YouTubeで公開された楽曲をきっかけに、世界中の若者たちを熱狂させたミュージカル『BE MORE CHILL』がついに日本初上陸。実は、日本のポップカルチャーが作品に影響を与えているのだとか。特に若者から支持されている本作の魅力に迫ります。

“ティーン・コメディ×SF” 思春期のモヤモヤや甘酸っぱい青春の詰まった作品

『BE MORE CHILL』は2004年にアメリカ人の作家ネッド・ヴィジーニの出版した同名小説を、脚本家ジョー・トラックスと音・歌詞を務めるジョー・アイコニによってミュージカル化。2015年にニュージャージー州で誕生した作品です。当時の公演期間は短いものでしたが、YouTubeで公開された楽曲が注目され、2015年にリリースしたキャストアルバムはBillboardキャストアルバムチャートでTOP10入りを果たしました。

その後、2018年にオフ・ブロードウェイで上演、早速翌年にはオン・ブロードウェイでの上演。2021年の5月に行われたイギリス・ウエストエンドでの上演も熱狂的な反響を呼びました。

物語の舞台はアメリカ・ニュージャージー州の高校。父と二人暮らしのジェレミーは冴えない男の子。同級生のクリスティンに密かに思いを寄せています。ある日、ジェレミーは学校のいじめっ子から日本製のSQUIP(スクイップ)〈Super Quantum Unit Intel Processor〉という錠剤を紹介されます。薬の中には小型のスーパーコンピューターが入っており、脳が刺激されて良い判断ができるようになるのだとか。親友のマイケルに相談した結果、ジェレミーはSQUIPを買って飲んでみることに。SQUIPのおかげで人気者になっていく反面、次第に思考がSQUIPに乗っ取られていってしまいます…。

脚本のジョー・トラックスは本作を「ティーン・コメディ×SF」と表します。劇中では、SF感を出すために、テルミンという、SF映画やホラー映画の効果音として使われてきた楽器を使用しています。また、SFというのは、劇中では麻薬とも思われるSQUIPが擬人化されて登場するからです。錠剤SQUIPの作られた国が日本ということで、元々の脚本にも日本語のセリフが登場。ジェレミーとマイケルはゲームオタクの設定で、ゲームの“ピコピコ”サウンドやファミコン風の演出などがあるんだそう。2人の衣装もいわゆる“オタク”を表しているようで親近感が湧きます。

ヒロインのクリスティーヌは、演劇オタク。ブロードウェイでは、アジア系の俳優が演じており、アメリカのティーン・ドラマでよくいる、“チアリーダー・金髪・スタイルが良い”ヒロイン像とは異なるところがポイント。表情豊かでチャーミングな彼女の歌う「I Love Play Rehearsal」は必見です。

YouTubeをきっかけに作品を世界的ヒットに導いたのは、作品中の楽曲「Michael in The Bathroom」。この曲は、マイケルが親友のジェレミーから相手にしてもらえなくなり、学校で一番大きなイベントのハロウィン・パーティーが開かれている中、1人で家のトイレに籠って歌う曲。思春期の不安や悩み、やるせなさ、周囲から浮かないようにという意識が歌に乗せられていて、若者から人気な楽曲です。

トニー賞ノミネート作品の演出家が手掛ける日本公演

日本版のキャストには、主人公のゲームが好きで冴えないジェレミーに、『ジョセフ・アンド・アメージング・テクニカラー・ドリームコート』での好演が記憶に新しいHey!Say!JUMPの薮宏太さん。ジェレミーの親友のマイケルには、『ニュージーズ』や『るろうに剣心』とミュージカルでのご活躍が目覚ましい、加藤清史郎さん。
ジェレミーが思いを寄せるクリスティンに元乃木坂46のメンバーでミュージカル『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』ではヒロインのオードリーを演じられた井上小百合さん。擬人化されたSQUIPの役をうたのおにいさんを卒業後は、俳優として舞台や映像等勢力的に活動されている、横山だいすけさんが演じます。

本作の演出を務めるのは、今年のトニー賞にノミネートされている『A Strange Loop』の演出も手がけた、スティーヴン・ブラケット。主演を務める薮宏太さんは、ブロードウェイやウエストエンドの演出家が演出を手掛ける、オリジナルミュージカルに出演するのは今回が初めてだそう。ジェレミーについて、「いろんな表情を見せるので演じがいがある」と語っています。「吸収できるものは全て吸収する気持ちで臨みたい」と気合十分のコメント。また、「楽曲がすごくいい」そうで、海外でも上演せずともキャストアルバムで人気が広がるなど、楽曲の評判が良いため期待が高まります。

『BE MORE CHILL』は東京公演が7月25日(月)〜8月10日(水)に新国立劇場中劇場で、次に福岡公演が8月20日(土)・21日(日)キャナルシティ劇場。そして大阪公演を8月27日(土)〜29日(月)COOL JAPAN PARK OSAKA WWホールで行います。詳しくはこちら

ミワ

SQUIDは“it’s from Japan”ということで、日本だからこそ起こる、本作との化学反応があるのでしょうか。上演が楽しみです!