ミュージカル界の天才ソングライターデュオ、ベンジ・パセクとジャスティン・ポール(パセク&ポール)を知っていますか?『ラ・ラ・ランド』『グレイテスト・ショーマン』『ディア・エヴァン・ハンセン』などの楽曲で知られ、ミュージカルのヒットメーカーとして評価を集めています。この記事では、そんな彼らが手がけた至高のミュージカル作品をご紹介します。
ミュージカル界の天才デュオ、パセク&ポールとは?
近年のエンターテイメント界において、世界中から熱い視線を注がれているソングライターデュオがいます。ベンジ・パセクとジャスティン・ポール、通称「パセク&ポール」です。作詞・作曲家やプロデューサーとして、ミュージカルの舞台や映画、テレビなどで活躍しています。
その名が広く知られるようになったのは2016年ごろでした。『ラ・ラ・ランド』『グレイテスト・ショーマン』『ディア・エヴァン・ハンセン』で手がけた楽曲が評価され、アカデミー賞、グラミー賞、トニー賞をすべて受賞したのです。
パセク&ポールはアメリカ・ミシガン大学で出会いました。『セールスマンの死』で知られる劇作家アーサー・ミラーや、テレビドラマ『glee/グリー』シリーズで人気を獲得したダレン・クリスなどを輩出した大学です。特に演劇学部は難関とされ、エンターテイメント界での活躍を目指す若者が集まっています。
入学当初、学内のオーディションで思うような役が掴めず、挫折を味わった彼らですが、「自分たちの手で作品をつくろう」と決意します。そして2005年にミュージカル『EDGES』を上演すると大ヒット!2006年にはニューヨークへ進出し、あっという間に売れっ子の階段を駆け上りはじめました。今では「ミュージカルのヒットメーカー」と称される存在になっています。
パセク&ポールが手がけたミュージカル作品10選
演劇シーンからハリウッドの映画に至るまで、パセク&ポールが世に送り出してきた名曲は枚挙にいとまがありません。ここからは、彼らが手がけたミュージカル作品を詳しくご紹介していきます。
ミュージカル『EDGES』(2005年〜)
『EDGES』は、パセク&ポールが大学時代に書き上げた、原点にして出世作です。「ソングサイクル」という形式が取られ、共通のコンセプトを持つ楽曲によってオムニバスに物語が綴られます。
「自分は誰で、何になりたいのか」という若者たちの苦悩を描き、人生の意味をストレートに問いかけてくる作品です。日本ではミュージカル『EDGES -エッジズ- 2022』として上演され、その独創的な世界観で観客を夢中にさせました。
その中でも特に人気の楽曲が「Like Breathing(ライク・ブリージング)」。「Let it be like breathing(呼吸のようにあるがままに)」「I’m not afraid(怖くない)」「Who I am, who I want to become(ありのままの自分、なりたい自分になること)」など、孤独や恐怖に悩む自分自身を解放するような歌詞が、観客の心を包みこんでくれます。
ミュージカル『James and the Giant Peach』(2010年〜)
ロアルド・ダールの児童文学『おばけ桃の冒険』をもとにした本作は、意地悪な叔母たちに引き取られた孤独な少年ジェームズが主人公です。ある日、不思議な魔法によって巨大化した桃と、その中に住む巨大な虫たちに出会った彼は、桃に乗って転がり、ニューヨークを目指す大冒険へと旅立ちます。
ダール亡き後、妻は作品の上演権を、脚本家のティモシー・アレン・マクドナルドに許諾します。そしてクリエイティブチームの編成にあたり、作曲・作詞チームとしてパセク&ポールが選ばれました。
このミュージカルの代表曲が「Middle Of A Moment(ミドル・オブ・ア・モーメント)」です。第一幕の終盤、叔母たちからひどい侮辱を受けたジェームズが、過去も現在もすべて置き去りにして、桃の中へと入っていくときに歌われます。
「So you’re stuck in the middle of a moment(だから君は、その瞬間の真ん中で立ち止まっている)」「You’re halfway to somewhere new(新しい場所への道のりの半分まで来ている)」「Keep moving through(そのまま進んでいこう)」と自らを鼓舞する、とても前向きなナンバーです。
ミュージカル『A Christmas Story, The Musical』(2012年)
ミュージカル『A Christmas Story, The Musical』は、アメリカ人ジャーナリスト、ジーン・シェファードのエッセイにもとづくコメディ映画をミュージカル化したものです。1940年代の冬を舞台に、眼鏡をかけた9歳の少年・ラルフが、憧れの玩具である「BBガン」をクリスマスに手に入れようと、あの手この手で奔走する姿をユーモラスに描いています。
劇中歌「Red Ryder Carbine Action BB Gun(レッド・ライダー・カービン・アクション・BB・ガン)」はカウボーイ風のコミカルな楽曲です。「BBガンを手に入れてヒーローになる」という憧れについて、ラルフが元気いっぱいに歌い上げます。
