12月に開幕するミュージカル『レ・ミゼラブル』でジャベール役を務める石井一彰さん。長年出演しているドラマ『科捜研の女』シリーズでの蒲原刑事の印象が強い石井さんですが、実はデビュー作はミュージカル『レ・ミゼラブル』。縁のある作品に戻ってこられた石井さんに、ジャベール役に挑む心境を伺いました。
『レ・ミゼラブル』でデビュー、当時は「謙虚になりすぎてしまっていたかも」
−石井さんは2006年に創設された東宝ミュージカルアカデミーの第一期生で、卒業公演では『レ・ミゼラブル』マリウス役、デビュー作も『レ・ミゼラブル』(2007年)です。
「縁のある作品だなと思います。2007年に出演した『レ・ミゼラブル』は、自分からしてみると大スターの方々がジャン・バルジャンやジャベールを演じていらしたので、圧倒されていました。出演者も多く、全ての規模が大きい作品の中で、自分はどうやっていこうかと考えていた記憶があります。初めての舞台でしたし、カンパニーの中で年下だったこともあり、今思うと謙虚になりすぎてしまっていたかもしれません」
−当時、いつかこういう役をやりたい、という思いはあったのでしょうか。
「全くなかったですね。毎日が必死すぎて、いかにここで結果を残すかだけを考えていたので、先のことというのは考えられなかったです」
−東宝ミュージカルアカデミーに入る前は、学習院大学で経済学部経営学科を卒業されています。ミュージカルに関心を持たれたのはいつ頃だったのでしょうか。
「幼少期から親に舞台に連れていってもらっていて、舞台って素敵だな、夢があるなという思いはあったのですが、ミュージカル俳優になろうという強い思いが芽生えた時期というのは明確ではなくて。ただ大学を卒業してやりたいことを考えた時に、ミュージカルに挑戦してみたいなと思って、東宝ミュージカルアカデミーのオーディションを受けてみたんです」
−東宝ミュージカルアカデミーに入ってみて変化があったのでしょうか。
「そうですね、演じることの面白さに気づかされたというのはあると思います。それから、みんなで1つの作品を創るということが楽しかったんです。元々ラグビーなど、みんなでやるスポーツが自分にしっくりきている感覚があったので、みんなで1つの作品に向かって稽古して、お客様に見て頂く楽しさというのは、アカデミーを通して知ることができました」
−2007年、2009年と『レ・ミゼラブル』に出演後は、作品を観劇されたことはありましたか?
「何度か観劇しました。2019年に、上山竜治くんがアンジョルラス、海宝直人くんがマリウスを演じていて大阪に観にいったのを覚えています。久しぶりに観て、やっぱり良い作品だなと思いましたね」
ジャベールを意識した、ドラマ監督に言われた言葉
−今回、『レ・ミゼラブル』のオーディションを受けようと思われたのは、何かきっかけがあったのでしょうか。
「30歳から映像作品に出させて頂くようになっていって、いつか舞台にもう一回挑戦したいという思いはあったんです。それでいつ挑戦しても良いように、発声や歌などの準備はしていて。昨年『ダーウィン・ヤング 悪の起源』に出演して、毎日役と向き合えて、仲間と一緒に創る舞台はやっぱり楽しいなという思いもあったので、マネージャーからオーディションの話を聞いて、挑戦してみようと思いました」
−『レ・ミゼラブル』に様々な役柄がある中で、ジャベール役を選んだのはなぜだったのでしょうか。
「ガブローシュ(子どもの役)は難しいと思うので…(笑)。ただ実は、もう一度舞台に挑戦したいと思った時、特にこの作品に、ということではなかったのですが、『レ・ミゼラブル』を少し意識した瞬間があったんです。それは30代前半の頃、ずっとお世話になっているドラマの監督さんとお話ししていた時でした。これからずっと映像でやっていくの?という話になって“40歳でもう一回舞台に挑戦したいと思っています”と言ったら、“長く刑事役、正義と向き合う役をやっているんだから、『レ・ミゼラブル』のジャベール役とも通ずるものがあるかもしれないよ”と言われたんです。そこからオーディションを受けるまでに数年経っていますが、その言葉が頭の片隅にあったから、ジャベールを選んだのかもしれません」
−そう思うと運命的ですね。出演が発表されて、反響はいかがでしたか。
「出演が決定してから発表されるまでに時間があったので、皆さんはどのように反応してくれるんだろうという期待と、“石井一彰って誰だよ”って言われたらどうしようという不安もありました。ただ発表されたらファンの皆さんがもの凄く喜んでくれましたし、“おかえり”という言葉が嬉しくて。そうやって喜んでくださる方のために、必死になって頑張ろうと思いました」
バルジャンを絶対に逮捕したいという執着心を大事に
−今は歌稽古や衣装合わせを行っている段階ですが、ジャベールという役に踏み込んでみて、いかがですか?(インタビューは9月下旬)
「歌稽古の最初は和やかで笑いもある感じだったのですが、徐々にヒートアップしていって、歌唱指導の方も“そろそろ本気出そうか”と仰って。カンパニー全体の空気としても作品にどっぷり浸かっていっている感じはしています」
−ジャベール役と蒲原刑事の共通点、リンクする部分は見つかりそうでしょうか。
「蒲原刑事は刑事だけれど、人としての正義を重んじていて、犯罪者に対しても“悪いことをするには何か理由があったんじゃないか”“こんなことがなければ犯罪は起きなかったかもしれない”という思いを持っているキャラクターなんですね。一方でジャベールは法律を重視している人で、最後にバルジャンの人としての正義に触れて、混乱が起こる。法の番人として生きてきた人物が、最後に人としての正義に触れて引き裂かれるような葛藤を描く時に、蒲原刑事の心情の引き出しというのが使えるんじゃないかなと思っています」
−どのようにジャベール役を創り上げていきたいと思われていますか。
「ジャベールはヒール役ではなく、バルジャンとは裏と表の関係性なので、悪者には見えたくないのですが、バルジャンを絶対に逮捕したいという気持ちの強さ、ある種の執着心みたいなものは見せていきたいと思っています。最初は牢獄にいる1人の囚人だったのが、様々な出会いを経て、“絶対に捕まえる、俺が正義だ”と執着し始める。それを強く押し出すことで、最後の葛藤がより生きると思うので。これから稽古で色々と試していく段階ではありますが、彼の気持ちの強さや執着心は大事にしていきたいです」
ミュージカル『レ・ミゼラブル』は12月16日(月)から帝国劇場にて開幕。(12月16日から19日はプレビュー公演、本公演は12月20日(金)から)その後、全国ツアー公演が行われます。現・帝国劇場で最後の『レ・ミゼラブル』、お見逃しなく。公演の詳細は公式HPをご確認ください。
デビュー作も『レ・ミゼラブル』、『科捜研の女』での蒲原刑事の経験もジャベールに繋がっていく…とても運命的なお話に思わず鳥肌が立って感動してしまいました。インタビュー中はとっても気さくで、お茶目な面もある石井さんが、どのようにジャベールを創り上げていくのか本当に楽しみです。