10月6日(火)にPARCO劇場で開幕する舞台『スリーゴースト』。脚本をサイモン・スティーヴンスさんが書き下ろし、盟友ショーン・ホームズさんが演出を手がけます。堺雅人さんが17年ぶりに舞台作品に出演することでも話題の本作。堺さん演じるジョーの妻ハナを演じる倉科カナさんに、作品と役柄についての印象と、舞台に対しての深い思いを伺いました。
社会的であり、SFであり、人間ドラマ

−インタビュー時点ではまだ稽古に入られる前の段階ですが、サイモン・スティーヴンスさんが手がけた戯曲を読んでみてどんな印象を持たれましたか。
「身近なようで幻想的で、掴みどころのない戯曲という印象です。自分が演じる役柄の難易度も高いなぁと感じています。
『スリーゴースト』というタイトルの通り、3人のゴーストがいて、亡くなった人について、その実態がなくなっても思い出と共に生きていくことが描かれています。それを抱えるのが、私が演じるハナでもあり、堺雅人さんが演じるジョーでもあります。詩的な世界観でもあるので、どう体現するんだろうと思っています。
ただショーン・ホームズさんの演出も楽しみですし、ステージングに小野寺修二さんが入ってくださっていて、個人的に小野寺さんのワークショップに行かせて頂いたりしたこともあります。小野寺さんが入ることで、難しい題材を具現化してくれるんじゃないかと思っています」
−演出のショーン・ホームズさんが今まで手がけた作品の印象についてはいかがでしょうか。
「段田安則さんがウィリーを演じられた『セールスマンの死』を拝見し、洗練された印象を受けました。私はこれまで三島由紀夫さんなど日本の戯曲で、日本の演出家の作品に出演する機会が多く、海外の演出家の演出を受けるのは初めてです。自分が観客として観ていた憧れの方々とご一緒できるのが光栄ですし、自分のどんなところが引き出されるのか楽しみにしています。自分がどう転ぶかは分からないけれど、痛い目を見たとしても、それを糧にしたいという気持ちでいます」
−主演・堺雅人さんの印象についてお聞かせください。
「先輩ですけれども、とってもキュートな方ですよね。CMなどを拝見していると、人を惹きつける魅力のある方だなぁと感じます。でもドラマや作品において役柄を抱えている時は、いつもプロフェッショナルで、共演者の方々は“堺さんはNGを全く出さない”と口を揃えておっしゃるので、本当にすごいなと。インタビュー記事を拝読させていただいたところ、“遊ぶために台詞を完璧に入れていく”とお話しされていて、そういう先輩の姿を見て、私も吸収していきたいと感じています。ご一緒できるのが本当に光栄です」
−その他にも伊勢佳世さん、迫田孝也さん、saraさん、小日向星一さん、高畑淳子さん、段田安則さんと豪華キャストが集結しています。
「良い意味で“芝居モンスター”揃いですよね。ご一緒できるのが光栄な方々ばかりなので、私は稽古中も吸収しようという貪欲さに満ち溢れると思います。それくらい皆さんの芝居力が素晴らしすぎますし、共演させていただいたことのある方々もいますけれども、人間力も素晴らしい、安心してぶつかることのできる方々ばかりなので、稽古が楽しみです。この舞台を終えた後の自分がどうなっているか気になりますね」
−まだまだ謎に包まれた作品ですが、どんな要素が盛り込まれた作品になりそうですか?
「様々なジャンルが混ざり合っているのがこの作品の面白いところです。ミカが主に担っているのは社会的な部分、今世界で起こっていることを描いた部分ですが、自分が見た夢を再現する装置「リープマインド」が登場する、SF的な要素もあります。堺雅人さん演じるジョーと、私が演じる妻のハナ、姉のミカ(伊勢佳世さん)との3人の人間関係にも注目していただきたいです。過去・現在・未来を含めて流れるように物語が展開していき、濃密な会話劇もお楽しみいただけると思います。堺さんは、長台詞が多いです!(笑)大満足できる時間をお届けできると思います」
ハナの“静かなる爆発”とたくましさを描きたい

