関西演劇祭のフェスティバルディレクターを務める板尾創路さんが、演劇に携わる様々な方との対談企画が実現!今回の対談相手は、芸人としても、脚本・演出家・俳優としても活躍する「かもめんたる」の岩崎う大さん。演劇とお笑いの違いについて、芸人の視点から見た演劇について、“賞”について。お二人にたっぷりと語っていただきました。(板尾創路さん単独インタビュー【生の演劇は、人間のエンターテイメントの「基本」。板尾創路が関西演劇祭にかける思いとは?】はこちら)
演劇とコントの大きな違いは「時間」
−板尾さんは、かもめんたるに対してどんなイメージをお持ちですか?
板尾「最初の印象はやはりキングオブコント2013ですね。コントでもしっかりとしたドラマを作っていて、レベルの高さが圧巻でした。演劇に近いイメージを持っていたので、劇団をやっていると聞いて、“あぁそうよなぁ”と。今回対談にあたって『君とならどんな夕暮れも怖くない』の映像を見させてもらったんですが、凄く引き込まれた。僕は舞台を映像で見るのってなかなか集中できないんですけど、最初のシーンでもう惹きつけられましたね」
岩崎「嬉しいです。『君とならどんな夕暮れも怖くない』は、コロナの影響で劇場が数ヶ月閉まっていて、再開直後の作品でした。(2020年7月上演)疫病が流行って人とのコミュニケーションが減っていく中で、進化したアンドロイドが市民権を獲得し始めていくという、ちょっとコロナとリンクするような設定になっています」
板尾「マンションの部屋の中での会話が描かれているのも、コロナ禍の家にいた感じと重なるよね。お客さんが声出したらあかんって遠慮している雰囲気も、あの時ならではの感じが伝わってきた」
岩崎「前列の人はフェイスシールドをしながら観劇していて、そういった景色もあの時にしか出来ない体験ではありましたね。でも僕らの劇団は1人で観にくるお客さんが多いので、普段からあまり大きな声で笑ってくれないです(笑)」
板尾「そうなんや(笑)」
−お笑いと演劇に携わるお二人から見て、お笑いと演劇の違いはどういったところにあると思われますか?
板尾「僕が思うのは、時間ですね。演劇は1時間を超える尺があるけれど、コントは15分から30分弱。短い時間の中でいかに笑いを取るかという意識が芸人にはあるから、コントで“泣き”を入れにくいというのは違いかな。笑かして泣かすということも出来なくはないと思うけど、しんみりさせた後にもう一度笑いを立ち上げるのが大変だし、そこにチャレンジする人はあまりいないので。そこは大きな違いかなと思いますね」
岩崎「コントでもし泣きを入れるにしても、最終的に笑いのための振りじゃないといけないという意識はありますよね。演劇は時間が長い分、キャラクターに感情移入してもらいやすいのもあるかなと。1時間半お客さんが一緒に付き合ってもらえたら、最後の最後に“こいつこんなことするの?”とか、ちゃんとフリを効かせることができる。それは凄いことだと思います」
舞台でも笑いをとりたいのは、芸人の性?!
−実は岩崎さんは演劇が元々好きじゃなかったそうですが…
岩崎「あまり良い印象はなかったですね(笑)。大学生の頃に、大学生がやっている演劇を観たことがあったのですが、真面目なものという印象が強くて。なのに変に笑いを入れてくるのも嫌でした(笑)」
板尾「物語に必要ない細かい笑いを入れてくる、みたいなことはあるよね。劇団の身内ノリ的に小ネタを入れちゃって、急にボケとツッコミが始まっちゃったり。その俳優さんのファンは良いんだけど、初めて観る人からするとそんなん良いからドラマ進めてくれよと」
岩崎「そうですよね。そのキャラクターどこから出てきたの?みたいな」
板尾「積み重ねにはなってないもんね。それはすごく分かる。小ネタではなくて、ストーリーとか演技力で笑わせてほしいよね」
−なるほど。お笑いのプロであるお二人の視点という感じがします。
岩崎「そうかもしれないですね。舞台をやっていても、お客さんからの反応が欲しいというのも芸人ならではかもしれません。コントとかお笑いではいかにお客さんの笑い声を起こさせるかというところにゴールがある。演劇でもなるべく笑いや楽しんでいる反応を引き出せるようにしたいなと思いますね。特に僕たちの劇団はコメディなので、あまり長い時間笑わせていないと、お客さんの満足度が低くなってしまう気がするので。でも小ネタみたいにならないように、キャラクターの情報に繋がるやり取りだとか、キャラクターのやり取りから生まれる笑いになるように気をつけています」
−板尾さんは舞台でお客さんの反応が気になることはありますか?
