元宝塚歌劇団花組トップスターであり、現在もさまざまな舞台で活躍する明日海りおさんがギリシャ悲劇『詩と音楽の光景「エレクトラ」』に挑戦します。共演にはキムラ緑子さんや中尾明慶さんら豪華キャストが名を連ね、演出を務めるのは栗山民也さんです。

『エレクトラ』では、数あるギリシャ悲劇の中でも特に激しい感情を抱えるヒロイン・エレクトラが魅力的です。過去に高畑充希さんや大竹しのぶさんらが演じた難役を、明日海さんはどのように演じるのでしょうか。

明日海りお×キムラ緑子が演じる娘と母。憎しみと正義がぶつかり合う激情の物語

『エレクトラ』は、紀元前5世紀頃に活躍した三大悲劇詩人・アイスキュロス、ソフォクレス、エウリピデスがそれぞれ題材にした作品です。本公演『詩と音楽の光景「エレクトラ」』では、三者の作品を原作として物語が編まれています。

トロイア戦争ののち、母クリュタイムネストラとその愛人に父アガメムノンを殺害されたエレクトラ。復讐に燃える彼女は、弟オレステスと協力し、母の殺害を画策します。

主役のエレクトラを演じるのは、元宝塚歌劇団花組のトップスターで、退団後にはミュージカル『レベッカ』や音楽劇『精霊の守り人』など数々の舞台で活躍する明日海りおさん。エレクトラは全編通して、憎しみや復讐心などの強烈な感情をほとばしらせる人物であり、明日海さんがこの激しいヒロインをどう演じるのかが大きな注目ポイントの一つです。

対するエレクトラの母・クリュタイムネストラを演じるのは、キムラ緑子さん。1997年に第32回紀伊國屋演劇賞の個人賞を、2005年に第12回読売演劇大賞の優秀女優賞を受賞するなど、その圧倒的な演技力は、演劇界で唯一無二の魅力を放つ存在です。

エレクトラの立場で見ると、クリュタイムネストラは父を殺した悪役です。しかし、クリュタイムネストラもまた、痛みと怒りを抱えた人物であることがわかります。どちらの正義が正しいのか、母と娘が舞台の上でぶつかり合う姿は、観客の心を強く打つことでしょう。

エレクトラの弟オレステスを演じるのは、中尾明慶さんです。中尾さんといえば親しみやすく明るい雰囲気の印象を持つ方も多いと思いますが、本作品では母殺しという罪に心を引き裂かれる繊細な役を演じることが決まっています。そんなオレステスに寄り添う従兄弟・ピュラデス役には、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』のアルバス・ポッター役で知られる渡邉蒼さんが抜擢されています。

さらに、クリュタイムネストラの愛人で、彼女と共に夫・アガメムノンを暗殺したアイギストス役には徳重聡さん。幻視によって破滅の未来を予言するトロイアの王女・カッサンドラ役に豊原江理佳さんと、多くの舞台で活躍する実力派が揃っています。

そして、ギリシャ悲劇になくてはならない民の声・コロス役と、戦争の影を背負い舞台に説得力を持たせる酔っ払い役を演じるのは、山西惇さんです。そのほかに俵和也さん、上條駿さん、栗山絵美さん、町屋美咲さん、湊陽奈さん、元榮菜摘さん、安福毅さん、ユーリック武蔵さんが盤石な舞台を作り上げます。

なぜ、詩と音楽で『エレクトラ』を描くのか

本公演では、ギリシャ悲劇『エレクトラ』を原典にして、言葉と音楽によってさらなる人間ドラマが展開されます。公式ホームページには「濃密な人間ドラマと、音楽、叙事詩的な言葉が激しく交錯する、“詩と音楽の光景”」と紹介されており、著者はこのフレーズが『エレクトラ』という作品に相応しいと考えました。

なぜならギリシャ悲劇には、仮面をつけた俳優と、合唱団の役割を果たすコロスが存在するからです。コロスは「コーラス」の語源ともなった言葉であり、登場人物の心情を代弁したり、場面の説明をしたりする役割を担っていました。

コロスがいることで、観客は物語の背景をより理解しやすくなり、観劇の際の感情を盛り上げられます。ギリシャ悲劇には必要不可欠な存在だと言えるでしょう。

また、20世紀の初頭には、ソフォクレスの『エレクトラ』を原作に、ホフマンスタール(1874-1929)の戯曲とリヒャルト・シュトラウス(1864-1949)の音楽によるオペラが作曲されています。このオペラは、2026年6月29日(月)から7月12日(日)まで新国立劇場で上演されました。上演時間を1時間45分に凝縮し、ドラマチックな音楽が『エレクトラ』の持つ激しい感情の数々を最大限に演出しました。

このように、『エレクトラ』は音楽と詩が密接にかかわる作品です。本公演では、ブランドン・リーさんの音楽がこの濃密な物語を彩ります。

紀元前の昔から演じられ続けてきた『エレクトラ』。

遠く離れた現代でこの作品をふたたび上演することについて、演出の栗山民也さんは公式コメントのなかで触れています。

“新しい作品を創る時、まず今の時代を鏡に映してみることから始める。だが、いつもそこに映しだされるのは「戦争」と「家族」という永遠の主題だ。時代が不幸になると決まってピカソの画集を開いてしまうように、紀元前のギリシャに立ち戻ることになる。ギリシャの言葉と運命は人から人へと、永遠に繋がれている。
というわけで、今回は「エレクトラ」と出会う。現在という目線でその遠い世界の出来事を見つめた時、そこに何が見えてくるのか、何が聴こえてくるのか、何が触れてくるのか。新しい劇場のための、新しい世界を映し出す作品を創ろうと思う。”

これまで、『アンチゴーヌ』のほか、ジャン・ジロドゥによるフランス近代演劇の金字塔『トロイ戦争は起こらない』、ユージン・オニールの書いた『喪服の似合うエレクトラ』など、ギリシャ悲劇やそれにインスパイアされた近代演劇を手がけてきた栗山さん。本作品で激しくぶつかり合う人々の憎悪や痛みを、観客である私たちに映し出してくれることでしょう。

『詩と音楽の光景「エレクトラ」』は、2026年12月13日(日)から12月30日(水)まで、東京建物ぴあシアターにて上演されます。公式HPはこちら

糸崎 舞

2026年の最後に相応しい、骨太な作品だと感じました。 怒りと憎しみ、そして痛みがぶつかり合い、ほとばしる感情を思う存分浴びたい。 そう思える注目の公演です!