細田守監督のアニメーション映画『バケモノの子』が劇団四季のオリジナルミュージカルとして上演されると発表されたのは、2021年6月のことです。あれから約1年。2022年4月26日に、ミュージカル『バケモノの子』が満を持して開幕しました。舞台化の企画は、2018年から始まっていたそう。約3年半の道のりを経て作り出した最新作は、豪華クリエイティブチームと劇団四季だからこそ表現できる驚天動地の世界でした。(2022年5月・JR東日本四季劇場[秋])
バケモノ級クリエイターたちによる渾身作
『バケモノの子』をミュージカルにするために集結したのは、演劇やパフォーマンスにおいてさまざまな経験と技術を身につけたクリエイターたち。演出家の青木豪さんをはじめ、脚本・歌詞を担当した高橋知伽江さん、音楽監督の鎮守めぐみさんといった、これまでの劇団四季作品においても印象的な舞台を作り出してきた顔ぶれが揃います。
さらに、今作ではアニメーションの世界をよりリアルに表現するために擬闘やマジック、映像などのスペシャリストを仲間に加え、さまざまな技術の集大成を舞台に形成しているのです。
バケモノの世界・渋天街で、主人公の九太は師匠の熊徹に剣術を教わり、ときには自分が教える側になって互いに成長していくのですが、「周りのみんなが師匠である」という精神が根幹にあるこのミュージカルは、まさにそれぞれの技術の師匠が研鑽し合うことで生まれたのではないでしょうか。
演劇・ミュージカルファンなら、お気に入りのクリエイターがどのようなパフォーマンスを見せているのかも気になるポイントです。個人的に楽しみにしていたのが、ミュージカル『ロボット・イン・ザ・ガーデン』で愛らしいロボットのタングを生み出したパペットデザイナーのトビー・オリエ氏による新作パペットたち。
バケモノの熊徹と猪王山(いおうぜん)が身体を大きくして闘う”ビーストモード”のパペットは、1体につき3人の俳優が動きを合わせることでキャラクターの筋肉の動きや険しい表情を作り出します。フィナーレでもトビー氏のパペットが重要な役割を担っており、原作映画の再現性の高さに舌を巻きました。(まるで生きているよう!トビー・オリエが作り出すパペットの魅力とは?)
初めての劇団四季にもおすすめ!劇団四季の魅力が詰まった作品
映画『バケモノの子』が新作オリジナルミュージカルの題材に選ばれた理由のなかには、「劇団の良さを失わず、今まで劇団四季を観たことがない人でも観てみたいと思える作品」であることが挙げられたそうです。
実際に観劇してみて、毎月のように劇団四季のミュージカルを観劇している身からも、今までの劇団四季作品で味わってきた感動がギュッと詰まっていると感じました。
9歳の孤独な少年・蓮がバケモノの世界で九太として生き、青年に成長して将来に悩む姿は、『ライオン・キング』のシンバを観ている時のような共感と応援したい気持ちが心の中に芽生えます。
ミュージカルではキャラクターの心情が歌に込められているため、今作に登場する3人の父親の葛藤(熊徹・猪王山・蓮の実の父親)が丁寧に描かれているのも印象的でした。そして、迫力のある剣術、バケモノたちのリアルなヘアメイク、人間界の渋谷と渋天街を一瞬でパッと切り替える舞台装置などの特殊な技術が、より作品の世界をリアルに感じさせます。
劇団四季のファンはもちろん、初めて劇団四季を観たいという人にも胸を張っておすすめできるエンターテイメント性に溢れたミュージカルです。チケットの購入はこちら
観劇中、コミカルなシーンになると客席のあちこちから子どもたちの笑い声が聞こえたのが印象に残っています。子役が大人の俳優と共に歌やダンス、剣術を披露する『バケモノの子』は、『ライオン・キング』のように子供たちがミュージカルの世界に憧れるきっかけになる作品になるのではないかと思いました。劇団四季のファンとして、『バケモノの子』を機に劇団四季の世界を目指す子どもたちが生まれることを密かに期待しています。