4月29日(土)より、劇団四季のファミリーミュージカル『ジョン万次郎の夢』の全国公演がスタート!今回は、全国公演に先駆けて3月に上演された東京公演の観劇リポートをお届けします。日米の架け橋になるという大きな夢を志すジョン万次郎の物語には、私達が日常的に実践できる小さな学びが沢山詰まっていました。(2023年3月・ 自由劇場)※『ジョン万次郎の夢』の作品と全国公演の詳細についてはこちら
温かさと冷たさを味わって、開国の必要性に気づく
鎖国によって外国人との交流が禁じられていた江戸時代の日本。土佐の少年万次郎は、漁で遭難しアメリカ人のホイットフィールド船長に助けられたのを機に、アメリカに渡る初めての日本人となります。
当時の日本とアメリカは、互いの暮らしや思想がわからず理解し合えない関係でした。しかし万次郎はホイットフィールド夫妻と家族同然の関係を育み、ジョン・ マンと呼ばれてアメリカ人と交流を深めていきます。
万次郎が辿り着くアメリカの港・フェアヘブンのシーンでは、漁師とその帰りを待ちわびていた女達が再会を喜んで歌い踊ります。軽やかなダンスはまるでアメリカの自由な風土が表現されているようで、万次郎が彼らに惹きつけられる理由がわかる気がしました。
ところがアメリカ人の誰しもが万次郎を歓迎してくれるわけではなく、万次郎が教会へ礼拝するのを快く思わない人がいたり、外国に対して冷たい態度をとる日本を理解できない人もいたりします。
ファミリーミュージカルだからといって明るい展開だけを描いているわけではなく、心が痛む描写も丁寧に描かれていたのが印象的でした。
アメリカの人々との温かな触れ合い、そして時に冷たい視線を経験し、万次郎は日本人が国を開くだけではなく心を開く必要があるのだと考えるようになります。
繋いだ手の温かさを信じたい
初めてホイットフィールド船長率いるアメリカ人に遭遇したとき、土佐の漁師達は恐れおののきました。それもそのはず、目の前のアメリカ人は身体が大きく怖そうな見た目をしていますし、そもそも当時は外国人と交流すること自体がタブーだったのです。
けれど万次郎はホイットフィールド船長の手を握ったときに、言葉は通じなくても手の温かさから「この人達は怖くない」と悟ります。「繋いだ手の温かさを信じたい」と歌う万次郎の瞳があまりにもまっすぐで美しく、気づけば涙が溢れていました。
本作は当初2020年に公演するはずが新型コロナウイルスの感染拡大により中止となり、今回は満を持しての公演です。その間に世の中は変わり、人付き合いの形がリモートやSNSに頼りがちで間接的になったと感じていたのですが、万次郎の言葉から相手と直接触れ合ったときに心が繋がることもあるのだと思い出させてもらいました。
相手を知ろうとする心が道を開く
出演する俳優達は日本人ですが、ホイットフィールド船長をはじめとするアメリカ人役の俳優は英語の台詞を喋ります。船長と初めて会ったとき、聞き慣れない英語に困惑する万次郎たち。それでも、万次郎は船長達の言葉を彼らの心を感じて聞き取ろうと必死になります。
「Nice to meet you」を「幕府にはくれぐれも“内密”にしてください」とお願いする万次郎のコミカルな初英会話に、客席からは温かい笑い声が上がっていました。
失敗や恐怖を恐れずに相手を理解しようとする万次郎の姿には、感化されるものがあります。英会話と考えるとスケールがやや大きいですが、職場や学校で人と話すとき、彼のように偏見にとらわれずその人自身を知ろうとすれば、相手の良さを見つけられそうです。
この日に万次郎を演じていた島村幸大さんは、人懐っこい笑顔がチャーミング。太陽のような明るい笑顔と海のような芯の強さを持った劇中の万次郎の人物像がピッタリとハマっていて、物語に説得力がありました。
ジョン万次郎の半生を通して、夢を諦めない大切さと人と人の心の触れ合いの温かさを描く劇団四季のファミリーミュージカル『ジョン万次郎の夢』。万次郎の夢は日本とアメリカを繋ぐ壮大なものですが、その奮闘ぶりは身近に感じられる部分が多く、現代の私達が見習いたいと思える部分が沢山あります。就職や新学期で新しい場所、新しい仲間と共に頑張っている人が多い今、背中を押してもらいたくなったらぜひ観劇してほしい作品です。