6月17日(金)〜7月3日(日)KAAT神奈川芸術劇場大スタジオにて上演される舞台『テーバスランド』。甲本雅裕さんと浜中文一さんの二人芝居が話題の本作。ゲネプロでの様子をお届けします。

自分、自分と似た他者、いつしか現実と虚構が交錯していく…

『テーバスランド』は2013年に発表された、セルジオ・ブランコによる戯曲です。劇作家セルジオ・ブランコは、ウルグアイ出身でフランス在住。スペイン語圏の演劇界で最も注目を集めている劇作家の一人です。ウルグアイで初演が上演された後、ラテンアメリカ、ヨーロッパ諸国、インド等で上演されました。オイディプスの神話と、父親を殺した若者の物語が織り交ぜられており、観客を惹きつけてやまない作品となっています。
演出を務めるのは、大澤遊さん。文化庁新進芸術家海外研修制度で、英国・Derby Theatreにて1年間研鑽を積まれた経験を持ちます。

物語は劇作家Sが、父親殺しの物語である「テーバスランド」という演劇作品の企画・創作プロセスを回想しながら観客に語るところから始まります。Sは作品のリサーチのため、父親殺しの罪で終身刑にされていたマルティンに話を聞くことに。そして、俳優・フェデリコを起用して、「テーバスランド」を上演することにします。作品のモデル・マルティンと俳優・フェデリコの奇妙な共通点を通して、次第に現実と虚構が交錯していく…というストーリーです。

劇作家Sに、朝の連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』等映像作品でも幅広くご活躍の甲本雅裕さん。マルティンとフェデリコの2役を演じ分ける難役に、高い演技力に定評のある、浜中文一さんが挑みます。

監視カメラと檻で囲まれたバスケットコートで繰り広げられる緻密なセリフ劇

原作者セルジオ・ブランコは戯曲内で、舞台について「時代設定は現在、舞台となる場所はリハーサル中の稽古場であると同時に 刑務所の中にあるバスケットコート」と書いているそう。今回、舞台セットは、長方形の形の檻で、中にはバスケットコートがついています。舞台下手前方と、上手後方には監視カメラが。「四六時中監視されている」というマルティンの面会する刑務所のシーンでは舞台広報のスクリーンに監視カメラの映像が映し出されていました。監視されることを「嫌いではない」というマルティンは、Sにインスピレーションを与えます。

刑務所のセットはそのまま、フェデリコとの稽古場にもなっていきます。その時、後ろのスクリーンには、Sの戯曲プランや、報告書の中の写真などが投影されます。

また、「マルティンとフェデリコは異なる人物ではあるが、必ず同一の俳優によって演じられなければならない。彼はジャージを着て、 ジョギング用のボトムス、ハイカットの ナイキのスニーカーを履いている」。その通り、マルティンとフェデリコは浜中文一さんによって演じられます。着替えないので、二人は全く同じ「赤いジャージ、黒いボトムス、ナイキのスニーカー」を身につけています。“身につけているもの”にも意味があるので、物語後半の展開も必見です。

マルティンは中学を中退しているため、物事や難しい言葉を理解するのに時間がかかります。マルティンは自分のことを「頭の病気」というのですが、それは父親から日々侮辱されていたことと関係がありました。また、面会を続けるうちに、幻想を見ることがあるということもわかってきます。
Sはマルティンとの面会で、本人からインスピレーションをもらうと共に、調書や報告書から戯曲の資料収集も行っています。フェデリコとの稽古の際に読まれる報告書には、マルティンが起こした事件のショッキングな内容が書かれています。

「父親殺し」の例としてよく使われるのが、オイディプスの神話。Sも「テーバスランド」の執筆にあたり、オイディプスを話題に出しますが、フェデリコは、オイディプスは実の父とは知らずに「父親殺し」をした点に言及します。

浜中さんは照明変化などの一瞬で、マルティンとフェデリコを行き来します。内気そうな少年のマルティンから、外交的なフェデリコ。話し方や振る舞いが一瞬にして変化するのが驚きでした。そして、それを受ける甲本さんも、マルティンと話すときは優しく、フェデリコと話すときは砕けた態度へと変化。お二人とも二人芝居は初めてとのことですが、芝居の巧さが遺憾なく発揮されていました。

浜中さんが「大きなドラマはないけれど、すごく小さな引っかかりが連鎖していき、物語が進んでいきます。」というように、1つ1つの事柄が繊細に絡み合っています。Sの戯曲の中の話なのか、それとも現実の出来事なのか、はたまたフェデリコなのか、マルティンなのかと、世界線が曖昧に入り組んでいく事が本作の魅力に感じました。

舞台『テーバスランド』は6月17日(金)〜7月3日(日)KAAT神奈川芸術劇場大スタジオにて上演されます。6月30日(木)14時の公演後には、本作の翻訳を手がけた仮屋浩子さんと演出の大澤遊さんによる『テーバスランド』を読み解くアフタートークショーが予定されています。こちらは、その回の公演チケットをお持ちでない方も有料にはなりますが、トークイベントのみのご参加が可能です。公式HPはこちら

ミワ

芝居のあちこちに伏線があり、最後まで目が離せませんでした。また、シンプルですが大胆な舞台セットに注目です。