世田谷パブリックシアター主催公演の舞台『Yerma イェルマ』が2026年9月に開幕し、シアタートラムを皮切りに全国の劇場で上演されます。劇作家・ロルカの傑作を気鋭の演出家と劇作家が現代に再構築する意欲作です。

スペインの戯曲をベースに今の時代を映し出す

舞台『Yerma イェルマ』は、スペインの詩人・劇作家であるフェデリコ・ガルシーア・ロルカが1934年に発表した同名戯曲を下敷きに、人間の本質に深く根差した現代社会の問題と向き合う作品です。自らの居場所や生きる価値を見出そうともがく男女の姿を通して「自己の存在意義」や「家族の在り方」を問いかけます。

原作の戯曲は、ロルカの三大悲劇のひとつ。1930年代のスペインの閉鎖的な寒村で、子どもを産むことをめぐって苦悩する女性・イェルマが孤独を募らせ、追い詰められる様子を鮮烈に描き出しています。

2017年にはサイモン・ストーンさんによる演出のもと、現代のロンドンを舞台とした『Yerma』がローレンス・オリヴィエ賞の最優秀リバイバル賞を受賞。さらに、主演のビリー・パイパーさんが同賞の最優秀女優賞を含め名だたる演劇賞を獲得したことでも話題となりました。サイモン・ストーンさん演出版は2018年にナショナル・シアター・ライブ(NTL)で日本の映画館でも上映されています。

今なお演劇界で創作の源となっている不朽の名作が、2026年の日本に生きる人々に向けて、新たな物語として立ち上がります。

今回の公演を主催する世田谷パブリックシアターでは、芸術監督の白井晃さんが2026年度の主催事業において「わたしは、この世界でどう営むか」をテーマに掲げています。生活スタイルや働き方、家族の形など社会の価値観が多様化する一方、固定観念や常識に縛られて息苦しさを感じる人も少なくないでしょう。

本作では原作の普遍的なテーマはそのままに、舞台を現代の都心に置き換え、観客にとってよりリアルな世界観を創出。「生産性のない人たちには存在価値がないのか」という痛切な問いに対し、今の自分の存在を認めて生きる道を模索します。

新進気鋭の演出家と劇作家がタッグを組む

本作の演出を手掛けるのは、近年の演劇シーンで際立った才能と感性を放つ若手演出家の稲葉賀恵さんです。

2008年より文学座附属演劇研究所に入所し、劇団内外での演出助手を経験。2013年に座員に昇格すると、同年4月に文学座アトリエの公演『十字軍』で初演出を果たしました。その後もジャンルの垣根を越えて演出の可能性を追求。2023年にオフィスコットーネプロデュース『加担者』とパルコ・プロデュース2022『幽霊はここにいる』の演出により、第30回読売演劇大賞の優秀演出家賞を受賞。2025年には翻訳家の一川華さんと共同で主宰する演劇ユニット「ポウジュ」の舞台『リタの教育』『オレアナ』『Downstate』の3作品における演出が評価され、第33回読売演劇大賞の最優秀演出家賞に選ばれました。また、webメディア「Audience」が2025年に開催した読者投票型アワード「第4回Audience Award」にて、稲葉さん演出のミュージカル『Once』と舞台『リンス・リピート ―そして、再び繰り返す―』が演出部門大賞に選出されたほか、『Once』で4部門の大賞を獲得。稲葉さん自身の解釈を軸に人間を見つめる鋭くも温かいまなざしが、観客の心を掴んでいることがうかがえます。

今後上演される演出作品として、8月に日生劇場ファミリーフェスティヴァルの音楽劇『ロドリゴ・ラウバインと従者クニルプス』、12月にミュージカル『Four minutes』が控えています。

そして本作の劇作を担うのは、瑞々しく情感豊かな台詞をちりばめ、言葉で時空間を飛び越えようとする作風を持ち味とする劇作家のオノマリコさんです。2010年に旗揚げした主宰劇団「趣向」ではすべての作品で劇作を担当。代表作に女子学生の4年間を描いた『解体されゆくアントニン・レーモンド建築 旧体育館の話』や、複数人と誠実な恋愛関係を築くポリアモリーという関係性を題材にした『THE GAME OF POLYAMORY LIFE』、恋愛以外でも結婚できる制度をめぐる『べつのほしにいくまえに』があります。また、劇団外では2024年のミュージカル『ラフヘスト 〜残されたもの』の上演台本・一部訳詞や『音楽劇 中原中也』の脚本・作詞、2026年3月の舞台『誰かひとり/回復する人間』における『回復する人間』の脚本など、多彩な作品に携わっています。

