2025年7月より舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』でローズ・グレンジャー・ウィーズリー役を務める倉澤雅美さん。本作には2023年からスウィング キャストとして出演し、ローズ役・嘆きのマートル役を演じてきました。これまでも『ビリー・エリオット ~リトル・ダンサー~』や『ピーター・パン』でスウィングを経験してきた倉澤さん。スウィングの経験と、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』への想いを伺いました。
バレリーナの夢を諦めた先で出会った、ミュージカルの道

−まず俳優を志したきっかけを教えてください。
「幼少期からバレエを習っていて、バレリーナになることを目指してカナダに海外留学をしていました。留学中、熊川哲也さん主宰のKバレエスクールに合格し、帰国しました。Kバレエでバレエに励んでいたのですが、段々と成長期で体型管理に苦しむようになってしまって…“痩せなきゃ”という想いが強すぎて、精神的にも追い詰められるようになってしまい、母と相談してバレエは断念しました。それでも何か他にやりたいなと思っていた時、大塚ちひろさんや井上芳雄さんが出演していたミュージカル『シンデレラストーリー』を観劇したんです。ダンスシーンもあったので “ミュージカルってバレエが活かせるんだ!”と感動し、高校生でも通えるミュージカルのスクールに通ったのち、東宝ミュージカルアカデミーに入所しました」
−東宝ミュージカルアカデミーに入ってみていかがでしたか。
「20歳の時に入ったのですが、オーディションで初めて『レ・ミゼラブル』の楽曲を歌って衝撃を受けました。もの凄く突き詰めるタイプなので、そこからミュージカルについて猛勉強しました」
−その後、日生劇場ファミリーフェスティヴァル2016ミュージカル『三銃士』や、2018年上演の『屋根の上のヴァイオリン弾き』などに出演され、2020年にはミュージカル『ビリー・エリオット ~リトル・ダンサー~』でスウィングキャストとして出演されました。初めてスウィングキャストになった時はどのように思われましたか。
「バレエガールズとして出演しながら大人の女性アンサンブルの役、6役全てをカバーする必要があったので、自分に出来るのかなという心配しかなかったです。初演の『ビリー・エリオット ~リトル・ダンサー~』を観劇していたので、あれを自分が出来るのかな?と思いました。でもスウィングに決まった時、イギリスのクリエイター陣から“僕たちはスウィングを決めることから始めるんだよ。この子になら任せられる、と思える子がいないとオーディション中もずっと気掛かりだから”と言われ、スウィングの重要性を実感しました」
−実際にスウィングをやられてみて、いかがでしたか。
「大変ではあったのですが、とても楽しかったんです。もちろん本番期間中は誰かが明日体調悪くなったらどうしようといつも心配でしたし、常に準備し続けていなければいけなかったのですが、スウィングとして準備するために袖で作品を観ている時間が長いので、作品への愛がどんどん深まっていきました。『ビリー・エリオット』は作品が本当に素晴らしいですし、日々俳優さんたちの演技が変わっていくのを観られるのはとても楽しかったです」
複数役をこなすスウィングだからこそ「他の役との関係性が見えてくる」

−スウィングというと何役もカバーする必要があると思いますが、覚えるのはお得意なのでしょうか。
「私は得意です。テスト勉強してないよって言いながら前日にめちゃくちゃしているタイプなので(笑)。不安症なので、明日稽古場でやってと言われたらどうしようと思って、稽古期間中もずっと準備ばかりしていました。でもそれが得意だし、楽しめるタイプなのだと思います。また何役もやることで、他の役との関係性が見えてくるのも面白かったです」
−その後、他の作品でもスウィングを経験されているそうですね。
「ミュージカル『ピーター・パン』『パレード』『October Sky −遠い空の向こうに−』でスウィングを務めました。コロナ禍に上演されていた作品では、キャストがコロナに感染した際の代役なので、感染しないように本番期間中は自宅待機でした。自宅待機だと作品に参加している実感が得られにくいですし、ずっと自宅で待つのは辛かったですね。期間中はもちろんスケジュールを空けておかないといけないですし、いつでも出かけられるように待機していたので孤独でした。次の日の名古屋公演に出演するかもしれない、と言われて最終の新幹線に乗って駆けつけ、結局大丈夫だったので出演せずに帰ったこともありました」
−コロナ禍や、西川大貴さんがYouTubeでスウィングについて発信されたこともあって徐々に浸透してきたように思います。
「スウィング仲間たちと話すと、共演者や制作でも理解してくださる方が増えてきているように感じます。本役の方からすると稽古場でずっと自分の後ろにいるのが慣れなかったり、役を奪いに来ているんじゃないかと思われてしまったりすることもあると思うのですが、私はあわよくば私が奪おうという気持ちは全くなく、作品を守りたいという気持ちで参加しています。本役の方のストレスにならないように、いかに一緒に作品を創っていけるかはとても気を遣う部分ですし、カンパニーに参加する皆さんにスウィングの理解が広まると良いなと思います。
大貴さんの発信もそうですし、井上芳雄さんは記事でスウィングを紹介したり、カーテンコールでスウィングキャストを呼んで紹介したりしてくださっています。カンパニー全体がスウィングに対して理解してくれ、リスペクトしてくれると良い作品作りが出来るなと感じています」
30歳になるまでに上手くいかなかったら俳優を辞めようと思っていた

−舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』には2023年からスウィング キャストとして出演し、ローズ役・嘆きのマートル役を務められています。出演のきっかけは?
「ローズ役のカバーキャストのオーディションを受けたところ、スウィングキャストとして合格しました。実は舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』日本初演時(2022年)にもローズ役のオーディションを受けていたのですが、落ちてしまったんです。オリジナルでやりたかったという悔しい気持ちがあったのと、何度も作品を観劇して“やっぱりローズをやりたい”という気持ちが強くなったので、2年目の追加オーディションを受けました」
−作品への想いが強かったのでしょうか。
「ハリー・ポッター シリーズが大好きなんです。舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』も先に舞台脚本が販売された時にすぐに読んでいて、中でもローズは“これは私じゃない?”と思うくらい自分との共通点が多くて、ずっとやりたい役でした」
−ローズのどのような部分が似ていると思われましたか。
「明るい性格なのですが、心の内では英雄であるロンとハーマイオニーの娘として、どう立ち回るべきかとても考えていると思うんです。明るいながらも色々と考えている姿が見えた時、自分と似ていると感じました。また物語が進むにつれて色々なことに影響されるので、影響されやすいところも似ているなと。ロン役・ハーマイオニー役の俳優さんによっても役が変わっていくので、それも面白いなと感じていました」

−オーディションに受かった時はどのように感じられましたか。
「コロナ禍以降なかなか仕事が決まらないことが多かったので、30歳になるまでに上手くいかなかったら俳優を辞めようと思っていたんです。合格の知らせを頂いたのが30歳の誕生日の翌日だったので、本当に嬉しかったです。合格してから友人に言われたのですが、高校の卒業式の時、友人たちに“『ハリー・ポッター』が舞台化されたら出演する”と宣言していたらしいんです。その時は舞台化なんて知らなかったのに。私は覚えていないのですが“嘆きのマートル役をやろうかな”とも言っていたらしくて、思いがけず夢が叶って驚きました(笑)」
−予知能力ですか?!(笑)ご友人も驚かれたでしょうね。現在はローズ役・嘆きのマートル役をスウィングとして演じていますが、役がごっちゃになることはないのでしょうか。
「今はだいぶ回数をやらせて頂いたので慣れてきましたが、袖で“私はローズ、私はローズ”と言い聞かせる時もありました。嘆きのマートル役ではポリーという学生役も演じるのですが、ポリーはいじめっ子で、アルバスを守るローズとは正反対の役回りです。立ち位置も真逆なことがあるので、共演者からも“よく出来るね”と言われるのですが、2役できるのは楽しさもあります。1週間のうちにローズを演じる日もあればマートルを演じる日もありますが、どちらの役も定期的に出来るので忘れずにいられてありがたいです」
−スウィング経験が豊富かつ、スウィングに向いている倉澤さんだから出来ることですね。
「確かに初めてやる人は戸惑うと思います。スウィングは若手に経験させよう、という取り組みも多いと思うのですが、臨機応変さが求められるので、舞台経験の少ない若手にとってはなかなか大変だろうなと思います」
−ロングラン公演ならではの難しさもあるかと思います。
「公演を続けることの難しさを日々実感しています。公演中止が起こってしまうと、楽しみにされていたお客様に本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになります。スウィングを上手く機能させながら、お客様に公演をお届けすることを第一にこれからもカンパニー一同で動いていきたいです」
2年間のスウィングを経て念願のローズ役に

−2025年7月からはローズ役の本役となりますが、どのようにして決まったのでしょうか。
「スウィングは2年間の予定だったので、ローズ役のオーディションを受け直して、ローズの本役をやりたい意思を改めて伝えました。そうしたらイギリスのクリエイティブチームが“ローズが出来るのは分かっているから”と言ってくれて。ローズ役を出来ると信じて任せてくださったのは凄く嬉しいですし、その期待に応えられるよう頑張らなければと思っています」
−信頼を積み重ね続けてきたからこその結果ですね。2年間作品に携わり、全うしたので卒業するという選択肢もあったと思います。もう一度オーディションを受け直すほどローズ役への想いが強かったのでしょうか。
「2年間作品に関わっていて、出演する度に毎回袖から観ているのですが、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』はどんなに観ても本当に見飽きない作品なんです。やっぱり好きだなと思い続けられる作品ですし、ロングランでキャストが変わるからこそ、日々皆さんの演技が変化していくのが楽しい。離れることが考えられないくらい大好きな作品ですし、ローズ役で、作品と役と、向き合い続けたいという気持ちが強かったです」
−そこまで倉澤さんを魅了する舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』の魅力とは何だと思いますか。
「シリーズを通して愛について描かれた作品ですし、本当に素敵な台詞がたくさんあります。2年間聴き続けているのに、台詞が新鮮に聞こえたり、その台詞に至るまでの感情への新しい発見もあったりするんです。ハリー・ポッターの息子アルバスと、ドラコ・マルフォイの息子スコーピウスの関係性や、ロンとハーマイオニーのどんな時も変わらない愛、ハリーとドラコの関係性が変化していくところも素敵だなと思います。舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』はシリーズとの繋がりも多くて、キングス・クロス駅の9と3/4番線に立つと今でも感動します」
−キャストが変わって新たに作品に関心を持つ方もいらっしゃると思います。初めて観る方に、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』をどのように楽しんでもらいたいですか。
「物語がどんどん進んでいくので情報量が多く感じるかもしれないですが、ぐっと集中してハリーたちの言葉を聞いてもらえると嬉しいです。劇場って、お客様も、私たち俳優も、一緒に集中する空間であることが良いところの1つだなと思うんです。そうやって作品に集中してみて、もし何か引っかかることがあれば、もう一度観にきてほしい。ロングラン公演だからこそ、気軽に何度でも観にきて作品の世界に浸ってもらえると嬉しいなと思います」

舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』はTBS赤坂ACTシアターにてロングラン上演中。チケットの詳細は公式HPにてご確認ください。

作品への愛をキラキラとした瞳で語ってくれた倉澤さん。ハリポタ好きとして大共感しながらお話を聞いておりました!夢を叶えた倉澤さんのローズ役、楽しみです!