有吉京子さんによるバレエ漫画を原作に、俳優のリーディングとバレエダンサーのバレエによって表現する新感覚の舞台『SWAN―Ballet cross Reading―』。本作でリーディングキャストとして新鋭のバレエダンサー草壁飛翔を演じる東啓介さん、柳沢葵を演じる西野遼さんにお話を伺いました。

前へ、前へと走っていく物語

−今お話を伺っているのがお稽古期間の最中ということで、作品への印象はいかがでしょうか。
東「最初はバレエと朗読のコラボレーションってどうなるんだろうと思っていたのですが、稽古に入って形になっていくのを観ていると、バレエダンサーの皆さんが本当に素晴らしいので、僕ら俳優ももっと頑張らなきゃなと思います。バレエと朗読が上手くハマった時、ものすごく良い、新しい形の舞台になるんじゃないかと思っています」

西野「1幕を通すところまで来て、演出家の小林香さんとみんなで1から創り上げてきたものが繋がっていくと、こんなにも迫力のあるものになるんだと思いました。チームビルディングというか、1つの作品を創り上げていくのをみんなで楽しんでいる感じがあります。バレエと朗読が交差していって、僕らが朗読しているそばでダンサーの皆さんが踊るシーンもあるので、耳だけでなく、五感を使って楽しんでいただけると思います」

−『SWAN』の物語に対しての印象はいかがですか?
東「すごく青春だなと思いました。挫折する人もいれば、どんどん成長する人も、旅立って頑張る人も、見守る人もいて。みんなが前へ前へと走っていく物語だと感じました」

西野「僕は原作を読んでいても、本作の脚本を読んでいても、俳優として共感できる部分が多かったです。『SWAN』ではバレエの職人技のような技術と表現力を両立させる難しさについても描かれていて、バレエならではの苦しみについて知ることができました。稽古場でダンサーの皆さんの姿を見ていても、そういうことが伝わってきます」

−それぞれが演じる役柄のキャラクター像についてお聞かせください。
東「僕が演じる飛翔は漫画とは少し違う部分もあるのですが、紳士であるということは共通しています。優しさや包容力、リーダーシップのある人物ですね。ずっとコンクールで1位を獲り続けている人なので、余裕感を出していければなと思っています」

西野「葵は場を明るくするキャラクターなので、そこをもっと稽古で出していきたいなと思っています。バレエに対する熱い気持ちも持っているのですが、みんな共通して熱い想いを持っている中、どこまで人にその想いを見せるかでキャラクターが出るのだと思います。葵は感情をバッと出す時もあれば、無理して明るく振る舞う時もあります。僕の性格としては25歳になって少し落ち着いてきた部分もあるので、稽古場に来る前に気持ちを上げて挑むようにしています」

バレエダンサーとのコラボレーションで湧き上がった感情

−バレエダンサーの方々と同じ役柄を共有するという点についてはどう感じられていますか。
東「飛翔を演じられる秋元康臣さん、宮内浩之さん、渡邊峻郁さん(トリプルキャスト)とは立ち姿も背丈も違いますし、どのように同じ役として見せていくのかは、香さんとお話ししながら模索しているところです。バレエダンサーとしての見せ方、俳優としての見せ方がそれぞれあると思うので、1つになりすぎなくても良いのかなと思っています」

西野「稽古で葵を演じられる関野海斗さん、中島瑞生さん(ダブルキャスト)がソロを踊るシーンを観ていて、素晴らしい踊りなので、“ここまでやって負けるのか”と葵としての悔しい気持ちや、自分に対しての怒り、情けなさが湧き出てきました。すごく葵として重要なものを頂いたなと思っています。皆さんの踊りを見ていると、日頃からの積み重ねというのを凄く感じるので、そりゃ負けたら悔しいはずだなと実感するんです。京極小夜子の踊りを見ていて“小夜子姫、すごいな”と言うシーンも、本当に心から言えますね。心から溢れ出る“すごい”が言えていると思います」

