2024年も残すところわずかとなりました。1年の締めくくりとして、今年観た演劇・ミュージカルについて振り返ってみませんか?今回、筆者が観劇したミュージカルの中で特に心震えた作品3つを紹介します。

人間はきっと分かり合えると信じたくなる、ミュージカル『王様と私』

1つ目は、2024年4月に日生劇場で、5月に梅田芸術劇場で上演されたミュージカル『王様と私』。1951年にブロードウェイで初演されて以来、世界中で愛され続けている作品です。劇中歌の「Shall We Dance?」を耳にしたことのある人も多いのではないでしょうか。

舞台となる1860年代のシャムは、現在のタイ。国王とイギリス人家庭教師のアンナが反発しあいながらも次第に心を通わせていく様子が描かれます。

とりわけ印象深かったのが、王様の人間らしいキャラクターです。

絶対的な権力のもとで臣下を従え、何人もの妻を持つ王様は、まさに筆者が思い描いていた“王様”のイメージ通り。一方で、王様には別の一面も見られます。欧米列強がシャムの植民地化を目論んで迫りくる中、もはやこれまでのやり方は通用せず、時代の変化に対応しなければならない。そうした先見の明から、子どもたちに西洋の知識を身につけさせようと、アンナを教育係として雇います。もし王様がただの傲慢な支配者だったら、きっとアンナとは最後まで相容れず、国も傾いていたかもしれません。

何が正しいのか、どうすればいいのか。苦悩する王様の心境を語る「パズルメント」を聞いて「王様も人間なんだな」と親近感を覚えました。

国籍、身分、性別、価値観。それぞれの違いは、時に分断の要因ともなります。しかし、相手と真摯に向き合えば、壁を乗り越えて互いに分かり合えるはず。本作を見終えたときに胸の内に芽生えた希望を、忘れないでいたいと思います。

全てにおいて圧倒的な世界観!ミュージカル『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』

2つ目は、トニー賞で10部門を受賞した大ヒットミュージカル『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』です。2023年の日本初演時は東京公演のみでしたが、2024年は東京に加え大阪でも上演されました。

1899年のパリ、アメリカ人作曲家のクリスチャンはナイトクラブのムーラン・ルージュで花形スターのサティーンと出会い、恋に落ちます。デュークという貴族のパトロンの目を盗み、密かに逢瀬を重ねる2人。危険な愛の行く末に、ハラハラドキドキさせられます。

何よりもまず、舞台装置から演出に至るまでとにかく“豪華絢爛”という表現がぴったり。筆者はその世界観に終始圧倒されっぱなしでした。劇場に足を踏み入れた瞬間、そこはもうムーラン・ルージュ。「みんなでCANCAN!」の誘い文句にテンションもぐっと高まり、気分はまるでクラブに遊びに来たボヘミアンです。おまけに音楽は数々の名曲をマッシュアップしていて、馴染みのあるメロディにノリノリ。「これがエンターテインメントだ!」と五感全てに刻み付けられるような時間でした。

個人的には、サティーンの歌う「Firework」より「扉がすべて閉まっているのは、自分だけのひとつ開くため」という歌詞が深く心に残りました。今の境遇を嘆いても決して自分の人生を諦めない、そんな意思の強さが伝わってきて、思わず涙が。また、サティーンをそっと見守り、クリスチャンの良き友人となるロートレックも味わい深いキャラクターで、筆者の推しとなりました。

ちなみに、原作であるバズ・ラーマン監督の同名映画とミュージカル版には、楽曲やストーリーに違いがあります。ぜひこちらもご覧あれ。

(関連記事:真っ赤に染まる夏が帰ってくる!『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』囲み取材リポート

絶望を希望に塗り替えるミュージカル『ゴースト&レディ』

2024年5月から11月にかけて上演された、劇団四季のオリジナルミュージカル『ゴースト&レディ』。東京公演のみだったため筆者は現地で観劇できず、千秋楽の配信を視聴しました。

原作は藤田和日郎先生の中編コミックス『黒博物館 ゴーストアンドレディ』で、ミュージカル『ノートルダムの鐘』を手掛けたスコット・シュワルツさんが演出を担当しました。

ヒロインであるフローのモデルは、「近代看護の母」と称されるフローレンス・ナイチンゲール。看護の道を志すフローがシアターゴーストのグレイにあるお願いをするところから、物語が動き出します。

フローがグレイの助けによって再び生きる意味を見出す一方で、孤独だったグレイの心にも希望の灯りが差し込むように。2人がだんだん絆を深め、お互いになくてはならない存在となっていく過程に、何度も何度も胸が熱くなりました。特に1幕ラストの「不思議な絆」は、名曲ぞろいの本作のなかでも筆者が一番好きな曲です。2人なら絶望だって希望に変えられる、だからこそ「この愛は、絶望を知らない」というキャッチコピーにつながるのだなと思いました。

劇団四季では、作品に「人生は素晴らしい、生きるに値する」というメッセージが込められているかを重視しているそうです。自らの信念を貫いたフローとグレイの生き様は、まさにそのメッセージを体現していると思います。

しばらくゴスレロスに陥っていた筆者ですが、嬉しいことに2025年5月には名古屋、12月には大阪にて上演予定。「来年こそは生の舞台を観たい」と今から意気込んでいます。(関連記事:劇団四季の最新オリジナルミュージカル『ゴースト&レディ』2024年5月開幕!

もこ

2024年の観劇を振り返ってみて、改めて自分が「どんなことを感じたのか」を思い出し、考え直すきっかけになりました。来年もさまざまな作品に触れられたらいいなと思います。なお、現在「Audience」では、心に残った作品について投票する「Audience Award」を開催中です。締め切りは12月31日までなので、ぜひみなさんの観劇愛をお聞かせください!