俳優・小野田龍之介さんの連載企画「小野田龍之介と春夏秋冬さんぽ」。1年間の連載は今月で最終号となります。2月に建て替えのために休館となった帝国劇場で撮影したお写真とともに、小野田さんが過ごした帝国劇場での最後の一日、そして現在出演中の『レ・ミゼラブル』大阪公演についてお話を伺いました。

帝国劇場の舞台上から、最後に眺めた景色

−帝国劇場 CONCERT『THE BEST New HISTORY COMING』にレギュラーキャストとしてのご出演、お疲れ様でした。大千穐楽、帝国劇場での最後の一日はいかがでしたか。
「公演が行われていた2週間、毎日のように“ゲストのこの方を帝劇で観るのは最後なんだな”とか、“お客様も帝劇に来るのは今日で最後かもしれない”と様々な想いが溢れる期間でした。最後の日は小学校の卒業式のような寂しさがあって、朝からずっとうるうるしてしまいましたね。みんな役者を辞めるわけではないけれど、もう友達と会えなくなるような感覚に近かったです」

−公演前の劇場ではどのように過ごされていましたか。
「ゲスト出演された市村正親さんが『ミス・サイゴン』の「アメリカン・ドリーム」のリハーサルをしていたので、それを笹本玲奈さんと客席から観させて頂いていました。その後、最後に3人で、舞台上で写真を撮りました。お2人と帝劇を眺めながらお話しした時間が、僕は本当に思い出深いです。笹本玲奈さんは僕が『ミス・サイゴン』で初めてクリス役を演じた時にキム役をやられていた方ですし、初めて帝劇の舞台に立った『ルドルフ 〜ザ・ラスト・キス〜』にもご出演されていました。市村正親さんにはずっとお世話になっていて、『ミス・サイゴン』のエンジニア役のラストイヤーでもご一緒できました。先輩の節目にご一緒できるというのは後輩にとって有意義なものであり、学ぶものがたくさんあります。最後と決めた時のエネルギーはとてつもないですから。そういった瞬間も、帝劇という場所がもたらしてくれたものだと思います。『ミス・サイゴン』という作品自体が帝劇に根付いた作品ですし、その作品でご一緒した市村さん、笹本さんと過ごせた最後の時間はかけがえのない時間でした」

−開演前にも特別な瞬間があったのですね。
「その後も楽屋にたくさんのスタッフさんが来てくださって、その中には僕が帝劇に出るようになってからずっとお世話になってきた方々もいらっしゃいました。“ここまで育ててくださってありがとうございました”とご挨拶していたら、また涙が止まらなくなってしまって。最後のコンサートに出演できる感謝と責任を改めて感じました。本番前も、僕は毎日舞台上にスタンバイしている井上芳雄さんと握手し、アンサンブルチーム1人1人に挨拶し、舞台監督と握手するのがルーティーンだったのですが、最後の日はその瞬間も涙が溢れてきてしまいました。いつも通りにやろうと思っていたものの、出演する本当に直前まで涙していましたね」

−公演を終えての心境はいかがですか。
「やはり寂しい気持ちは強いですし、帝劇が一度休館することで、変わることも色々とあると思います。これからどうなっていくかは分かりませんが、良い方向に変わるように僕も頑張らなくてはいけないと思います。人間はどうしても“あの時の方が良かった”と過去を懐かしんでしまいますが、“良い時代になってきたね”と言われるような演劇界、ミュージカル界を作っていきたいです」

『レ・ミゼラブル』大阪公演でのリベンジへ

−そして3月からは再びミュージカル『レ・ミゼラブル』にジャベール役で出演です。役に戻るためにやっていることはありますか。
「ジャベールは橋から飛び降りて自死する役柄なので、凄く辛い気持ちになります。正義を持っていた人間が急激に追い込まれていく過程を演じるので、どうしても演じていると体が重たくなり、気持ちが重たくなっていくんです。今回のジャベール役は若さや明るい声色を忘れないで欲しいと稽古で繰り返し言われてきたのですが、やはり公演でずっと演じていると重たくなっていくのを感じていました。そういった点では、コンサートで一度役から離れたので、冷静になり、また稽古時の感覚を思い出せる時間になったと思います」

−梅田芸術劇場は、帝国劇場と音の響き方は変わりますか。
「変わりますね。声が響きやすいので、感情的になりすぎると言葉が聞こえにくくなります。一方で歌い上げやすい、歌っていて気持ちよくなりやすいのですが、そうすると音楽から遅れてしまうので、明確にメロディーで言葉を紡げるよう、気をつけなければいけないと思っています。大阪公演前の稽古でもそういったことを気にかけながら調整を行いました」

−大阪公演は2021年にコロナ禍で全公演中止となって以来の上演ですね。
「当時のことはよく覚えています。福岡公演が途中で中止になったのですが、大阪公演は出来ると信じて待っていました。ホテルに滞在しながらキャスト同士で、電話で励まし合ったり、どうなるんだろうと話したりしていました。中止は僕たちキャストにとってもショックでしたし、お客様にも本当に申し訳なかったです。役は変わりましたが、今回でリベンジを果たせるのはとても嬉しいです。僕もカンパニーも良いコンディションで公演を届けたいですし、4月の福岡公演もしっかり完走して、リベンジを果たしたいと思います」

撮影:木南清香、ヘアメイク:野中真紀子、スタイリスト:津野真吾(impiger)

ミュージカル『レ・ミゼラブル』の大阪公演は3月28日(金)まで梅田芸術劇場メインホールにて上演中。4月6日(日)から30日(水)まで博多座にて上演。公式HPはこちら

Yurika

帝国劇場での最後の一日について、溢れ出るような熱い思いを語っていただきました!小野田さんと1年間、さまざまな場所を「おさんぽ」し、リアルタイムで心境を伺ってきた連載。楽しんでいただけていましたら幸いです!ご愛読ありがとうございました。