7月17日からサンシャイン劇場で開幕の『無伴奏ソナタ-The Musical-』。演劇集団キャラメルボックスの代表作として長年愛されてきた舞台をミュージカル化した本作の再演に、平間壮一さん、多田直人さん(キャラメルボックス)、真瀬はるかさんらが挑みます。開幕を前に取材会とゲネプロが行われました。

「1人じゃないという勇気を受け取って」

公開ゲネプロ前に行われた取材会には、本作に出演する平間壮一さん、多田直人さん(キャラメルボックス)、真瀬はるかさん、熊谷彩春さん、長江崚行さん、西川大貴さんと演出の成井豊さんが登壇しました。

クリスチャン役の平間壮一さんは「(2024年の)ミュージカル版で、稽古で“これでもか”というくらい作品について話し尽くしたので、今回はそれをみんなに伝えれば済むのかなと思いきや、またその倍くらい話しましたね(笑)。それが作品の魅力と言いますか、話せば話すほど、世界観がどんどん膨らんでいくのが良いところだなと思いました。だから今回はより『無伴奏ソナタ』の世界観が深くなっているという点が、進化した点ではないかと思います」と稽古を振り返りながら語ります。

ウォッチャー役の多田直人さんは「前回からの大きな変更点として、僕が演じるウォッチャーに新曲<君はまっすぐに>が加わることになりました。それを聞いた時にはプレッシャーを感じてはいたんですけれども、この曲が挟まることによって、クリスチャンを中心にした物語ではあるのですが、また1つの軸としてウォッチャーとしても物語を着地させてくれるような音楽になっています。この楽曲があることで、僕もラストシーンの見せ方、雰囲気、演じ方が自ずと変わっていきました。前回作品をご覧になったお客様から見ても、この変更点は大きく感じ取っていただけるんじゃないか、違った感想を抱いてもらえるんじゃないかと期待しているところです」と語ります。

真瀬はるかさんは「私が演じるオリビアという役は、クリスチャンにとって母であり、姉であり、パートナーのようでもあり、女性性の持つ色々な面を含む魅力的だなキャラクターだと解釈しています。女性が持っている包容力と優しさ、一方で女性は案外強いなと思うので、そういう女性ならではの強さでクリスチャンを守ろうとするところ、色々な面を詰め込んで、クリスチャンの人生に影響を与え合っていけたら」と意気込みます。

熊谷彩春さんは「再演ということで、1つ1つの登場人物により深掘りがされています。SF作品ではありますけれども、とても人間くさくて個性豊かな登場人物がたくさん出てくるので、そこに注目して見ていただけたら」とアピール。

長江崚行さんは「全員野球と言いますか、みんなでシーンを作り上げているので1つを取り上げるのは悩ましいのですが、個人的なこととして、2幕の果樹園のシーンでは僕が演じるギレルモがメインで色々なことをやらせていただいています。ギターを弾いたり、歌ったり踊ったり、舞台上でなるべく大暴れできたら」とコメント。

西川大貴さんは「熊谷彩春さんとメインで演じさせていただくバー&グリルのシーンは、シリアスなシーンやクリスチャンが運命に翻弄されるシーンが多い作品の中で、清涼剤になるようなシーンかなと思います。観たお客様が終演後にビールを飲みたくなるような非常に楽しい楽曲<仕事の後のビール>がありますので、ぜひそこを注目していただければと思います」と語りました。

演出を手がける成井豊さんは「ミュージカル初演ではストレートプレイをどうミュージカルにするかという点を主にディスカッションしていたのですが、それはもう済んでいるので、今回は特に世界観について話し合うことができました。この作品の世界では2歳の適性検査で将来の職業を決定する幸福法があり、その世界を役者は生きなければならないので、どんな世界なんだろうということをたくさん話し合いました。そのおかげで、初演より断然、世界観を深く構築できたのでは。それともう1つ、この人たちは面白いんです(笑)。ギャグやユーモアが加わっていて、メンバーの仲の良さがそのまま出ていると思います。物語自体は壮絶な物語だけれども、日常の部分はすごく楽しくなりました」と再演での変化をコメント。

また「初演を観た人が今回の再演を観たら、きっと驚くと思います。“初演を観たからいいや”という人は、ダメ!今回来なきゃダメです!もっと面白くなっているのでぜひ来てほしい」とアピールし、「演劇は創る側のメッセージをお客さんに伝える手段だとは思っていないので、どう受け取ってもらっても構わないんだけれども、理想として、自分たちの芝居を観ることでお客さんの生活や人生がちょっと変わると良いなぁと思います。例えばクリスチャンの誠実な生き方とかかもしれないし、ギレルモの生き方、オリビアの生き方かもしれない。何かに触れて、ちょっとでも影響があってくれると嬉しいです」と語りました。

最後に平間さんから「クリスチャンとして言えることは、人からどれだけ変わっていると言われようと、好きなものには自信を持って好きでいて良いというメッセージを伝えたい。僕も小さい頃は結構“変わっている”と言われる子どもで、人と違う考え方をするねと言われる自分は良くないのかなと思う時期もあったんですけれど、人生を送っていれば、クリスチャンにとってのウォッチャーのように、1人でも自分と同じような存在がどこかにいる。絶対に1人じゃないという勇気を受け取ってくださると嬉しいです」とメッセージが贈られ、会見が締めくくられました。