演出の稲葉さんとの縁も深く、2026年3月に10年ぶりにKAAT神奈川芸術劇場 大スタジオで再演された『THE GAME OF POLYAMORY LIFE』でタッグを組んだばかり。個人の関係や社会の仕組みに目を向け、その課題を浮かび上がらせてきたオノマさんが、本作で存在価値という根本的なテーマに挑みます。

<あらすじ>
都心から少し離れたところにある一軒家。イェルマが夫フワンを見送ると、いつの間にかリビングに一人の老婆が座っている。心身の不調が原因で仕事をあきらめ結婚したイェルマは、夫との子供が欲しいと思っている。イェルマは子供ができない寂しさを、老婆に語る。壊れそうなフワンとの関係。同居している義理の姉。リモートワークの部屋として、家の空き部屋を借りている幼馴染のビクトル。仕事をしながら妊娠にも成功した友人たち。この世の中からの承認を求めるイェルマは、自分には存在価値がないのではないかと疑っている。その混乱は、夫のフワンにも伝染していく。

実力派から若手のホープまで多様な俳優陣が集結

本作タイトルロールを務めるのは、元宝塚歌劇団の雪組トップ娘役であり、退団後も舞台や映像作品での活躍が光る咲妃みゆさんです。

これまで2022年の舞台『千と千尋の神隠し』や2023年のミュージカル『マチルダ』、2024年のミュージカル『カム フロム アウェイ』など、数々の話題作に出演。2021年にミュージカル『NINE』『GHOST』で第46回菊田一夫演劇賞、2024年に舞台『少女都市からの呼び声』で第31回読売演劇大賞の優秀女優賞を受賞しました。

また、直近では2026年1月にミュージカル『クワイエットルームにようこそ The Musical』で主人公を好演。7月5日に大千秋楽を迎えたミュージカル『レッドブック〜私は私を語るひと〜』で“私”らしさを貫こうとするヒロインをしなやかに演じた姿も印象的でした。

「自分に存在価値はあるのか?」という苦悩は、誰にとっても決して他人事ではないはず。だからこそ、咲妃さん演じるイェルマの言動ひとつひとつに私たちの感情も強く揺さぶられるのではないでしょうか。

家庭生活に非協力的で自らもある秘密を抱えるイェルマの夫・フワンは、渡邊圭祐さんが演じます。モデル活動を経て、2018年のテレビドラマ『仮面ライダージオウ』で俳優デビュー。近年は舞台に映画、ドラマと活躍の場を広げており、2026年4月から6月に放送された関西テレビ・フジテレビ系ドラマ『銀河の一票』で暴露系YouTuber 白樺透を演じ、注目を浴びました。

イェルマの幼馴染であるビクトル役は、俳優として目覚ましく躍進する小林亮太さん。舞台『鬼滅の刃』で2020年から2022年まで初代・竈門炭治郎役を務めたほか、2025年のミュージカル『フランケンシュタイン』では新たなメインキャストに抜擢されて1人2役に挑戦しました。また、2026年3月にミュージカル『ブラッド・ブラザーズ』でWキャストの主演を果たしたのも記憶に新しいところです。

そして、イェルマの内的な存在として物語を動かしていく老婆の役で、渡辺いっけいさんが登場。かつては劇団☆新感線と劇団「状況劇場」に参加し、現在に至るまでテレビドラマや映画、舞台、ナレーションと幅広く活動。出演作には枚挙にいとまがなく、卓越した表現力で多彩な役を演じてきました。その豊富な実績をもってしても経験のない役柄を打診されたことが、本作への参加を決めた最大の理由だったそう。謎に包まれた老婆がイェルマに何をもたらすのか、大きな見どころのひとつです。

このほか本作で初舞台を踏む樋之津琳太郎さん、2024年の舞台『セツアンの善人』や2026年のロロ新作本公演『ウルトラソウルメイト』などで実力を発揮する大場みなみさん、大人計画の研究生として4年間松尾スズキ氏に師事し、2020年より劇団「贅沢貧乏」に所属する青山祥子さん、2021年まで文学座に在団し、本作の演出担当である稲葉さんをはじめ、多くの演出家による舞台を経験する前東美菜子さんが出演します。

舞台『Yerma イェルマ』は、2026年9月21日(月・祝)から10月12日(月・祝)まで東京・世田谷パブリックシアター シアタートラムにて上演。その後は10月17日(土)・18日(日)に兵庫県の兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール、10月31日(土)・11月1日(日)に宮城県の多賀城市民会館 大ホール、11月7日(土)・8日(日)に愛知県の東海市芸術劇場 大ホールでツアー公演を行います。公演に関する詳細は、公式HPをご確認ください。

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もこ

自分とは、家族とは何か。改めて問われると簡単には答えられないからこそ、舞台を通じて自分の本音をすくい上げたくなります。