4月22日にシアタークリエにてミュージカル『CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~』が開幕。初日と翌日の公演を観劇し今作に魅了された筆者がレポートをお届けします。(※ネタバレ注意)

音楽を奏でるたびに近づく死。天才ヴァイオリニストの苦悩の選択

自分にヴァイオリンの才能がないと気付くくらいに才能があったニコロ・パガニーニ。母テレーザや周囲からの期待に押しつぶされそうになった彼は、人生の十字路に立った者にしか見えない音楽の悪魔・アムドゥスキアスと出会ってしまいます。

パガニーニはアムドゥスキアスに操られ、自分の命と引き換えに100万曲のメロディーを奏でられるという血の契約を締結。しかしこの契約には条件がありました。ひとつめは、ヴァイオリンの楽曲をアムドゥスキアスのためだけに弾くこと。ふたつめは、アムドゥスキアスが弾けと言ったら弾くこと。この条件が後々パガニーニを苦しめることになります。

実際に悪魔と呼ばれていた天才ヴァイオリニストのパガニーニ。アムドゥスキアスというキャラクターで悪魔を表現し、血の契約により音楽を奏でれば奏でるほど命を削られていくという設定がとても興味をそそられました。

執事のアルマンドがストーリーテラーに。盆を利用した場面転換

鳴り響く雷と雨音が、物語の世界に吸い込まれるスイッチとなり幕を開けます。パガニーニの生前、執事として彼に仕えていたアルマンドがストーリーテラーとなり、ジプシーの娘・アーシャに過去のエピソードを語るという形で物語が進行。アーシャもアルマンドの話を聞きながら、パガニーニと過ごした日々を思い返します。

過去の出来事となる回想シーンと現在との場面転換が多い今作。ステージには盆という回転式の舞台が設置されており、重要な役割を果たします。筆者の個人的な感想を述べると、暗転の場合一旦気持ちが現実に戻ってしまうことがあるのに比べて、回転舞台の場合は物語の世界に入ったまま気持ちを次の場面へ進められました。また回想シーンと現実の切り替えがわかりやすいという点でも効果的な演出だと感じます。筆者が今作に魅了されたのは、この演出が好みだったというのも大きいかもしれません。

ヴァイオリンの演奏をダンスで表現

ミュージカル『CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~』では、ヴァイオリンの演奏シーンをダンスで表現。パガニーニやアーシャがヴァイオリンと弓を持ち、華麗に踊る姿は釘付けになります。どのキャストも本当に素晴らしかったのですが、筆者が特に印象に残ったのは相葉裕樹さんが演じるパガニーニの演奏シーン。スラーッとした手足をしなやかに動かし曲線を描くような相葉さんのダンスは、上品さもあり「美しい」という言葉がぴったり。初日の公演では踊っている時に弓の毛が切れていましたが、その切れた毛が照明に当たってキラキラ光り、相葉さんが演じるパガニーニの美しさをより一層引き立てているようにすら見えました。

圧巻の歌唱!十字路で出会ったアムドゥスキアスとパガニーニの「血の契約」

ミュージカル『CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~』は全シーンが尊く感じられるほど見どころがたくさん。その中でも最も心を掴まれた見せ場と言えば、やはり1幕の「血の契約」ではないでしょうか。ヴァイオリンの才能に限界を感じ絶望したパガニーニが、中川晃教さんが演じる音楽の悪魔アムドゥスキアスと出会い、血の契約を結ぶシーンです。

アムドゥスキアスの「呼んだでしょ?私を」から始まる、心をざわつかせ吸い込まれるメロディー。苦悩するパガニーニの心の隙間に器用に入り込み、高音の歌声で操りながら100万曲の演奏と命を引き換える契約を結ばせてしまいます。アムドゥスキアスがパガニーニの髪の毛を結んでいたリボンを背後から解く演出は、色気に溢れ魅惑的。目の前で繰り広げられる圧巻のバトルに、気付けば口が開きっぱなしになっていました。最初は少し抵抗しているかのように見えるパガニーニがアムドゥスキアスの支配下に入った瞬間、何とも言えない切なさが胸に広がります。歌唱シーン後の拍手はこの場面が一番大きく感じられ、客席中から素晴らしい!という声が聞こえてくるようでした。

愛おしい登場人物とストレートな詞が心に刺さる楽曲

今作に登場する楽曲は、詞がわかりやすくストレート。キャストの歌唱力も素晴らしく、感情のこもった歌声が心にグサグサと刺さります。アナザーストーリーが浮かびそうなソロ曲はどれも切ない思いで溢れており、全ての登場人物に対して愛おしい気持ちでいっぱいになるのではないでしょうか。

「ヴァイオリンがなければ絶望もなかったのに」と苦しい思いを歌うパガニーニ。何度あしらわれても、「私に音楽を教えて」とパガニーニのファンとしてそばにいたアーシャ。パガニーニの奏でる音楽が変わったことに真っ先に気付いたコスタ先生。自分が愛すれば愛するほどパガニーニの命が削られることを知り、「自由をあげる」と彼から離れるエリザ。どんな状況でもパガニーニを「私の息子だから」と信じ続け、愛情を注いだ母テレーザ。時には父親のようにパガニーニを叱り時には優しく見守る執事のアルマンド。最悪な初対面から最後には友となったベルリオーズ。そしてパガニーニに執着しながら、どこか寂し気な表情が見えるアムドゥスキアス。楽曲から人物像を深く知り、それぞれの愛や苦悩を感じられるのもこの作品の魅力です。

SNSでのタグ検索で感想を共有!

今作の観劇後、余韻をさらに楽しむ方法があります。それは、x(旧Twitter)で「#ミュージカルクロスロード」と検索し、感想を共有すること。こちらのタグは、公式アカウントが感想をポストする際に使用して欲しいと提案したもの。2日目の公演のカーテンコールにて挨拶をした出演者の方も呼びかけていました。観客の数だけ受け取り方や注目ポイントも違うため、感想や考察を読んで気付くことも多くあります。

また原作・脚本・作詞を担当した藤沢文翁さんを始め、キャストの方々も作品やパガニーニについてのエピソードを度々ポストしており、さらに深く作品について学べるのではないでしょうか。東宝の公式YouTubeチャンネルでは、今作の劇中に登場する楽曲の歌唱動画が多くアップされています。Wキャストの2人が一緒に歌ったり、ソロバージョンで歌ったりとYouTube動画だけの特別バージョンが聴けるのも魅力。観劇前の予習、観劇後の復習に活用してみてはいかかでしょうか。

ミュージカル『CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~』は東京のシアタークリエにて5月12日まで上演。その後5月17日から19日まで大阪の新歌舞伎座、5月24日から26日まで福岡の博多座にて上演されます。公式HPはこちら

かずちぃ

初演からのファンの方、初見の方、キャストやバンドメンバー、制作スタッフなど本当に多くの方々に愛されている作品だと感じます。アンサンブルキャストの歌唱やお芝居にもとても引き込まれる今作。リピーターチケットが販売されているので、お近くの方はキャストの組み合わせを変えて観劇するのもおすすめです。筆者にとって忘れられない作品となったので、いつかまた再々演で悪魔に会える日を楽しみにしています。