音楽は僕のすべて−

アメリカの作家、オースン・スコット・カードによる短編小説を原作に、2012年から演劇集団キャラメルボックスの代表作として愛され続けてきた舞台『無伴奏ソナタ』。2024年に脚本・演出・作詞を成井豊さん、音楽を杉本雄治さんが手がけてミュージカル化され、大きな反響を得ました。

再演ではミュージカル版初演に引き続きクリスチャン役を平間壮一さん、舞台版『無伴奏ソナタ』でクリスチャンを演じた多田直人さんがクリスチャンを監視するウォッチャーを演じます。

生後6ヶ月のテストでリズムと音感に優れた才能を示し、2歳のテストで音楽の神童と認定されたクリスチャン・ハロルドセン。彼はたった2歳で親元を離れ、森の中の一軒家で音楽を創る「メイカー」と呼ばれる仕事に就きます。

彼は独自の音楽性を守るため、既成の音楽を聴くこと、他人と接することを禁じられながら過ごし、美しい音楽の数々を生み出します。しかしある日、男がクリスチャンに「君には欠けているものがある」とバッハの音楽が入ったレコーダーを差し出し…。

バッハの音楽に出会うまでのクリスチャンは、音楽を奏でる喜びを両手いっぱいに抱えて目を輝かせる、純粋無垢な子どものままのよう。しかし「自分に欠けているものが何かを知りたい」という欲望や不安に抗うことができません。

法を犯したクリスチャンは「メイカー」の資格を剥奪され、音楽と関わることを禁じられます。しかし生活のありとあらゆる場所に、音楽は溢れているもの。バー&グリルに置かれたピアノ、カリフォルニアの田舎町でブドウの収穫をしながら歌を口ずさむ人々。音楽を避けて再配置された職業でも、ふとした瞬間にクリスチャンは音楽に出会ってしまい、どうしようもなく惹かれてしまうのです。

平間壮一さんは会見で「クリスチャンはあてがきのよう」と語られた通り、音楽への愛に溢れた純真さと繊細さで、壮絶な運命に翻弄されるクリスチャンの人生に挑みます。禁止されても、どうしても<音楽は僕のすべて>であり続ける。音楽を奏で始めると取り憑かれたように一気に輝き出す表情が印象的です。

多田直人さん演じるウォッチャーはクリスチャンにとって非情な決断を下す役割を担いますが、多くの登場人物がクリスチャンとほんの短期間しか関わらず、「彼ともう一度会えたら」と回顧する中、ウォッチャーだけはクリスチャンの人生の多くを共にします。

2幕後半でクリスチャンと観客はウォッチャーがウォッチャーになった背景を知ることになるわけですが、新曲<君はまっすぐに>が加わることで、ウォッチャーが隠し持っていた心情を深く知ることができます。たった1曲されど1曲、ミュージカル作品として1曲が加わる意味の大きさを実感します。

真瀬はるかさんはクリスチャンのハウスキーパーであるオリビアを表情豊かに演じていきます。クリスチャンを“音楽の天才”としてだけでなく、人として理解し支えていくオリビアは、クリスチャンにとっても大きな存在であるはずです。

胸が苦しくなる展開の多い本作の中、キャッチーで楽しいナンバーが味わえるのがバー&グリルのシーン。クリスチャンがドライバーとして働く中、訪れた店で店主のジョー(西川大貴さん)とウェイトレスのリンダ(熊谷彩春さん)、常連客たちが賑やかに歌い踊ります。<仕事の後のビール><私を映画に連れてって>は、思わず一緒に口ずさみたくなるような楽曲です。

本作の世界観では「幸福法」に基づき、嫉妬や競争、悲しみのようなマイナス要素が先回りして排除されます。人は自分に「向いている」職業に就き、「メイカー」は他人の音楽を聴くことはない。

確かに他人の人生が目に入りやすくなった今、私たちは幸せになったと言えないかもしれません。例えば国民総幸福量を指標の1つとし、「世界一幸福な国」と言われたブータンでは、テレビやインターネットの解禁によって他国と比較できるようになったことが幸福度ランキング急落の一因だと言われています。

クリスチャンが法を犯して罰せられるたび、「あなた方の幸せは法律で守られている」と繰り返されます。

撮影:山本春花

しかしクリスチャンは妬みや苦しみ、悲しみから新たな音楽を生み出します。彼が創る音楽はかつてのような純粋な煌めきだけではないかもしれない。それでも、だからこそ、人の心を震わせる音楽が生まれます。そしてその音楽からは、クリスチャンの身体からは、どんなに壮絶な運命を与えられても、音楽の歓びが溢れ続けています。それは、胸を締め付けられるような物語でありながら、豊かな歓びをくれる本作そのものにも重なります。

『無伴奏ソナタ-The Musical-』は2026年7月17日(金)から7月26日(日)までサンシャイン劇場、8月8日(土)から8月9日(日)までクールジャパンパーク大阪 WW ホールにて上演されます。公式HPはこちら

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Yurika

幸せとは何か、法律とは何か、他者と生きるとはどういうことなのか。クリスチャンの代わりに答えを見つけることはできないけれど、劇場に足を運び、彼の物語に耳を傾け、拍手喝采を贈ることはできます。そして彼と共に、幸せについて考え続ける人が増えていくことを願っています。