映画を上映しながら、その音楽をフルオーケストラで楽しむフィルム・コンサート。これまでハリウッドでたった一度しか上映されたことのなかったその『ラ・ラ・ランド』のステージが初来日!夢追い人の街ロサンゼルスで、売れないジャズピアニストのセブと、女優志望のミアが繰り広げる、甘くほろ苦い恋物語は、フィルム・コンサートの形式でどんな進化を遂げるのか。ステージリポートをお送りします!
総勢170名が送る壮大なスケールの『ラ・ラ・ランド』
超満員の東京国際フォーラム。巨大スクリーンに投影されている、夕暮れの風景を前にあの二人が踊るポスター。舞台横ではスポットライトが回りながら会場を照らしている。開演前にもなればオーケストラは舞台上に勢揃い。そんな風景に心躍らせる観客の元に、幕開け早々大きなサプライズが!
劇中でセブの所属するバンドのボーカルを務める、キース役のジョン・レジェンドさんから、なんと日本の観客に向けてビデオレターのプレゼント!思い入れのあるこのコンサートを「ぜひ楽しんでほしい」と語る彼が画面の向こうから手を振って、いよいよ指揮棒が振られます。
本物のジャズとは何か
『ラ・ラ・ランド ザ・ステージ』の醍醐味は、なんと言っても生バンドが演奏する本物のジャズ。日本を代表するソリストたちに加え、ピアノ・キーボードは映画で名演を披露したランディ・カーバーさん本人が来日!それを、映画音楽を手掛けたジャスティン・ハーウィッツさん本人が指揮するというのだから、一体どんなその場限りの音が生まれるのかと、観客の期待が高まるのも無理はありません。
ジャズの真髄は、劇中でセブも言っている通り、「二度とない演奏」。ステージ中には、おそらくはスコアに書かれていない音も多数あったのではと思います。フィルム・コンサートの「映画の音楽をオーケストラが演奏する」という以上のことが、そこでは起きていたのです。
劇中の音楽をそのまま辿るのではなく、二度とない演奏を通じて本物のジャズを聞く。それは、劇中で「ジャズなんて嫌い」と言うミアが、セブに連れられて本物のジャズを聞き、彼の熱意を持ってしてジャズを好きになるというシーンを追体験するかのようでした。
日本のバンドのための”City of Stars”
二度とない音楽を噛みしめる観客に、ステージの最後にもう一つ大きなサプライズが。鳴り止まないアンコールに応えたジャスティン・ハーウィッツさんは、「オーケストラもコーラスも、皆さん本当に素晴らしかった。特に今回の日本のジャズバンドは素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた」と前置きし、「彼らのためだけに、数日前ホテルで新しく編曲をした。それをぜひ聞いてほしい」と語ります。そこで披露された、日本のバンドのためだけの”City of Stars”。アカデミー賞の主題歌賞にも輝いた一曲が、トランペット、サックス、ピアノの素晴らしいソロとともに、二度とない音楽として生まれ変わった瞬間でした。
『ラ・ラ・ランド』が私たちに語りかけるメッセージの中でやはり印象に残るのは、「夢を追うこと」。日々の生活に追われる中で薄れつつあった自分の夢とは一体何だっただろうかと、そんな思いを抱えながら劇場をあとにしました。フィルム・コンサートでの生演奏を通じ、かつて観たときよりも一層強く、そのメッセージが心に刺さったように思います。