新国立劇場のフルオーディション企画第6弾として上演されるミュージカル『東京ローズ』。2019年にイギリスのBURNT LEMON THEATREが製作した作品で、今回が日本初上演となります。米国籍で日系二世の女性アイバ・トグリ(戸栗郁子)を演じるのは、飯野めぐみさん、シルビア・グラブさん、鈴木瑛美子さん、原田真絢さん、森 加織さん、山本咲希さんの6名。藤田俊太郎さん演出のもと、リレー形式で演じていきます。
アメリカと日本、2つの祖国にアイデンティティを引き裂かれた「東京ローズ」
太平洋戦争時、米兵の士気を失わせるために日本が放送したプロパガンダ放送「ゼロ・アワー」。甘い声で兵士たちの心を掴んだ女性アナウンサーは「東京ローズ」という愛称で呼ばれ、米兵のラジオアイドル的な存在として支持されました。終戦後、アメリカの記者たちは「東京ローズ」の正体を探し始めます。
複数いたと言われる「東京ローズ」の中で唯一名乗り出たのが、日系二世、ロサンゼルス生まれのアイバ・トグリ(戸栗郁子)さん。日本語の教育を受けることなく1920~30年代のアメリカで青春を過ごした彼女は、叔母の見舞いのために25歳で来日。すぐに帰国するはずが、第二次世界大戦の勃発で帰国ができなくなってしまいます。
アイバは日本での滞在費を稼ぐため、母語の英語を生かしたタイピストと短波放送傍受の仕事に就きます。そして、ラジオ・トウキョウ放送「ゼロ・アワー」の女性アナウンサーとして原稿を読むことに。終戦後、彼女は日本軍のプロバガンダ放送に加担したとして、アメリカに強制送還、国家反逆罪で起訴されてしまいます。
アメリカ国籍を剥奪する有罪判決を受け、10年の服役を言い渡されたたアイバ。弁護士であるウエイン・コリンズさんとその息子によって冤罪を晴らし、市民権を回復したのは終戦から30年以上経った1977年のことでした。
彼女は本当に罪人だったのか。アメリカと日本、2つの祖国にアイデンティティを引き裂かれながらも闘う姿を描いたミュージカル『東京ローズ』は2019年にエディンバラ・フリンジで初演され、その年のUNTAPPED AWARD、Les Enfants Terribles Stepladder Award を受賞。2021年には英国内ツアーが行われました。
藤田俊太郎 演出で日本初上演の『東京ローズ』はどう描かれる?
本作の翻訳は、新国立劇場 演劇芸術監督の小川絵梨子さん。演出はミュージカル『ラグタイム』の日本初演を成功に導いた藤田俊太郎さんです。今回の藤田さんによる演出では、主人公アイバを6人がリレー式に演じます。そして、男と女、アメリカと日本、差別する側とされる側、裁く側と不当にも裁かれる側、相反する立場の役柄を6名全員で演じ分けていきます。
出演者は936名の応募者がエントリーしたオーディションを勝ち抜いた6名。飯野めぐみさん、シルビア・グラブさん、鈴木瑛美子さん、原田真絢さん、森 加織さん、山本咲希さんと圧倒的な歌声を誇る実力者が集結しました。
藤田さんはアイバ・トグリについて、「本人はアメリカ軍人に対するプロパガンダ放送ではないと主張しましたが、戦争と人種差別の犠牲となったアイバは国籍を奪われました。それでも後悔はない、人を恨まないと、アメリカ人として信念を貫きました。収容所で亡くなった母親、財産を全て奪われた父親、家族の存在、ルーツ、語った真実は今を生きる私たちに多くのことを教えてくれます。戦前、戦中、戦後。太平洋戦争の時代と格闘し、強く生きた一市民の姿を板の上に克明に焼き付けたいと思います」とコメント。
また6人の出演者がリレー式でアイバを演じることについては、「全員でテーマを背負います。男性と女性、アメリカ人と日本人、差別する側とされる側、終戦後のアメリカでの裁判で、裁く側と不当にも裁かれる側を演じ分けます。台本、音楽、身体、テーマにカンパニー皆でとことん向き合いたいと考えます。演劇の言葉、新しい価値観を模索する可能性に挑戦をしたいと思います」と語りました。
ミュージカル『東京ローズ』は2023年12月7日(木)から24日(日)まで新国立劇場 小劇場にて上演が行われます。チケットの詳細は公式HPをご確認ください。
『ラグタイム』では、人種の分断と絆を色濃く、劇場空間を駆使して描いた藤田さん。本作での演出も期待が高まります。