−稽古中にバレエを近くで観ていていかがですか?
東「初めてこんな間近で観たので、いつも感動しています。バレエ好きな方々から怒られそうなくらい近いですから(笑)。風を感じるんですよ」

西野「本当に凄いですよね。触れるシーンでは凄く汗をかいていらっしゃるので、“うわぁ、ものすごく踊ってくださっている、お疲れ様です…!”と労りたくなります」

−バレエダンサーのプロフェッショナルな姿を見て、俳優として刺激を受けることはありますか。
東「朝早く稽古場に来ると、皆さんがバーレッスンをされているんです。その時に“今日は誰々さんのバーレッスンのやり方でやって良い?”と声を掛け合っていて、同じプロとしてのリスペクトを持ちながらそれぞれのやり方を取り入れていらっしゃるのが素晴らしいなと感じました。既に素晴らしい方々なのに、それでも貪欲に、一緒に高め合ってウォーミングアップされているのを見て、かっこいいなと思っています」

西野「やはりこの作品に出演されている皆さんはトップのバレエダンサーの皆さんなので、オーラが凄いです。迫力や存在感を感じていて、それはこれまで積み重ねてきたものがあるからこそだと思います。バレエは3歳とかから習い始めるのが当たり前の世界です。僕は18歳で芝居を始めたので、普通にやっていたら追いつけない。人一倍作品に向き合おうと決めて、今頑張っています」

−東さんはミュージカルではダンスを踊られますが、バレエでの表現との違いをどのように感じられますか。
東「バレエは台詞のない世界なので、踊りの中で所作だったり、会話だったり、その人そのものを表現すると思うんです。ミュージカルでのダンスは作品として華やかさや振りを揃えて踊る場面が多いので、凄く違いを感じて面白いです。今回一緒に飛翔を演じる3人にはバレエの技を教えてくださいとお願いしているので、何か表現を盗んでミュージカルにも活かしたいです」

−西野さんはお姉さんがバレエをやっていらっしゃったそうですね。
西野「はい、幼少期に発表会を観に行ったこともあって、普段は仲良くしている姉が舞台の上で輝く姿を見てかっこいいなと思いましたし、そういう姿から刺激を受けたと思います。今回『SWAN』出演にあたって、稽古に入る前に姉にバーレッスンをしてもらったのですが、手先に対する意識や、立ち方、姿勢など本当に全身の筋肉を使うんだなと実感しました」

良きライバルであり“勝たなければいけない存在”

−飛翔と葵は親友でありライバルという間柄ですね。役として、お互いがどんな存在だと感じられていますか。
東「僕としては葵の存在に助けられることが多いです。真澄、小夜子と4人でいる時に凄く和ませてくれますし、葵がいることで歯車が回っていくような感覚があります。飛翔は2人きりの時に手を差し伸べるタイプなので、集団でいる時に葵が来ると“ありがとう”という気持ちになります」

西野「飛翔と葵はとても良いライバルで、実際に“俺たち良いライバルだよな”と言い合う場面もあるんですけれど、僕にとっては啓介さんが大きな存在すぎて、ちゃんとライバルになれているのかな?と思いながらやっています。葵にとっての飛翔はライバルでありながらも、ずっと負け続けていて“勝たなければいけない存在”でもあるので、そういうところは僕よりも先輩でキャリアもある啓介さんとのリアルな関係性がリンクして活かせているのかなと思います。稽古が始まって2週間くらい経って、少しずつ啓介さんとお話しできているのが嬉しいですし、どんどん役としても染み込んできている感覚があって、楽しいです」

