第25回ジュノンスーパーボーイコンテストで準グランプリを獲得、12月29日から上演される舞台『風都探偵 The STAGE』に照井竜役で出演される上野凱さん。仮面ライダーW続編として人気を集める作品の舞台化に挑む上野さんに、これまでの俳優人生と今後の展望を伺いました。

やりたくないのに恵まれている環境から、やりたいのに出来ない環境へ

−ジュノンボーイを受けるきっかけとは?
中学2年生の時、母が応募しました。当時は長崎の五島列島に住んでいたので、なかなか旅行に行く機会がなく、ジュノンボーイの一次予選が行われる福岡に行きたかったようなんです。

僕はジュノンボーイすら知らない状態でした。一次予選の時の写真を見返すと、バスケの試合前で髪の毛を切った直後で、ほぼ坊主の姿。合格後も自分の整理がつかないままに物事が進んでいって、東京に出てしまった。だから、失敗しましたね。

撮影:山本春花

−失敗、というのは?
地元から出られる、という軽い気持ちで東京に来たので、仕事にも身が入らず、仕事がやりたいかどうかも分からずに仕事していました。今考えると、 “本当にやりたいことなのか”が分からないまま、恵まれた環境に甘えていたのかなと思います。それで一度事務所を辞めて、東京の高校も辞めて地元に帰ることになりました。

−そこからなぜ再び俳優の道を志したのでしょうか?
島に帰ると、「東京にいたのになぜ帰ってきたの?」と一斉に聞かれる。会う人会う人に聞かれて、何度も説明しているうちに、どんどんその状況が辛くなっていきました。一方で、東京の高校で仲良くなった子たちは自分のやりたいことを叶えて、テレビに出て活躍している。その姿を東京から離れた場所で見ることで、どれだけ幸せな環境にいたのかを実感しました。

島には演技を学ぶ場所もないので、1年間、“やりたいのにやれない”という東京にいた時とは真逆の感情を持ちながら高校生活を過ごしました。そこで高校を卒業後、改めてやりたい気持ちを持って上京しました。

人のことを想う。それを体現するために、俳優を続けたい

撮影:山本春花

−俳優という職業に惹かれた理由は何だったのでしょうか?
高校生の時にはダンスや芝居、発声など様々なレッスンを受けていました。その中で、芝居のレッスンはよく分からないなりに、楽しい面白いという感覚があったんです。

それに、高校生までは自分のことしか考えずに生きてきました。自分ではそれを自由だと感じていたけれど、ある日母に、自由と自分勝手は違うと言われた。それで、自己中心的に考えて生きてきたということに気づきました。

人は1人では生きていけない。人のことを思うということが、人生の中ですごく大切だと感じた時に、お芝居のレッスンで学んだ、相手のことを思って動くことに改めて魅力を感じました。人生のうちに、どれだけ色々な人に対して、想う気持ちを持てるだろうか。そう考えた時、俳優という職業で、“人を想う”ということを体現していきたいと思うようになりました。

−大きな心境の変化があって、仕事への取り組み方も変わりましたか?
現場に行った時に、自分の役のことだけでなく、相手役やカメラマンや衣装さん、様々な人に意識を向けられるようになりました。今までは自分の中で相手を決めつけたり、自分の中で考えすぎてしまったりして、相手を知りにいくことがなかった。全体に意識を向けることで、人との縁が広がって、新たな発見があることに気づきました。

自分は本当に愛を知っているのか?考えるきっかけを与えてくれた映画作品とは

−ご自身が影響を受けた作品はありますか?
映画『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(Good Will Hunting)ですね。天才並みの頭脳がありながら、愛を知らない主人公が、愛を知っていく姿を描いているところに惹かれました。自分は天才ではないけれど、愛を本当に知っているのか、感じたことがあるのかと自問自答するきっかけになった作品です。

自分中心で生きてきたので、もらっている愛を十分に受けきれているのか、と考えて。映画を観た当時は、友達や親に、自分のことをどう思っているかを聞いて周り、自分が人を愛せているか、人からの愛を受け取れているかを考えました。

既に人気のキャラクターをどう演じるか。いち役者として立ち向かいたい

撮影:山本春花

−これまでCMや映画・ドラマ・舞台にもご出演されてきましたが、映像作品と舞台作品で異なると感じたことはありますか?
舞台は、開演したら終演するまでノンストップ。それぞれのシーンの準備をして、撮影に向かう映像作品とは違います。舞台上での感情や記憶を維持しながら、裏では現実世界で着替えるなど、段取りをこなさなければいけない。集中力の維持の難しさを感じました。

−次回出演の『風都探偵』と、演じる照井竜(てるいりゅう)についてお聞かせください。
ファンの多い作品ですし、照井というキャラクターも人気です。どこまで原作に寄せて、どこまで自分らしさを出すのか。原作のある作品では必ず付いてくる課題だと思いますが、いち役者として立ち向かわないと行けないことだと思うので、今模索中ですね。

照井は奥さんや主人公たちと出会って、環境としては孤独ではないと思いますが、過去に家族が敵に殺されてしまった経験を持ち、心のどこかに孤独があるのではないかと感じています。孤独というものに対して、闘い続けている人間という印象。そこは自分と通ずる部分がある気がしています。

いつかは、映画館で観たくなるような俳優に

−今後どのような作品に出演したいか、今後の展望があれば教えてください。
今は色々な作品に挑戦して、最終的には映画に出演したいです。『グッド・ウィル・ハンティング』で自分の生き方を重ねたように、自分だから共感できる役や、自分だから表現できる作品に出会えたら嬉しいですね。

−映画にこだわるのは何か理由があるのでしょうか?
地元には映画館がなくて、長崎まで出ないといけなかったんです。安い便だと、3時間半以上かかる。だからあまり映画館に行くことが出来なくて、映画館で観たいのに観られない作品がたくさんありました。今はVODが増えて、都会でも映画館に行かない人が多いと聞きます。自分が幼い頃に感じた“映画館で観たい”という感覚が消えていってしまうのが嫌で、自分が素敵な映画に出ることで、映画館に足を運んでもらいたいという想いがあります。

−どうしても映画館で観たい、と感じた作品は、どんな作品だったのでしょうか?
行きたくても行けなかった作品として思い出に残っているのは、『クレヨンしんちゃん』ですね。映画の全シリーズを観ているくらい、大好きなんです。しんちゃんは、5歳児の素直で純粋な感覚で、物事を判断している。自分が大人になって世の中を知っていっても、忘れてはいけない感覚だなと思っています。

−では、『クレヨンしんちゃん』の声優出演にも興味があるのでは?
いつか出てみたいですね。ゲスト出演されている俳優や芸人の方には、同じしんちゃん好きなのかな?と勝手に親近感を持ってしまうくらい。自分もいつか作品に携われるよう、成長していきたいです。

撮影:山本春花

上野凱さんが出演する舞台『風都探偵 The STAGE』は2022年12月29日から2023年1月15日まで、サンシャイン劇場にて上演予定。その後、大阪公演を予定しています。公演スケジュールの詳細とチケット購入は公式HPからご確認ください。

Yurika

クールな印象の中に、真摯で誠実な想いを秘めている上野さん。1つ1つの言葉を選びながら、丁寧に話す姿が印象的でした。