12月16日(金)から、KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオで上演される舞台『沈丁花』。劇団「あやめ十八番」代表で作・演出家の堀越涼さんによる完全オリジナル脚本で、温泉旅館の女将を山田真歩さんが、その秘湯を気に入る旅行雑誌ライター油木を松島庄汰さんが、油木の20年後(現代)を大沢健さんが演じます。物語は現代と過去がリンクしながら進み、2人の油木は交互に舞台に登場して…。演劇メディアAudienceでは、堀越さんに「芝居を作っていく面白さ」を訊きました。

専門家が集まってつくる舞台。演出はあくまでまとめ役です

―インタビュー前編では「本読み」と「演出」について伺いましたが、本読みの次の段階を教えてください。
堀越涼(以下、堀越) 読み合わせが終わったら、次はミザンス(舞台上における役者の立ち位置)の稽古ですが、僕はミザンスにも時間をかけます。俳優さんは大変ですが、今回の舞台『沈丁花』は舞台装置が特殊なので、まず現場と仲良くしてほしいなと。

―ランプを受け渡すシーンを何度も何度も繰り返していました。
堀越 一見、簡単なことを簡単にやるだけですが、僕の中で、「これって面白いの?」と誰かが呼びかけるんですよ。そこで自分が「面白いよ」って答えられないと僕は前に進めない。その問いかけになるべく答えられるようにしたいという芝居のつくり方なので、今日も苦戦しながらつくっていきます。

―舞台が“2度傾いている”のも特殊ですね。
堀越 舞台構造上、この方が見やすいという美術からのオーダーでしたが、僕は変なこととか、新しいことは全部OKを出しちゃう(笑)。人が真剣に考えてくれたことが好きなんですよ。舞台装置も、音楽も、衣装も、その専門の人が考えた時間は自分より長い。かけた時間を信用するタイプなんです。

―それは俳優も同じですか?
堀越 俳優さんもご自身の役について考える時間は僕より圧倒的に長いはずだと信じています。でも、作品を書いている時間も含めて、台詞へのこだわりは自分が一番持っている。本読みなどで、台詞をアドリブで変更する俳優さんがいますが、「この台詞ひと言にかけた時間は僕の方が長いので、僕の台詞を優先してください」と言います。手軽なモノには飛びつきたくない。

香取神宮の参道でお団子屋さんをやっています

―堀越さんは普段はどういう生活をしているんですか。
堀越 33歳まで東京で演劇中心の生活をしていて、結婚を機に成田に引っ越して、田舎の暮らしが始まりました。それから芝居は1年に1本になってきました。普段は、千葉・香取神宮の参道にある「梅乃家本店」でお団子を売っています。

―ご実家なんですか?
堀越 そうです。お団子屋さんと演劇人の2足のわらじです。

―そういう暮らしをしていて、芝居に対する思いや距離感は変化しましたか。
堀越 1年に1本つくるようになって、その1回にかける体重のかけ方は変わりましたね。怖さはもちろんありますが、だからこそできるものもあるし、向かっていく感じも、「さて、演劇が始まるぞ」と。舞台『沈丁花』は千葉に引っ越したから書けた千葉の話です。随分前に書いた脚本ですが、本読みをしてみて、面白い本だなと改めて思いました。お芝居をつくっていくのは楽しいですね。

―では、KAAT神奈川芸術劇場に観に来るお客さんに作・演出家からメッセージを。
堀越 僕は自分から「この芝居は面白いから観に来てください」とはあまり言わなくて、それは僕が作っているんだから僕が面白いと思うのは当たり前です。僕が面白いと思ったものをつくって、それをお客さんにも楽しんでほしい。KAATでの5日間・8公演、お客さんがたくさん入って、役者さんがいっぱい褒められてという舞台にしたいです。

インタビュー前編はこちら

舞台『沈丁花』
【脚本・演出】堀越涼(あやめ十八番)
【音楽監督】吉田能(あやめ十八番)
【出演】山田真歩、松島庄汰、大沢健、藤原祐規、少年T、和合真一、宇佐卓真、アンサンブル
企画・製作:CCCreation
2022年12月16日(金)~12月20日(火)/KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
公式サイト
チケット(カンフェティ)

Makoto Kajii

作・演出家の堀越涼さんが舞台『沈丁花』の脚本を書いたのは2年ほど前だそうです。プロデューサーの宮本さんから「自由に書いてください」と言われて、ストーリーとタイトルを一緒に考えながら書き進めた脚本は、山に咲いている香りの良い花「沈丁花」というタイトルと見事にマッチ。 ステージは音楽と効果音まですべて楽隊による生演奏という「あやめ十八番」が得意とする手法を用い、あやめ十八番の音楽監督が演奏を指揮。2022年の観劇体験の〆を飾るのにふさわしい公演にぜひ足をお運びください。