「You don′t need a steed to be a cowboy(カウボーイになるのに、馬なんて必要ない)」「But I just know I gotta get a Red Ryder carbine(でも、ただ一つ確かなのは、僕は手に入れなきゃいけないってこと。レッド・ライダーのカービン)」などの歌詞から、誰しも味わったことのある「あれがほしい!」という衝動があふれてくるようです。
ミュージカル『Dogfight』(2012年〜)
ミュージカル『Dogfight』は、1991年公開の同名映画をもとにした作品です。ベトナム戦争への出兵を翌日に控え、若き海兵隊員エディと、内気なウェイトレスでフォーク歌手を夢見るローズの、切ない恋模様を描いています。日本でも2015年、2017年、2021年に上演され、大盛況のうちに幕を閉じました。
物語の中心になるのが「ドッグファイト」。兵士たちが競って「最も醜い女性」をパーティーに連れてくるという悪趣味なゲームです。ローズの純粋さに触れ、エディは後ろめたさを感じますが、「ドッグファイト」は兵士になる彼らに感情を捨てさせるために仕組まれた、残酷な通過儀礼なのでした。
この作品を象徴する楽曲といえば「First Date/Last Night(ファースト・デート/ラスト・ナイト)」でしょう。
エディは「ドッグファイト」についてローズへ謝罪し、高級レストランに連れて行って償いたいと申し出ます。最初は半信半疑だったローズですが、ドッグファイトを二度と話題に出さないことを条件に、デートに出かけることになりました。そこで流れるのがこの曲です。
デートへの緊張や、終わってしまうことへの名残惜しさを歌い上げる、切なくもロマンチックなデュエット曲になっています。「Not quite what you pictured But alright(想像していたのとはちょっと違うけど、まあいいや)」という歌詞からは、偶然の出会いが2人に新たな発見をもたらしたことが感じられます。
ミュージカル『ディア・エヴァン・ハンセン』(2015年〜)/映画『ディア・エヴァン・ハンセン』(2021年)
ミュージカル『ディア・エヴァン・ハンセン』は、社交不安障害を抱える孤独な高校生、エヴァン・ハンセンが、ある誤解から嘘をついてしまい、意図せずSNSで大きな注目を集めていく姿を描いています。第71回トニー賞では主演男優賞、主演女優賞、ミュージカル作品賞、最優秀作曲賞など、計6つの賞を制覇しました。
2021年には映画『ディア・エヴァン・ハンセン』が公開され、パセク&ポールはエグゼクティブ・プロデューサーを務めました。ミュージカル版でエヴァン・ハンセン役を演じたベン・プラットが続投したことでも知られています。
『ディア・エヴァン・ハンセン』を代表する1曲が「Waving Through a Window(ウェイヴィング・スルー・ア・ウィンドウ)」です。同級生から嫌がらせを受け、「これからの人生でも除け者にされ続けるのだろうか」と思い悩むシーンで流れます。
「On the outside, always looking in(ぼくはいつも外側にいて、中を覗き込んでいる)」「Can anybody see, is anybody waving back at me?(ぼくのことが見える人はいない?手を振り返してくれないかな?)」といったフレーズから、その心に染み付いた寂しさを感じ、胸が苦しくなってしまいそうです。
そして2026年、ミュージカル『ディア・エヴァン・ハンセン』がついに日本へ上陸します。7月〜9月まで東京・愛知・大阪で上演予定です。エヴァン・ハンセン役に柿澤勇人さんと吉沢亮さんがWキャストで挑みます。希望に満ちた傑作ミュージカルを、この機会にぜひお見逃しなく!詳細は公式サイトから。
映画『ラ・ラ・ランド』(2016年)
『ラ・ラ・ランド』はロサンゼルスを舞台に、女優の卵であるミアと、伝統的なジャズを愛するピアニストのセバスチャンという、夢を追う2人のほろ苦い恋模様を描いたミュージカル映画です。お互いに励まし合いながら成功へと近づくにつれ、現実の厳しさとすれ違いに直面する様子を、ロマンチックに映し出しました。
第74回ゴールデングローブ賞ではノミネートされた7部門すべてを受賞。第70回英国アカデミー賞では11部門にノミネートし、6部門を受賞しました。さらに第89回アカデミー賞では史上最多の14ノミネートを果たし、監督賞、主演女優賞、撮影賞、作曲賞 、歌曲賞、美術賞を獲得しています。
パセク&ポールは主題歌「City Of Stars(シティ・オブ・スターズ)」の作詞を担当しました。「City of stars Just one thing everybody wants(スターの街、みんなが求めてるのはたった一つ)」「Yes, all we’re looking for is love from someone else (そう、みんな誰かに愛されたいんだ)」。ミアとセバスチャンが並んでデュエットする姿は、希望に満ちあふれているはずなのに、なぜか少し悲しさも漂わせています。
映画『グレイテスト・ショーマン』(2017年)