−ハナという役柄についてはいかがですか。
「サイモン・スティーヴンスさん、ショーン・ホームズさんと初めてお会いした時にもお伝えしたのですが、ミカが動だとしたらハナは静という印象があります。ミカは感覚が鋭くて、戦争のことや、みんなが見えていないものがたくさん見えていて、敏感で、繊細で、尚且つおかしいと感じたこと・相手に対して動いていくタイプ。一方でハナはミカからも“あなたはちゃんと生きているよね”と言われるような模範的な存在です。
ただそれはミカから見たハナであって、彼女自身の中には父のことや義理の母のこと、亡くなったジョーの姉・ニコのことなど、抱え込んでいるものがたくさんあります。それらを発散せず、理性的に関係を保とうとするけれども良しとしているわけではなくて。物語が進んで衝撃的なことが判明したり起こったりしていくにつれて、どんどん感情がパンパンになった末に、爆発してしまうんです。
その爆発の仕方も“静かなる爆発”で、表現の仕方が難しい。やはり自分1人で作るのではなく、相手のエネルギーをもらった方が良いと思うので、百戦錬磨の方々のエネルギーを受け取って、静かなる爆発をしながらも、それでも生きていこうとする静かな歩み、たくましさを出せたら良いなと思っています」
−役作りにおいて、どんなことをヒントに役に近づいて行かれますか。
「最初にあるのは大体脚本だけなので、脚本の言葉から役柄の端々を受け取るようなイメージですね。次に監督・演出家さんに聞くところから始まることが多いです。あとはやっぱり直感。脚本を読んだ時の第一印象というのは比較的大切にしています。作り込みすぎると、直感とはどんどん違う方向に向かっていって、後から“直感の方が正しかったな”と思う時もあるので。自分自身として役に共感できるところは伸ばしていって、自分とは違うなと思うところはレバーを下げていくような感じです」
−ハナについてご自身と似ていると感じるところはありましたか。
「今年PARCO劇場で出演させていただいた『プレゼント・ラフター』でも、ハチャメチャな登場人物たちの中、クレバーで筋の通った女性の役をやらせていただいて、比較的そういった役をいただくことが多いなと感じます。私自身は真面目であるところが自分の良いところであり、悪いところでもあるなと思います。真面目で、周りとのバランスを取ろうとして、でも内に抱えているマグマのようなものもあって…そういうところはハナと似ているなと思いますね。でも役者としてはミカのような役にも憧れます。爆発的で、ハチャメチャなキャラクターなので、そういうアプローチもやってみたかったな、とか。でもやっぱり自分自身がハナという役を引き寄せているのかもしれないですね」
PARCO劇場は、舞台を好きになった転機の場所

−PARCO劇場のステージに立つことへの思いをお聞かせください。
「私が舞台を好きになったきっかけがPARCO劇場で出演した『タンゴ・冬の終わりに』(2015年)でした。それまでは舞台に立つのが怖かったんです。熊本から出てきたばかりで、稽古場でどうコミュニケーションを取れば良いのか分からず、嫌われたくない、怖いという気持ちになってしまっていました。でも一度逃げてしまったら、舞台に立つのは難しい。だから年に1回はやって慣れていこうと思っていたのですが、『タンゴ・冬の終わりに』で共演者の皆様に凄く気にかけていただき、みんなで一緒に役柄を創っていく、作品を創っていく感覚を感じることができました。自分は役柄を背負ってコミュニケーションを取っていて、作品を良くしていくためにぶつかることもあるけれど、それは喧嘩ではないし、一方的に怒られているわけでもない。お互いにリスペクトを持って向き合うことができれば、激しいセッションでも大丈夫だと思えるようになりました。PARCO劇場は私の転機となった場所なので、凄く思い入れがあります」
−倉科さんが感じる演劇の魅力は何でしょうか。
「私は舞台が本当に好きで、その理由の1つは稽古期間があるということです。“これってどういう意味なんだろう”ということがクエスチョンのまま進んでいかず、稽古場でコミュニケーションを取ったり、色々なチャレンジをしたりすることができます。戯曲、その役柄に合った適切なアプローチをしっかりと模索した上で、皆様に観ていただけるのが好きです。
また、音楽や照明も含めて全部一緒に稽古ができるというのも舞台ならではの特徴です。ここでこういう音楽が流れます、こういう照明が当たりますということを理解した上で演じられるので、“だったらこっちに動いたほうが良いかも”とチーム全体で一丸となってベストを探っていけるんですよね。映像だと撮った後にどう編集されるか、どこで音楽がかかるか見えない部分も多いので、舞台はとても透明性が高いなと感じます。
そして、AIで簡単に色々なことができてしまう今の時代だからこそ、生で、役者とクリエイティブチームが創り上げる世界を体感できるのは、とても価値があると思います。だから年に1回は舞台をやるって決めているんです。年々、舞台の価値というのは高まっているように感じています」

PARCO PRODUCE 2026『スリーゴースト』は2026年10月6日(火)から10月27日(火)までPARCO劇場にて上演。(10月6日はプレビュー公演)11月6日(金)から11月8日(日)まで【岡山】岡山芸術創造劇場ハレノワ 中劇場、11月12日(木)から11月23日(月祝)まで【大阪】SkyシアターMBS、11月27日(金)から11月29日(日)まで【愛知】穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール、12月3日(木)から12月6日(日)まで【宮崎】メディキット県民文化センター(宮崎県立芸術劇場)・演劇ホール、12月10日(木)から12月13日(日)まで【福岡】J:COM北九州芸術劇場 大ホールにて上演されます。公式HPはこちら

倉科さんのチャーミングさや真面目さ、まっすぐさがハナという役に息づくことで、ジョーにも様々な影響を与えることになりそうです。倉科さんはとても朗らかに、そしてフラットに取材に応じてくださっている姿が印象的でした。




















