劇作家・秋元松代さんの作品『近松心中物語』は、蜷川幸雄さん演出でも知られる演劇界の金字塔。元禄時代の2組の恋を描いた作品が、新たに演出家・長塚圭史を迎えて生まれ変わりました。個性豊かなキャストに加え、なんと音楽はラップグループであるスチャダラパーが担当!作品の見所をお伝えしてきます!※ネタバレが含まれるためご注意ください(2021年9月・KAAT神奈川芸術劇場)

4人の役者による愛らしいキャラクターたちが織りなす恋物語

元禄時代、大阪・新町の遊女・梅川(笹本玲奈さん)に恋に落ちた、飛脚屋の忠兵衛(田中哲司さん)。しかし梅川に大尽からの身請け話が入り、忠兵衛は阻止するため幼馴染の与兵衛(松田龍平さん)に手付金50両を借りに行きます。無事に手付金を支払い安堵したのも束の間、大尽から後金300両が届いてしまい…。一方、気の優しい与兵衛は妻のお亀と姑に振り回されてばかり。お亀は与兵衛に恋焦がれているのですが、与兵衛は常に情けない自分と裕福な家庭とのギャップに悩んでいます。

笹本玲奈さんは、気品と美しさ、気高さを持った遊女・梅川を見事に演じています。登場シーンから忠兵衛と観客の心を鷲掴み。田中哲司さん演じる実直で誠実な忠兵衛が、梅川のために奔走する姿は、見ていて切なくなるばかり。

撮影:阿久津知宏

そんな美しく清らかな恋人たちと対比するように、与兵衛とお亀の夫婦はどこかいつも噛み合わず、観客の笑いを誘います。与兵衛を演じる松田龍平さんは、まさに心優しさと情けなさを共存させたキャラクター像。“しっかりしなさい!”と言いたくなってしまいたくなる弱々しさと、それでも放って置けない、愛されキャラっぷりが切ない作品の心の拠り所となってくれます。そんな与兵衛に愛情を注ぐお亀を可愛らしさたっぷりに演じたのは、石橋静河さん。強引さと、与兵衛を一心に愛する真っ直ぐさが与兵衛と対極的で良いコンビです。

撮影:阿久津知宏

雪景色が美しい長塚圭史演出×耳に残るスチャダラパーの音楽

舞台の奥行きを上手く活用した舞台セットは、シンプルながら絵としての美しさを追求。特に梅川と忠兵衛が心中する雪景色のシーンは、息を止めて見てしまうようなはっとする美しさです。はらはらと舞い落ちる真っ白な雪。それは2人の恋模様を表しているかのよう。一方、与兵衛とお亀は月を見上げながら、心中を決意。心中というやりきれない選択の儚さを増幅させられます。2013年に長塚圭史さん演出の『マクベス』も客席や舞台を上手く活用した演出が印象的でしたが、今回も舞台の神聖さを感じさせられました。

撮影:阿久津知宏

作品の随所で歌われるのは、古き日本を感じさせつつ、どこか耳に残るスチャダラパーの手がけた音楽。最後にはラップ入りの楽曲も流れ、若者には少し入りにくい言葉遣いや世界観を、柔らかかくしてくれています。鈴木おさむさんがYOASOBIとコラボした舞台『もしも命が描けたら』に引き続き、新たな音楽と舞台の可能性を感じました。

Yurika

『近松心中物語』はKAAT神奈川芸術劇場で9月20日(祝)まで、その後福岡・愛知・兵庫・大阪・長野公演が予定されています。チケットぴあでのチケット購入はこちら