の方にも店員として加わっていただき、プロの楽曲を間近で聴ける贅沢な場所にしていきたいと思っています。ただアットホームな空間なので、お気軽にいらしていただきたいです」

−オープンしてみて反響はいかがですか。
「やっぱり皆さんミュージカルソングを歌う場所を求めていたんだなと実感しました。凄く上手い方がたくさんいらっしゃいますし、マニアックな楽曲もどんどん歌われます。もちろん歌わなくても良いですし、ミュージカルソング以外を歌っても大丈夫です」

−ミュージカルファンのサードプレイスを作り続ける渡津さん。今後の目標は何でしょうか。
「新・帝劇のビルに出店するのは夢ですね。他にも大阪など別地域や、韓国・ロンドンといった海外出店も良いなと思います。ただまずは本店と別館をしっかり頑張りたいと思います。ミュージカルファンの方にとって特別な、唯一無二の場所を目指していきたいです。ミュージカルに詳しくなくても、“何か観てみたい”という方にも来ていただきたいです。お店にはミュージカルに詳しい人だらけなので、きっと自分が好きな作品に出会えると思います」

Musical Bar Matinee & Soiree 渡津悠介さんと、Musical Karaoke Bar Matinee & Soiree 別館SCARET 店長の佐藤由季さん

Musical Bar Matinee & Soireeの公式Instagramはこちら

Yurika

とっても“映える”カクテルですが、その演出や色味、味わいには、作品への愛と細かなこだわりがたっぷり詰まっています。だからこそミュージカルファンに愛されている場所なのだなと実感しました。