板尾「演劇の舞台で笑いを取ろうという意識はないですけどね(笑)。それを求められて出ているわけでもないし。脚本の中で演出家から指示があれば、稽古で考えて色々やってみることはありますけど」
岩崎「最初からそういう感覚でした?」
板尾「最初の頃は多少あったかな。芸人の自分が出ているということは笑いを求められているのかなとか、やるならめっちゃウケたいなとか」
岩崎「そうなりますよね。僕が役者として出る時は、もちろん無駄な笑いはやらないようにするけど、出来たら笑いを起こしたいと思います」
板尾「シリアスなシーンでも笑いが欲しくなることはあるよね。だから、シリアスなシーンはちゃんとやるんだけど、ハケ際に自分で何か考えて笑わすっていうのは何回か(笑)」
岩崎「めちゃくちゃ笑い取りに行っているじゃないですか(笑)」
板尾「演劇って何度もやっているとね、新鮮味がなくなってウケたいシーンでウケなくなることもあるんですよ。だから毎回変えると、みんな“おお!”って反応してくれるから(笑)」
岩崎「ハケ際に毎回なんかやるって相当な芸人魂ですよ(笑)」
板尾「そうなんですよね。そういう時期もあったなぁ」
岩崎「今はもう落ち着いているって感じですか?」
板尾「そう、別に何もなくてもストーリーの中でちゃんと役立っていればいいと思っているから、ウケなくても大丈夫。もちろん笑いが必要な時、こうした方がウケるかなとか思う部分は色々やってみますけどね」
劇団かもめんたるに板尾創路が出演するとしたら
−もし劇団かもめんたるの作品に板尾さんが出演されるとしたら、どういった役をオファーされますか?
岩崎「恐れ多いですね」
板尾「そんなことないよ」
岩崎「いや、稽古期間、毎朝緊張でガバって起きちゃいそうです(笑)。もし板尾さんに出ていただけるなら、物語の冒頭で死んでしまって、あの人が本当に思っていたことは何だったのかを探っていくストーリーとかが良いですね。周囲の色々な人がイメージする様々な板尾さんが登場して、証言していくんだけど、最終的に板尾さんは何も考えていなかった、みたいな(笑)」
−板尾さんのどんなイメージから連想されたのでしょうか?
岩崎「ミステリアスなところと、でも実は何にも考えていなかったって言えてしまいそうなところと、とはいえ何かは考えていたでしょって思いたくなるようなところですね。1つの話の中で色々な板尾さんを見せられるから、すごくいいんじゃないかなって」
板尾「もしタイミングがあったら、ぜひ」
−『君とならどんな夕暮れも怖くない』ではコロナ禍が重なる部分がありましたが、時代の動きを物語に取り入れられることは多いですか?
岩崎「意識的に取り入れようとはしていないんですが、物語の展開を考える時、社会にある“理不尽なこと”が何かはよく考えますね。それはコントも同じで、僕はネタ帳によく、日常で理不尽に思うこと、理不尽なのに社会で自然に起こっていることを書き留めるようにしています」
−理不尽なことというのは、例えばどんなことでしょうか?
岩崎「『君とならどんな夕暮れも怖くない』では、差別の話ですね。ちょうどBlack Lives Matterが取り上げられている時期だったので、それがヒントになっていました。『奇事故』では被害者の理不尽さ。なぜその人にそんなことが降り掛からなくてはいけなかったんだろう、という理不尽さがテーマの1つになっています。理不尽なことって社会に自然とあって、そういうことがテーマになることは多いです」
賞を獲ることで、自分のやってきたことは間違いなかったと感じて欲しい
−関西演劇祭にもし劇団かもめんたるが出場するとしたら。どんなアプローチをされますか?
岩崎「そうですね。上質なコメディを見せたいですね(笑)。演劇って本当は、人間のやり取りを見るだけで面白いものだと思うんです。無理にボケなくても、必要な情報だけで面白く展開していくことができる。僕は観客としても“人間が見たい”という想いがあって、人間のやり取りがちゃんと舞台上で行われていると釘付けになっていくんですよね。それにはちゃんとした台本と、ちゃんとした演技が必要。そういうものをちゃんと見せられると良いなと思います」
−関西演劇祭ではMVO(Most Valuable Opus)や脚本賞、俳優賞なども用意されています。かもめんたるもキングオブコントでの優勝経験がありますが、賞についてはどう捉えていらっしゃいますか?
岩崎「賞は名刺代わりになるというか。お笑いや演劇の“表現”って物差しで測れるものではないから、努力して良いものをいっぱい作っても結局見に来てもらわないと分からないものなので、賞で選ばれることで凄く救われることはあります。賞を獲っていると“きっと面白いんだろうな”とポジティブに見てもらえるとも思うし」
板尾「演劇はあまり賞がないので、もっとチヤホヤされても良いんじゃないかとは思いますね。特に関西演劇祭はまだ世に出ていない人たちも多いので、賞をもらうことで熱量が変わっていくと良いと思います。かもめんたるも、キングオブコントに優勝して変わったでしょ?」
岩崎「そうですね。僕らはちょっとそれを支えきれなかったですね(笑)。でも自信はつきました。自分が好きなことをやっても良いのかなと」
板尾「それはあるよね。やってきたことは間違っていなかったんだなと。俳優は賞を意識して芝居するわけではないから、関西演劇祭でも賞を獲った子が凄いびっくりするんですよ。主役だけじゃなく、10番手くらいの人が賞を獲ることもあるので。むしろ主役で上手いと評価されている子はもうそのままで良くて、才能があって可能性がある子に、ちゃんと見ている人がいること、それで間違いないよと伝えることが出来たらと思いますね。俳優は芝居だけではなかなか食べていくことが出来なくて、さらにコロナ禍だと不安になったじゃないですか。それで辞めてしまったらもったいない。そういう人たちにスポットが当たる機会を作って行きたいですよね」
板尾創路さんがフェスティバルディレクターを務める関西演劇祭2023は、11月に開催予定。劇団かもめんたるS.ストーリーズ公演『S.ストーリーズvol.2』は座・高円寺1にて8月12日(土)から開幕です。
ドラマやCM、演劇の中にあるお笑いを追求していくことで、“笑いの伝道師”になりたいと語った岩崎う大さんと、「居場所ってあるからね」と返した板尾さんの言葉が印象的でした。