『グレイテスト・ショーマン』は、19世紀に実在した興行師P・T・バーナムの半生を描いたオリジナル・ミュージカル映画です。社会から疎外されていた個性豊かな人々を集め、斬新なサーカスを立ち上げ、栄光や挫折を経験しながら、家族や仲間との絆を取り戻していきます。
パセク&ポールが作詞・作曲を手がけ、「This Is Me(ディス・イズ・ミー)」で第75回ゴールデングローブ賞・主題歌賞を受賞しています。バーナム・サーカスのパフォーマーたちが、マイノリティとしての誇りを堂々と歌い上げる名曲です。彼らの名前を世間に浸透させた作品といえるでしょう。
「I’m not a stranger to the dark(暗闇には慣れている)」「But I won’t let them break me down to dust(でも誰にもゴミ扱いなんてさせない)」「I know that there’s a place for us(だって居場所があると知っている)」「And I know that I deserve your love(わたしは愛される価値があることを知っている)」といったことばに、自信を失ったときも「これが自分のあるべき姿だ」と思う勇気をもらえそうです。
ディズニー映画 実写版『アラジン』(2019年)
ディズニーの長編アニメーション映画の実写リメイク作品『アラジン』。砂漠の王国アグラバーを舞台に、清らかな心を持つ貧しい青年アラジンと、自立心あふれる王女ジャスミンとの身分違いの恋、そしてランプの魔神・ジーニーとの絆を描いています。
巨匠アラン・メンケンとタッグを組み、パセク&ポールは新曲「Speechless(スピーチレス~心の声)」を書き下ろしました。ジャスミンのソロナンバーで、信念を貫こうとする想いを力強く歌い上げます。アカデミー賞最終候補にも選出されました。
「But I won’t cry And I won’t start to crumble(でも泣かないし、崩れたりしない)」「All I know is I won’t go speechless(無言になんかならないって確信している)」「I won’t just lay me down and die(ただ横たわって、死んだりなんかしない)」など、彼女の誇り高さが伝わってきて、アニメ版とはまた違った味わいを楽しめることでしょう。
映画『シング・フォー・ミー、ライル』(2022年)
映画『シング・フォー・ミー、ライル』は、バーナード・ウェーバーの児童書を実写映画化した作品。ニューヨークの住宅に隠れ住んでいた、歌と踊りが好きな心優しいワニのライルと、そこに引っ越してきた少年ジョシュとの友情物語です。孤独を抱えるジョシュや家族と心を通わせ、彼らの人生を明るく変えていく様子をユーモラスに描いています。
パセク&ポールによる劇中歌のうち、特に人気のある「Top Of The World」は、ジョシュと親しくなりたくて悩むライルが歌う1曲。
「At the top of the world tonight(今夜は最高な気分)」「You’re sitting safe and starry-eyed(理想に満ちた瞳で安全な場所に座りながら)」「There is treasure you can find(宝物を見つけることができる)」……夜の屋上で流れるメロディーは、「好きなことがあれば最高の居場所に出会える」と教えてくれているようです。
映画『スピリテッド』(2022年)
『スピリテッド』は、チャールズ・ディケンズの小説『クリスマス・キャロル』に、現代的な視点と風刺を交えて再構築した、Apple TV+のオリジナルミュージカル映画です。冷酷なマーケティングコンサルタントのもとに、「現在」のクリスマスの亡霊が現れますが、クリントの同僚には亡霊が見えるようで、奇妙な事態へと発展していくのでした。
同作の楽曲をパセク&ポールが手がけ、「Good Afternoon(グッド・アフタヌーン)」はアカデミー賞最優秀オリジナル歌曲賞の最終候補に選出されています。マーケティングコンサルタントのクリントに乗せられ、亡霊であるエベニーザが過去を振り返り、いつの間にか開き直ってしまう……というタイミングで登場する曲です。
「So you’ve done nothing wrong In so very, very long(君は悪いことなんて長い間やってないんだね)」「But come on, now don’t stay quiet You know you wanna try it(でも黙ってないでさ、やってみたいって分かってるんだろう)」などと煽るクリント。上品な響きで失礼なことを言い続けているので、聞いているとだんだん愉快な気持ちになってしまうはずです。
パセク&ポールの楽曲は、登場人物のリアルな感情に寄り添う歌詞が魅力だと思います。若者の葛藤を解放する劇中歌や 、マイノリティの誇りを力強く叫ぶアンセムなど 、どれも「自分らしく生きる勇気」をくれることでしょう。2026年に日本初上陸を果たす『ディア・エヴァン・ハンセン』も、今から開幕が待ちきれません!



