−俳優としてのお互いの印象はいかがでしょう。
東「めちゃくちゃ真面目で凄いです、リスペクトしています」

西野「いやいや、僕は皆さんの背中を見て、もっとやらなきゃいけないと思って頑張っているだけなんですよ」

東「それを出せることが凄いと思うんです。やっぱりどこか上手くやろうとしてしまうものだと思うし、僕が10代や20代前半の頃はそうしていたと思うんです。だから、分からないことはちゃんと分からないと言えたり、先輩に“ここはどうですかね”と相談に行けたりする姿は素晴らしいと思います」

西野「いやぁ、本当に嬉しいです…!僕は皆さんに比べてまだキャリアが短いですし、吸収力だけは自信があるので、聞けるものは全部聞いて、吸収して、その中から自分らしいものを選んで出すことに責任を持ちたいと思っています。このやり方はきっと今後も変わらないんじゃないかなと思います。常に大切にしてきたことだったので、それを見てくださっていたのがとても嬉しいです。
啓介さんは背中で語るタイプで、なかなかそういうお言葉を聞く機会がなかったので、今噛み締めています!(笑)こういう場で言ってくださるのが、本当に優しい方なんだなと伝わってきます」

「愛情」「人生をかける熱量」を大切に

−演出の小林香さんの印象はいかがですか。
東「凄く的確にお話ししてくださる方です。まず俳優に“今どういう思いでやっているの?”と聞いた上で“じゃあこれはどうかな?”と言ってくださるので、俳優として吸収しやすいですし、どうしようかなと迷ったときにすぐに相談できて、いい環境で稽古させていただいています」

西野「多くは語らない方なんですが、ヒントとなる言葉を置いていってくれるんです。それを自分で消化して考えて、自分なりの答えを提示すると、“良いね”と言ってくださる。とても聡明な方なんだろうなというのを感じます。的確に場面を把握して、1つ核となることをくださる印象です」

東「バレエとリーディングという新しい形に色々と悩まれていると思うのですが、僕らのことも頼ってくださるのが嬉しいです。一緒に作品を創っていっている感覚があります」

西野「原作へのリスペクトも凄くお持ちです。原作『SWAN』の世界観をどう表現するかというのもこだわっていると思います」

−本作では、バレエにはそんなに親しみのない方もいれば、普段演劇はあまり観ないバレエファンの方もいらっしゃると思います。どのように作品を楽しんでもらいたいですか。
東「バレエを観たことがない方には、バレエを観に行ってみたいと思って頂きたいですし、バレエファンの方は、キャストが出ているドラマや舞台を観てみたいなと思って頂きたい。この垣根を超えた瞬間が最高だなと思います」

西野「それが目標ですよね。バレエって台詞がない表現なので、バレエと台詞のあるリーディングが交わるって凄く異色だと思うのですが、それが気持ちよく混ざって1つになっているのを劇場で体感して頂きたいです。僕は新国立劇場の舞台に立てるのも凄く楽しみです。劇場で、肌で感じていただけることがたくさんあると思います」

撮影:晴知花

−最後に、作品の中で大切にされたいことを教えてください。
東「飛翔としては愛情を大事にしたいです。それがどういうことなのかは…劇場で観てください!」

西野「僕は、1つの物事にかける熱量、人生をかけることの大切さを大事にしたいです。人生をかけてやるからこそ辿り着ける領域や、見られる景色があると思いますし、観にくる皆さんにも何か1つは、好きなもの、あるいは諦めかけたものがあると思います。そういうものに対して、背中を押せる作品になったら良いなと思います」

舞台『SWAN―Ballet cross Reading―』は2026年9月4日(金)から9月9日(水)まで新国立劇場 中劇場にて上演されます。公式HPはこちら

Yurika

東さんからの温かいリスペクトの言葉を、何度も嬉しそうに噛み締める西野さんが印象的でした。俳優の皆さんの言葉にかける想いと、バレエダンサーのバレエにかける想いがかけ合わさった時、どんな化学反応が生まれるのでしょうか。1つのことに直向きに向き合う方々の熱量が溢れ出た、とても尊い舞台空間になりそうです。