ミュージカル『青春鉄道』、『舞台モブサイコ100』シリーズなどの脚本を担当し、演出家・構成作家で俳優の川尻恵太さんが主宰するSUGARBOY。今回は、2年ぶりの上演となる第4回公演『ゴールドマウンテン』の観劇レポートをお届けします。(2021年11月・新宿シアタートップス)

札幌の端っこに住む少年が生み出した“理想の世界”

『ゴールドマウンテン』は、札幌市出身の川尻さんが、東京に上京するまでの20年間をもとにした作品。川尻さんをモデルにした主人公・セイタを松本岳さん、幼馴染のマキを井上小百合さん、スミダを荒木健太朗さんが演じます。また、宮下雄也さん・小山百代さんらがセイタに関わる様々な人たちを演じ分け、劇中には総勢60名ほどのキャラクターが登場します。

物語の舞台は、かつて金が採れたといわれた札幌の片田舎・金山。目の前にその「鉱山」がそびえ立つ一軒家に引っ越してきた小学生のセイタは、学校で好きな女の子もでき、隣の家に住む男の子とも仲良くなります。しかし、金山にはそれ以上の楽しみはなく、セイタはテレビの向こうの世界に憧れます。そして、セイタはある日を境に、自分の理想の世界を「妄想」し始めることにするのです。

しっかりとした存在感を放つ主要キャストたち

主人公のセイタを演じた松本岳さんは、『手裏剣戦隊ニンニンジャー』のアオニンジャーの他、テレビドラマや舞台などで幅広く活躍。本作ではアクの強い俳優陣に囲まれながらも、主役として絶妙な存在感がありました。マイクなしで生声を届けることが主の小劇場演劇において、非常にセリフが聞き取りやすい声も印象的でした。

マキを演じた井上小百合さんは、2020年4月まで乃木坂46の第1期生として活動。在籍中から、學蘭歌劇『帝一の國』など多数の舞台作品にも出演しています。井上さんは初めて拝見しましたが、小柄ながらもパワー溢れる方。劇中のセイタのとある“ムチャぶり”に息を切らせ、睨みつけながらもしっかり対応している姿が印象的でした。終盤のシーンでも、グッと観客の心を惹きつけるお芝居をされていました!これからのご活躍が楽しみです。

そして、幼馴染役を演じたスミダ役の荒木健太朗さんは、2014年5月まで「スタジオライフ」に所属。退団以降も、ミュージカル『刀剣乱舞』などの2.5次元作品や、『ギャングアワー』、『Messiah メサイア』シリーズなど多数の舞台作品に出演しています。

スミダは、少々道を外れた生き方をしてしまうキャラクター。しかし、常に一貫してセイタのことを応援していました。終今までの全てにけじめをつけようとするセイタをじっと見守っている姿からは、言葉がなくともセイタに対する熱い思いが伝わってくるようでした。

物語に欠かせない“相方”と個性豊かな面々

『ゴールドマウンテン』には、かつて川尻さんがお笑いコンビを組んでいた際の相方であり、現在も札幌で俳優として活動している氏次啓さんが本人役を含めて出演しています。筆者は札幌演劇を見ていた時期もあり、お二人の関係性について感じ入るところもあります。しかし、何も知らずに見た方であっても、観劇後は本作に“氏次さんが出演している”ことにエモーショナルな気持ちになること間違いなしです。

SUGARBOY出演は2度目となる俳優の宮下雄也さん。コミカルな役を演じさせたら同世代で右に出る役者はいないのではないかと思う安定感で、客席の笑いを誘います。今作でも様々な方向でコミカルな役を演じており、筆者はセイタの同級生のモリサワが好きでした。なかなか憎めないキャラクターです。

今回初めて拝見した俳優さんの中で、筆者が目を惹かれたのはイトウハルヒさん。マキの母親や、セイタに影響を与える学校の先輩などを演じています。特徴的なハリのある声で、マイクなしでも聞き取りやすい。目まぐるしく多数のキャラクターが登場する中でも、セイタに影響を与える学校の先輩が非常に記憶に残っており、見終わってすぐにあの役は誰が演じていたのだろう、と調べていました。

例え人生に絶望することがあっても、人との出会いで救われるのだと教えてくれた『ゴールドマウンテン』。川尻さん脚本作品の中でも、見終わった後にシンプルに「出会えてよかった」と思える作品でした。一癖も二癖もある川尻さんの作品の根底にあるバックボーンを知ることができたからかもしれません。