ナンセンスコメディの代表格、ナイロン100℃。今年の公演は原点回帰とも言える、くだらなさを全面に打ち出したものとなり、それでいてシュールで、時にシリアスという、劇団の総決算とも言える盛りだくさんの贅沢な芝居でした。(2021年12月・本多劇場)

夢の中を舞台にしたような超展開

ストーリーは、大倉孝二さん演じる主人公のスズキタモツが、保険金目当てに親から毒殺されるも、なぜか生きており、(すでに中年なのに)孤児院に入れられ、ひょんなことからオリンピックを連想させる「国際的な大会」の日本代表に選ばれます。しかし「近々開催するから」といつまで経っても大会は開かれず、一方でそれとは特に関係のない「哲学的な事件」を追う探偵(山内圭哉さん)や宇宙人が登場し…

理屈で追うとわけのわからない展開なのですが、その一つ一つのシーンがとにかく面白い!「国際的な大会」に選ばれるために、タモツは大会の会長(三宅弘城さん)と戦うのですが、互いに「毛」「穴」の文字を毛穴から吹き出して対決。「哲学的な事件」は、そもそもどんな事件なのかも語られないうちに、普通の街の人が解決してしまいます。

エピソードがすべて予想の斜め上を行き、笑っているうちに想像もつかない展開になっていく。よく夢の中で超展開になることがありますが、まさにそれが舞台上で起こっているような感覚で、終始笑いながらも、どこか不気味で、時に考えさせられる、不思議な作品です。

ナイロン100℃だから作れる、危険な面白さ

一歩間違えると観客を置いてきぼりにしかねない物語ですが、脚本のポテンシャルを最大限に引き出すキャスト陣が作品を支えます。主人公役の大倉孝二さんは、周囲に振り回される受けの演技が絶妙。探偵兼狂言回し役の山内圭哉さんは、力強く安定感のある演技で物語を見事にまとめていました。もちろん他の皆さんも素晴らしく、ナイロン100℃の劇団としての地力の高さを見せつけます。

そしてナイロン100℃と言えばプロジェクションマッピング。映像作家の上田大樹さんが手がけるOPのキャスト紹介ムービーは恒例。舞台美術と演技と映像が一体となり、このためだけでも観に行く価値があります。ハイレベルなチームだから実現した、危険な遊びのような面白さ。まさしくこの劇団でしか見られない、贅沢な芝居でした。

Shinpei

東京公演は終了しましたが、12月をかけて兵庫、広島、北九州と地方公演は続きます。3年ぶりとなる劇団本公演、気になる方はぜひ劇場へ足を運んでみてください。