音楽座ミュージカルの代表作『リトルプリンス』。サン=テグジュペリの『星の王子さま』を世界で初めてミュージカル化し、劇団で大切に受け継がれてきました。今回は過去に観劇経験のある筆者の視点で、キャラクターやミュージカルナンバーに注目してその魅力をご紹介します。

サン=テグジュペリの大切なひとたちになぞらえたキャラクター描写

パイロットとして活躍したサン=テグジュペリの文学には、彼自身の経験が記されているとされ、『星の王子さま』にもさまざまな解釈があるそう。音楽座ミュージカルの『リトルプリンス』では、作家が主要なキャラクターに彼の家族を重ねたという解釈の色を強めています。公演によって少しずつ台本が書き改められ、濃淡はあるようですが、飛行士には作家自身、王子には15歳で亡くなった彼の弟、花には妻のコンスェロの気配を感じさせます。

例えば、未知の世界へ踏み出す期待を表した「アストラル・ジャーニー」では、王子の歌唱に重ねて花と飛行士が次のように歌います。

「あなたは ひとりで どうしているでしょう」
「さようなら のひとことで 別れてきたけど」
「この空の彼方 二度と会えない」

実際にサハラ砂漠に不時着した経験をし、アメリカ亡命中には妻をフランスに残した作家の人生。『リトルプリンス』では原作にない言葉が加わって、飛行士、王子、花の感情がふくらむと同時に、作家の実体験を想起させるのです。

-王子と花- 別れて気づく愛おしさ

花は王子が旅に出るきっかけであり、星へ戻る目的でもある、原動力のような存在。彼女の登場シーンは短いですが、作品の見どころのひとつです。

王子が恋をした、星に咲いた一輪のバラの花。花は王子が世話をしてくれることが嬉しくて、気を惹こうとついワガママに。やがてワガママに耐えかねた王子は星を出ることを決意します。別れを告げられても本気にしなかった花は王子の姿が見えなくなって初めて、素直な気持ちを言葉にするのでした。

「わがまま 強がりも あなたが好きだから 風にささやく」
「お願い 届けて 素直な気持ち お願い」

花が歌う「冷たい風」という楽曲には、想いを伝えなかった後悔と、王子の星に根を張っているために彼方へ飛び去った王子を追いかけることができないやるせなさが滲みます。

花とのやりとりを回想した王子は、花の言葉をどう受け止めればよかったのか、まるで飛行士に諭すように語り出します。そして星から星へ旅をして地球にたどり着いたこと、友達のキツネに「大切なものは目には見えない」と教わったことで、あらためて花が王子にとって大切な存在だと気づいたことを語ります。

観劇後も頭に残る、壮大なミュージカルナンバー

オリジナルミュージカルだからこそ、美しいメロディになめらかな歌詞が心地いいミュージカルナンバーは本作最大の魅力。特徴的なメロディがリプライズやインストゥルメンタルで繰り返され、観劇後も頭に残ります。歌詞が一音一音に当てはめられ、日本語の美しさが引き出されているのも特徴的です。

常に舞台上にいてコロコロ表情が変わる王子の楽曲は実に多彩。ひつじを描いてくれとせがむ「ひつじの歌」といったポップなものから、飛行士に別れを告げる「シャイニング・スター」のような壮大な楽曲まで、音楽にのせて、子どもらしい澄んだ感情が胸に響きます。

『リトルプリンス』の楽曲はApple MusicとLINE MUSICで視聴することもできます。ミュージカル鑑賞で予習したい派の方はぜひ一度聞いてみてくださいね。

Sasha

音楽座ミュージカルの至宝『リトルプリンス』は東宝制作で上演されることが決定しました!2022年1月から、東京、愛知で上演予定。舞台装置や衣装、振り付けが一新され、音楽座ミュージカル版とは一味違った雰囲気を楽しむことができそうです。チケットの一般発売は11月6日(土)午前10時より開始。ぜひチェックしてみてくださいね。公式サイトはこちら